約束の時間ピッタリに、Piっという電子音がしてホテルの扉が開いた。
顔を見せるのは和。
悪びれもせず、ニコッと笑われると、誘ったこっちの方が肩身が狭い。
「良いのか?」
「どうしてそんなこと聞くの?誘ったのはあなたでしょ?」
まぁ、そうなんだけど・・・。
無造作にバックを椅子に投げ、俺の方にやってくる和の腕を引けばしな垂れかかるように俺に体重をのせた。
ドラマの撮影現場、ケータリングの乗った机の隅に、花が飾られていた。
何の気なしに眺めていると、
「松本くん花に興味があるの?」
と共演者の女性に言われた。
「いや、今度撮影でリーダーと華道に挑戦するんで、何となくリサーチしとくかな・・・と」
「へぇ・・・。色々なことにチャレンジするのね。何のお花使うか解っているの?」
「さすがにそこまで解らないっすよ。ちなみにこの花はなんていうんですか?」
シュッと伸びた茎に百合のような花がいくつもついている。色味の濃い花・・・。
「これは、グラジオラス。紫だから『情熱的な恋』って花言葉じゃなかったかしら?」
その後グラジオラスにはまた違う花言葉があるのを知り、俺は、しかけてみた。
「何です?J?」
撮影現場で何も言わず、和の前に手折ったグラジオラスを1つ置いてみる。
今日の撮影は、遅くなる。と言っても日を跨ぐほどじゃない。
和がこの意味に気が付けば、次にとる行動はおのずと決まってくる。
少し考えるように、ゲームの手を止め花を手にすると、立ち上がりすたすたと俺の方にやって来て、
胸ポケットに入れておいたカードキーを無言で抜き取り代わりに花を入れた。
「・・・ぁぁ・・・はぁっ・・・」
「んんっ」
部屋の中は2人の声と、水の音。もっと深く繋がりたくて、背中を押し、腰を上げさせる。
和の内に入れば入るほど、俺の頭の中は、全てが和で充たされていく・・・。
「それにしても・・・」
俺の腕の中で息を整えながらカズが嗤う。
「古風な事を・・・」
「ただ誘うだけじゃ、マンネリだからね」
ニヤリと嗤い和にキスを落とす。
そう、グラジオラスのもう1つの意味、
古代ヨーロッパにおいて、人目を忍ぶ恋人たちがこの花の数で密会の時間を知らせていたことから『密会』、『用心』。
そう、俺達の中は人目を忍ぶ。和にも俺にも帰る場所がある。
「今日は?」
「今日はあの人いないから。あなたも、でしょ?」
「そうだな。今日はこのまま朝までいようか・・・」
和を強く抱きしめ、舌を絡める深いキスをする。
「好きですよ、潤・・・」
「好きだよ、和・・・」
嘘の言葉。でも、今だけは、本当の言葉・・・。