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ж 45 ж 北風と太陽

 投稿日時 2011/1/16(日) 午前 6:28  書庫 猫の間  カテゴリー
 




 「おーい、太陽さん。2500年前の勝負をもう一回やってみませんか?」
 「おや、北風さん。リベンジ戦という訳ですね。いいでしょう。受けて立ちますよ。」
 「ずいぶんと自信ありげですね。でも昨今は温暖化とやらであの時の様にうまくいくかどうか」
 「なんのなんの。そのおかげで更なるパワーアップ。絶対に負けませんよ。それよりも北風さんの方が温暖化で弱っているのではないですか?」
 「そんな事は無いですよ。私も温暖化で冬の嵐パワーアップですよ。」
 「では早速勝負しましょうか。今回は私からいかせて頂きますよ。」
 「いいですよ太陽さん。さてさてあの時の様にうまくいきますかどうか。」
 「え~と、マントを着た旅人は……。あれっ?北風さん、マントなんて着てる人いませんよ。」
 「ありゃりゃ、そうですね。旅人は結構いますが……。みんなユ○○ロのエ○○ックとかばかりですね。」
 「う~ん、どうしましょうか。あれでいきますか?」
 「そうですねー……。やっぱりなんかこうしっくりとこないですねー。」
 「あっ、あれなんかどうです?以前とそう変わっていないし、やっている事なんか全く同じですよ。」
 「そうですね。ではあそこで日向ぼっこをしている猫をひっくり返しておなかを見る事が出来た方が勝ちという事でいいですね?」
 「ふふふ。簡単な事ですね。いいですよ。では。」
  『ジリジリ』
 「いかがです?北風さん。ちょっと日差しを強くしただけで丸まっていた猫が伸びてきましたよ。」
 「なんの。まだまだ。」
 「これはほんの序の口。それもっと。」
  『ジリジリジリジリ』
 「ほら横になりましたよ。それっ、もっともっと。」
  『ジリジリジリジリジリジリジリジリ……』
 「さあ猫さん、その勢いでくるっとひっくり返って。さあ、猫さん。」
 「おやっ?猫が立ち上がってしまいましたよ。」
 「あっ、あっ、猫さん何処行くの?あーっ!しまった!!家の人がクーラーをつけてしまった。」
 「おやおや、部屋の中で気持ちよさそうに丸まってしまいましたね。太陽さん、あなたの負けですよ。」
 「いやいや、北風さん。あなたも出来なければ引き分けですよ。さあ、どうぞ。」
 「ではあちらの猫にそれっ!」
  『ピューピュー』
 「北風さん、やはりだめですよ。猫は更に丸くなりましたよ。」
 「なんのなんの、それもっと。」
  『ピューピューピューピュー』
 「ますます丸くなりましたね。あれでは吹き飛ばしてもおなかは見えませんよ。」
 「いや、いや。それっ、もっともっと。」
  『ピューピューピューピュー……』
 「わはは、北風さん。猫が立ち上がりましたよ。やっぱり家の中に入ってしまいますね。」
 「ふふふ。これからが勝負ですよ。太陽さん。ほらご覧なさい。」
 「あっ、部屋の中にはこたつとファンヒーターが!」
 「さあ猫さんそこです。そこでねっ転がって。」
 「あーっ、あんなに気持ちよさそうに体を伸ばして……。」
 「そろそろ来ますよ。そろそろ。」
 「あーっ!」
 「おーっ!出ました。大の字寝。太陽さん、今回は私の勝ちですね。」
 「いやー、北風さん。まいりました。」 

 うちには妙な温度計があります。いや温度計と言うほど正確なものではありませんね。温度目安計です。
 それは寒い時は「○」で暖かいと「へ」で暑いと「―」と表示されます。ネックは目安計自体が「○」を嫌って「へ」へ移動しやすく外気温なんてめったに表示してくれない事です。また「―」もその時々で「へ」へ移動してしまいます。
 この目安計とは、もう言うまでもないですね、猫です。
 猫の寝姿の基本姿勢は「○」です。ぐっと体をダンゴ虫の様に丸めて後足を枕にするようにして寝ています。
 この「○」はたいてい寝入りばなの姿で、寒いとそのままですが眠り込んでいくにつれてその「○」が緩んでいくのが暖かい時。もっと暑い時期ですと「○」を省略して緩んだ状態、つまり立っていてそのまま横にパタンと倒れた姿から更に伸びていくパターンになります。もっとも、「リラ」ばぁちゃんは年のせいか夏でも「○」で寝ている時がありますが。
 いづれにせよその加減に違いはあるものの背骨を曲げて寝るのが猫の寝姿ですね。暑い時の「―」にしても少しは背骨が弧を描いています。
 子供の頃の私が住んでいた環境は犬や猫を飼える環境にはありませんでした。集合住宅だったからです。ですから寝姿を見た事があるのはモルモットと小鳥と金魚くらい(金魚は寝ても起きても同じ姿なので寝姿を見たとは言えないかもしれませんね)。モルモットは大抵丸くなって寝ていましたし、小鳥は止まり木にとまったまま首だけをグリッと背中にまわして寝ていました。あとは野良猫が日向ぼっこがてら箱座りしてうつらうつら船をこいでいる姿を見た程度。
 人から見れば寝にくそうなスタイルなのにそれについては全く疑問を持っていなかったのです。その小さな頭の中には妙な事が吹き込まれていました。学校で習ったのだかテレビで観たのかは記憶にありませんが、動物とは眠っている時に敵に襲われてもすぐに逃げられる姿で寝ているのだ、と。だから小鳥は止まり木にとまったままでモルモットも猫もぱっと起き上がれるように寝ているのだと。極端なのはキリンは立ったまま寝ると。そしてもっとも無防備な仰向けで寝るのは人間と百獣の王ライオンだけだと。
 それからいく星霜。はじめて我が家に「こてつ」と「リラ」がやって来たのは五月も終わろうという頃。丸くなって母猫「おしま」に抱かれて眠る姿の愛らしい事と言ったら。
 少しずつ時は流れて「こてつ」達は常に母猫べったりではなくなって活発に遊びまわり疲れればどこででもかわいい寝姿を披露してくれる立派な子猫に成長。季節も夏になりました。
 そんなある日に大事件。「こてつ」が部屋の真ん中で仰向け大の字で死んでいたのです。
 大変だ!どうしたんだ!!
 でも奥さんは「かわい~ぃ」と笑っています。
 それまでの私の中の常識を覆す出来事でした。人間とライオン以外の生きものが腹を上にする時は死んだ時だという思い込みが。
 その夏、「こてつ」はちょくちょくそのユーモラスな寝姿を披露してくれました。
 それ以来、「こてつ」も百獣の王の仲間なんだなー、と感心したりもしたのですが、どうやら絶対的な安全圏にいる動物は仰向け寝をする物が多いようです。その代表がペットと動物園の動物ですね。
 昔はテレビで動物の放送と言えば「野生の王国」くらいの物で、面白動物ビデオ投稿、なんて類の物はありませんでした。だから動物は常に緊張感に満ちていて一瞬の隙も作らない物だと思っていたのですね。でも今ではテレビでもネットでもあちこちで猫だけでなくいろいろな動物がゴロゴロゴロゴロ。仰向け寝は「こてつ」だけの個性ではなかったのですね。
 「リラ」と「はな」もたまに仰向け寝をしますが、やはりちょくちょくやるのは雄猫の様です。で、現在のその代表が「まめてつ」。夏になるとあっちでゴロゴロ、こっちでゴロゴロ。いや、夏だけでなく冬もゴロゴロゴロゴロ。
 ところで最近気づいたのですが、このゴロゴロは夏よりも冬の方が発生率が高いようです。そしてよく見ると夏のゴロゴロはちょっと苦悶の表情。もう暑くてたまらん、というような顔をして寝ています。ところが冬のは極楽至極といった感じ。なぜなのでしょう。
 これは思うに、夏の場合はまず涼しい所を探します。そしてそこがいくらかでも涼しければそこにもっとも冷却効率のよい場所をくっつけて涼をとるという事、つまり夏は空気よりも床や鉄板の上(うちの場合は炊飯器のあるところの裏が鉄の棚なので)にお腹をくっつけているのが一番涼しいのだと。そしてそれが温まってしまったりすると最後の手段としてお腹を上にして空冷を行うのです。だから夏に仰向け寝をする時はもう暑くて暑くてしょうがない、どうしょうもない、という時なのですね。よって苦悶の表情に。(そこまで行ってるのに水冷を試みないのは大きな疑問。なんであんなに濡れるのが嫌いなんでしょう)
 それに対して冬は基本は同じなのですが、ホットカーペットでもストーブでもちょっと温まりすぎたらお腹を出して放熱。そしていろいろ場所を試しているうちに供給される熱と放出される熱がつりあう場所を見つけて長々と寝そべるというスタイル。こりぁー極楽至極です。
 これも結局は絶対安全という家の中での事なのでしょうがやはり仰向けは無防備すぎます。だってこたつの脇で大の時寝をしている「まめてつ」を見るとついついお腹にモフモフしちゃいますから。


 「でも北風さん。あのこたつとファンヒーターに使っている電気は私の太陽熱で発電したものですよ。」
 「……。」 


--第42号(平成22年2月7日)--
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