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ж 37 ж 駅前勾配

 投稿日時 2010/10/17(日) 午前 7:18  書庫 鉄道の間  カテゴリー 鉄道、列車
 

 

 

線路に沿った道を駅へ向かって歩いていると列車が来た。次の駅で私が乗る予定の列車と交換するやつだ。少し急がなければ、と思いつつも、いざ列車が間近に迫ると立ち止まって眺めてしまう。
 線路際で見る鉄道車両はとても大きい。加速中しつつある気動車の床下エンジンが目線より少し下くらいを通って轟音が響く。
 列車が遠ざかって、ハッと我に返る。
「いかんいかん急がなければ。」
 駅までは平坦な道。荷物は重いが歩くには苦にならない。程なく駅。歩道も何も無くノッペラとした駅前広場なので斜めに突っ切ってスッと駅舎に入る。小さな駅舎で入り口から改札口まで10歩を必要としない。その改札の向こうに列車が到着した。乗りこむべくステップに足をかけると平地を歩くのと違った足の動きで結構疲れているのを知った。その下では疲れを知らないエンジンが軽やかな音を立てていた。

 バスが駅に着いた。ノンステップバスというやつで歩道との段差は無く楽には楽だが、キャスター付きバッグではやはりヨイショと持ち上げないとその隙間は越えられない。降りた目の前はすぐにホーム。10歩ほどで電車に乗れそうだが、その間にはずっと柵が続いていてそれを阻んでいる。
 狭いエレベーターに乗って2階へ。カバンをゴロゴロさせて改札を通り、またエレベーター。ボタンを押して待つ。あっ、電車行っちゃった。

 昨今鉄道駅においてのバリアフリー化がかなり進んでいる。多くの駅にエレベーターやエスカレーターが付き、点字ブロックが道を示してくれている。一昔前は階段の所でチャイムが鳴っているのがせいぜいであった。
 ではなぜこの様な設備が必要になったのであろうか。特にエレベーターとエスカレーター。
 そこで始めの文章。
 道を歩いている時それは線路より低い所にあった。道に勾配は無く、そこから駅のホームまで階段も無かった。それなのにホームは列車乗降口の高さにある。何時の間にか1m以上も登っている。実は駅前広場に勾配があった。地方の駅などで良く見られたスタイルで、道路に沿っていた線路が駅に近づくと何気なく道路から離れ、そこに作られた駅前には無意味にも思える広場がある。バスや送迎の車が踵を返す訳でもなくただ駅舎を引き立たせ目立たせる為だけにあるような広場。それが実は道路とホームの高低差を埋めるバリアフリー設備となっていたのである。
 ただしこの恩恵を受けられたのは駅舎にくっ付いているホームだけ。対面のホームへ行くには多くの場合ホーム端から下って踏切を渡りまた登らなければならなかったが、それはスロープになっていて階段ではなかった。稀にホーム中央、改札の正面付近に線路へ降りる階段があってそこを渡る様になっている所もあったが(列車乗降時は駅員が蓋をしていた)、その様な駅でもしっかりとホーム端のスロープがあり、お年寄り等が利用していた。
 こうして書きたててみると昔の駅がとても弱者にやさしい様に思えるが、実はこれらの設備は荷物を運ぶのに便利な様に作られたものである。
 荷物を駅へ持って来る。荷車などで運んで来て駅の荷物窓口へ出すので段差は無い方が良い。駅員はその荷物をまたリヤカーなどに乗せてホームへ運ぶ。やはり階段があっては具合が悪い。
 ところが、時代が進み沿線の開発は進んで利用者は多くなったが荷物の取り扱いは止めてしまう駅が増えてきた。するとまず手をつけられたのが構内踏切。列車の本数が増えるなどの理由により「危険だ」という事に。そこで各駅に跨線橋が設けられた。すでに駅員が荷物を運ぶ事は無いので階段である。
 またかつて駅舎反対側の地域からでは道路踏切を渡ってまた構内踏切を渡るという大変面倒な物であったが、そこには大抵抜け道があって、常連さんは改札を通らず直接草の踏み分け道を通ってホームへ上がっていたのである。 
 しかし、利用者が増えるとその馴れ合いを維持するのが難しくなりホームと外界を隔てる強固な柵が張り巡らされた。そうなると駅反対側の人達からは、「不便だ、なんとかしろ!」の声が当然上がる。そこで反対側にも改札口を設ける。すると今まで駅裏だった地区も発展してくる。駅を挟んだ人の流れが発生する。駅が邪魔だ、の声が出る。改札を突破して近道をするワルガキも出る。そこで、
「解かりました。どちらからも駅に入れて、かつ自由に行き来できる様にしましょう。」
という事で橋上駅舎が誕生する。かくして、スロープであった駅前広場は車道部分が削られて歩道という段差が作られ、目と鼻の先にあるホームへ行くにも1度階段を昇り、そしてまた降りる、が強いられるようになった。
 ちなみに駅舎を地下化した方が人の背丈+αで済み、階段の段数を減らせる様に思えるが、停電や浸水の際危険なので橋上になったのであろう。
 さて、これにて万々歳と思われた橋上駅ではあるが、その宿命大いなる段差が問題となってきたのは周知のとおりである。そこでエスカレーター、エレベーターが急遽設けられ始めた。だが、それが始めから考慮された駅なら良かったのだが、早い時期に出来た橋上駅ではそれが計算には入っていなかった。よって、階段がやけに狭くなってしまったり、一生懸命探して遠回りしなければならないエレベーターが生まれた。東京駅では以前使われていた荷物用の煉瓦巻き通路を車椅子通路とした為大変不評だったそうである。

 

駅が複雑になった為点字ブロックもまるで迷路の様に張り巡らされる事となった。盲目の人には気の毒としか思えないような回り道をしているものもある。
 それなのにJRのホームページなどを見てみるとエレベーターの有無などが誇らしげに書いてある。それが使いやすいかどうかには触れられていない。無い駅はランクが低い駅です、と言っているかの様にも思える。
 そんな駅の1つが横須賀駅。
 この駅にはエレベーター、エスカレーターが無い。なんとひどい駅かと思われるかもしれないが、実はそれを必要としない。階段が無いからである。
 この駅は駅舎に面してホームが1本。なのに線路は2本。それは久里浜方面へ行き来する列車は駅舎正面に停車するが、横須賀止まりの列車はそのホームに食い込む様にある行き止まりの線路に入るため。よって横須賀行き列車の後に乗ると改札口までだいぶ歩かされるがその間段差は無い。
 これが本当のバリアフリーではないだろうか。 これを形を利用すれば地方の編成が短い列車が走る区間の駅で全くの無段差駅を作る事が出来そうだ。

 ホームの形は鉤型。中央に駅舎があり、駅舎正面と右側がホーム。右部分だけを複線にして列車交換はそこで行う。つまり右のホームに列車が停車中に正面ホームの列車が発車もしくは通過すれば良い。ホームがずれている分やはり歩く距離は長くなるが、渋谷のハチコウ前改札から埼京線に乗る事を考えればなんという事は無い。
 編成の長い都市部では高架線にする。ただし駅舎はその下には設けない。上下線の間をグイッと広げてホームをH型にし、真中の棒が駅舎、ホームの間はバスターミナル。
 地上を走ってきたバスは駅前で坂を登ってホームと同じ高さに登る。降りた目の前は改札口でそのまま無段差で上下どちらのホームへも行ける。既存の駅では周辺地域を巻き込む大規模な再開発になるであろうが真にバリアフリーを考えるのであればそこまでやっても良いのではないだろうか。JRであれば以前貨物線があった部分が無駄な用地となっている駅がいくつもある。その様な駅は簡単に改良できそうな気がする。新川崎は貨物ヤードを使えば良いし、新三郷駅は上下ホームの間が350mも離れていた実績もあるのだから、ホームをただくっ付けるのではなく上記の様な改良を行えば良かったのではないだろうか。

  さて始めに書いた田舎駅。駅と道路が接していて駅前広場が作れない様な所では改札を抜けた所がスロープになっていてそこを登りホームへ行くようになっていた。対面のホームへは改札正面に踏み切りがあってそれを渡ってやはりスロープでホームへ。よってホームは鉤の手にずれている。これはスロープをもう少しなだらかにして車椅子でも登れるようにすれば十分現代に通用するバリアフリーである。そしてそんな駅にたたずんでいると心も十分に癒される。

余談
昨今のバス停には風除けの為か透明アクリルの壁が道路との境に設けられているものがある。ところが設置場所が悪いのか停め方が悪いのか降車口の正面にそれが来てしまうところがある。下手をすれば激突。そこまで行かなくともせっかくのノンステップバスなのにわざわざ一度車道に降りてから廻ってまた歩道に上がっている。 

--第37号(平成20年2月10日)--

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 コメント(2)

 

 

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この手の話は、必ず横須賀駅がモデルになりますけど、
あそこから先は本数も少ないし・・・
つまり。本数が少ない路線は偉そうに橋上駅舎なんか作るな!
ということでしょうね(?)  
2010/10/18(月) 午後 11:06  LUN
 
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LUNさん
こちらの方では最近無人駅が橋上化されました。
ムムム……。  
2010/10/19(火) 午後 6:36  NEKOTETU