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ж 34 ж 4:48

 投稿日時 2010/9/4(土) 午後 7:18  書庫 鉄道の間  カテゴリー 鉄道、列車
 




 午前4時48分。
 この時刻は南武線武蔵溝ノ口駅の一番電車の時刻である。いや、であった。この時刻は私が物心ついた頃からウン十年ずっと変わらなかったのだが、先の(2007年3月)ダイヤ改正でついに5:03へと繰り下げとなった。
 今となっては南武線沿線より居を移してしまい、もうおそらく武蔵溝ノ口駅から一番電車に乗ることは無いであろうから、「別にどうでもいいじゃん」と言ってしまえばそれまでなのだが、そこはそれ、若かりし頃嬉々として旅行へ、写真撮影へと出掛けた際によく利用していた電車が無くなってしまったのだから、見かけたことが有るだけの有名特急列車が無くなってしまったのよりも感慨深いものがある。
 30年近く前、ブルートレインがブームとなっていて、どのクラスにもたいてい数人がその波の中にいた。ちろん私も一緒に泳いでいたのは言うまでも無い。その様な状態であったから誰かが「写真撮りに行こーぜ」と切り出せばすぐに賛同者が現れた。そして利用したのが4:48である。
 4:00集合。武蔵溝ノ口駅までは自転車で行く。所要は20分ぐらいだが皆気が急いているので集合時間も早くなる。
 そして私は嬉しさのあまり早くに目が覚めて、と言うより、良く眠れずのんびりのんびりと進む時計の針をもどかしく眺め、ついには我慢し切れなくなって早めに出掛けてしまう。当然まだ誰も来ていない。車すら通らない交差点で信号機だけが規則的にカチッと音を立てて辺りを染める色を変えている。
 何回ものその音を聞いているうちに(昼間はこの音は全く聞こえないのだ)友人が1人2人と集まってくる。たいてい集合には早い時間の出発となった。着けば駅はまだ眠っている。することも無く改札前をうろうろ。ホームに明かりが灯り券売機が仕事を始めるまでにはずいぶんと間が有った様に覚えている。
 これは冬の場面である。夏、特に夏至の頃であれば集合した時分にはもうすっかり夜は明けていて、駅への道は昇って来た太陽を正面にしてまぶしくてしょうがない。駅もしんとした闇の中ではなく、巣だったばかりのツバメの雛が騒がしく静けさを引き立てていたりする。私はこの午前5時前というのが一番季節を感じる時間だと思っている。
 季節を感じさせられるというのとはちょっと違うが、冬季におけるこの一番電車はとてもありがたいものであった。寒風をついて自転車を駆って来たから当然身体は冷え切っている。震えながらホームに立つ者にとってギラッときらめく一つ目は救いの主であった。でも、この感動は二番電車では味わえないのであった。
 なぜ味わえなかったのか。それには2つの理由がある。
 まず1つ目は二番電車が武蔵溝ノ口始発であったと言うこと。
 この電車はもう前の晩からホームに停まっている。だから前照灯をぎらつかせてホームに入って来る事は無い。だから当然味わえない。 第2の理由。それは「ほっ」としないという事。
 二番電車は5:11発ではあるが、出発準備は結構早くから行われている。準備とは言っても、乗務員にはいろいろあるのだろうが、乗客から見れば車内の明かりを点けてドアを開けるだけ。つまり長い時間ドアが開けっぱなし、そして電気が通ったばかり、暖房などいくらかけてもさっぱりとなる。
 凍えて駅にたどり着いた者にとってホームにたたずむ明かりの列は安堵と安らぎすら与えてくれるのだが、いざ車内に入ってみると明るいだけで気温は外と変わりないのである。つまりホームで列車を待っているのと同じ。大きなドアからは遠慮無く寒風が吹き込んで来る。
 一方の一番電車は登戸始発。すでに8分間走っている。走っている間はドアが閉まっているので十分に車内は暖まっている。一歩踏み込めば「ほっ」。
 もう1つ「ほっ」にならない理由がある。(あっ、考え方によっては第3の理由になってしまう)それは、この2つの電車には大きな違いがあったという事。
 一番電車も登戸駅においては冷え冷えだったはずである。それが8分走っただけで「ほっ」になるのだから二番電車も武蔵小杉まで行けば「ほっ」になるはずなのだが、これがならない。武蔵小杉どころか終点川崎に着いてもならない。二番電車に乗って天気が悪かったりもしたら浮き浮きした気分もズンと落ち込んできてしまう。 
 この違いの原因は使われていた車両であった。
 一番電車は茶色の古い電車で老骨に鞭打って頑張っていた。一方二番電車はピカピカの黄色い電車(とは言っても山手線あたりのお古だったのだが)。
 普通に考えれば、新しい電車の方が良いんじゃないの、となる。実際に古い茶色の電車は雨漏りや隙間風が問題になっていた。だが、その辺の事を考えてかどうかは解からないが、暖房の力強さは新型電車とは比べ物にならないのであった。
 一番電車に乗って座席に着いたらかじかんだ手をお尻の下に入れる。ほかほかである。時にはアツアツで脹脛のあたりのズボンが燃えちゃうんじゃないかというほどの事もある。足を広げると又の間から熱気がムワッと昇ってくる。
 一方、新しい電車は手を入れてもほかほかとはならない。なんとなく暖かい、いやちょっと冷やりとするかな、お尻のほうが椅子よりもあったかいじゃん、という感じだ。足を広げてゆるりとはならない。背を丸めて爪先立ちの様にする体勢のまま川崎に着くのであった。
 だから、二番電車よりも一番電車の方が好きであった。残念ながら昭和53年に南武線から旧型電車は引退してしまったが、それでも早朝出発の時はたとえ二番電車で間に合う時でも一番電車を使う事が多かった。
 一番電車の乗客は少なかった。そしてその乗客のほとんどが、何がなんでも一番電車に乗らないと大変だー、という感じではなく、好きだから、いや好きな事をしに行くので乗っています、という感じ、つまり同業者やつり竿を携えた人達ばかりで、腕時計を睨んであせっている人は見かけた事は無かった。(休日に限る。平日に乗ったことはないんです)
 実際のところ、私たちにしてもこの20分の差で得られるものは「特急北陸」(5:45着)「特急北星」(6:00着)くらい。本命の特急列車きびす返し状態は7:00過ぎからであった。しかもこの時間帯は冬場はまだ真っ暗。満足な写真が撮れる訳は無い。
 よって、この一番電車は極一部の上客の為の電車であって、私達の様な趣味人にとっては必ずしも必要な電車とはいえない代物である。そもそも、よほど好んで乗る人でなければ上野や東京へ行くのに南武線は利用しない。東急で行くのである。
 ではなぜ東急を利用しないで南武線で行くのか。実は国鉄監修という時刻表にからくりがあったのである。
 では、私がもっとも盛んに活動していた1982年の時刻表で出掛けてみよう。

 武蔵溝ノ口4:48→5:09川崎5:11→(5:38東京)→5:46上野 ¥440 となる。

 一方東急利用だと、

 溝の口の一番電車は5:42か、ずいぶん遅いな、あっ、でも長津田発5:05というのがあるみたいだぞ。これだと16分早いから溝の口は5:26か。すると二子玉川には5:29ごろで、大井町線は?。最大で7分待ったとして、大井町着は5:58くらいか。だとそこから京浜東北線で6:03くらいには乗れるかな。で、東京着は6:17くらいで上野は6:25くらいか。運賃はえっーと、あれっ?溝の口から大井町までいくらだ? となる。
 ちなみに南武線二番電車で行くと、

 武蔵溝ノ口5:11→5:33川崎
 あれっ川崎からの時刻が解からないぞ。大体5:40くらいか?すると東京は6:06くらいで上野 6:14くらいか。東急とそんなに変わらないかな?だったらたぶん安く済むであろう東急で行くか。となる。

 この事から邪推すると、武蔵溝ノ口4:48の存在意義は絶対に早く行かなくてはならない人の為の電車であって、ゆえにしっかりと時刻も調べられる。それ以降の人に付いて国鉄は溝の口~東京間の勝負を諦めている。と言うよりそもそも眼中に無い。この電車は南武線利用者の為ではなく、先にも書いた上客の為なのである。その上客とは、そう、東京6:00発「ひかり21号」の利用者である。
 ところが、困った事が1つあった。この電車を利用すると浜松町で客が二手に分かれてしまう。
 今年3月までの時刻で調べてみると、浜松町着は5:32。つまり慣れた人であれば羽田発6:30伊丹行きに間に合ってしまうのだ。う~ん、これは困った。時間を遅らせれば飛行機には間に合わないが、新幹線も間に合わない。どうしよう。
 そこで、新幹線品川駅の開業である。
 「のぞみ1号」の品川発は6:07。東京~品川間京浜東北線の所要時間は10分。単純計算で17分遅く出来る。浜松町から40分では6:30の飛行機は無理だ。4:48+17分=5:05。そして改正後の武蔵溝ノ口一番電車の時刻は5:03。
 品川駅開業と今回のダイヤ改正にかなりの時間差があるのはこの様にあからさまになるのを避ける為か?

 夜勤をしていてふと時計を見ると針が4:48を指している事が良くある。そして空を見上げる。


--第34号(平成19年8月4日)--

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 コメント(6)

 

 

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下宿が宮崎台だったせいか、上野へ出るのに南武線は一度も考えませんでした。

稲田堤に友人がいて何度か乗りましたが
(黄色やオレンジの若干くたびれた非冷101系ばかりのころ・・)

そののんびりした走りに閉口した記憶があります。

今なら湘新+武蔵小杉乗換えが最速・最安なんでしょうね。  
2010/9/4(土) 午後 7:54  哲ちゃん+Mc169
 
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始発電車が遅くなってホントーに迷惑してます。
こういうのって意外と変更されないハズなのに、特に反対もなくスルーっと(泣)

武蔵溝ノ口5:03→小杉5:11
小杉5:14→戸塚5:39という新ルートを開拓(挑戦?)してみようかと・・・  
2010/9/4(土) 午後 8:21  LUN
 
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LUNさん、
この様な場合も事前に地元と協議なんてなかったのでしょうね。

新路線開拓はやはり小杉3分乗り換えがネックとなるのでしょうか。  
2010/9/5(日) 午後 7:23  NEKOTETU
 
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哲ちゃん+Mc169さん、
上野はどの経路を選んでもどこかにのんびり区間が入ってしまうんですよね。

そう言えば小杉開業で運賃は東急+よりJRのみの方が安くなったでしょうか。  
2010/9/5(日) 午後 7:33  NEKOTETU
 
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そうなんです!!
最近は最短経路…多分八高線・青梅線経由
で計算されるみたいですので、「山手線内」と同じカモです。

茅ヶ崎あたり、結構安上がりだったような…  
2010/9/5(日) 午後 7:48  哲ちゃん+Mc169
 
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手間暇とお金を掛けて新駅開業したのに値下げではJRも大変ですね。でもそれでお客が増えれば良しなのでしょうね。  
2010/9/6(月) 午後 6:39  NEKOTETU