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ж33ж 取手が大事

 投稿日時 2010/8/28(土) 午後 4:48  書庫 焼物の間  カテゴリー その他芸術、アート
 



いよいよ製作
まずは土取り



************ 借窯徒然 ************ 
ж33ж 取手が大事

 器には向きがあります。そしてたいていはその向きに従って使っています。
 たとえば長方形の皿。これを長手方向を横に使う人はあまりいませんね。正方形のものや丸いものでも何かしらの模様や釉薬のかかり具合で向きが決まって、無意識であってもその通りに使っている事が多いのです。逆向きに使うとなんとなく違和感を感じます。
 もちろん、まったくの無地もしくは完全に前後左右が対象になっていて向きの特定できない器も多くあります。その様な器は、料理を引き立てる為に完全に縁の下の力持ちとして使われる場合と、大量に料理を出すため盛り付けの際に器の向きを揃える手間を省くのに使われる場合、とが有ります。どちらの意図で使われているのかはっきりしない場合も多いですが、後者の意図が丸見えだと料理の味も今一つに感じます。
 さて、この器の向きに一番こだわっているのが茶道です。
 茶道と聞くとなんだか格式ばっていて緊張してしまう感じがありますが、その基本はお客様にくつろいでいただき、そしてその時に出来る最高のおもてなしをする。という事の様です。(私は茶道をやらないので良くは解かりませんが)
 この最高のおもてなしが少々曲者となってしまう場合がある様ですが、それはさておき、主人は茶碗の正面をお客様に向けて出します。で、客はその器の姿を堪能した後そこに口を着けないようにくるりと回してお茶をいただく、というのが基本の様です。(よく思うのですが、器を見るのは正面だけでないといけないのかな?いい器を出されたら私なんかそれこそ前後左右底まで見てみたいのだけれどもやっぱりマナー違反?)
 この様に器の正面は大変に重要なものです。抹茶碗などでは窯の中に置いたその場所によって偶然正面が決まるという場合もあるようですが、たいていは器の向きを念頭に置いて製作しています。で、問題となるのがコーヒー碗の様に取っ手の付いたものです。
 何人かの焼物を作っている人に聞いた事があります。
 「コーヒー碗を作る時、取っ手が右に来る様にして正面とする?それとも左?」
 答えは、右、左、前後に同じ模様を書いちゃう、とばらばらでした。
 前回書いた様にティーカップはお客様に左取っ手で出し、客は飲む時に半回転させて右取っ手で飲むという、いまでも通用するのか解からないマナーを私は教わりました。これに茶道の考えを当てはめると取っ手が左に来る向きが正面となります。だから何かしらの模様をひとつ入れるとすればその向きで入れる事になります。しかし、決定的に違うのは、茶道の場合は一口飲んだら次の人に回すのですが(また正面が行くように回して渡す)、ティーの場合は一口飲んだらまたお客様の目の前に置かれる、という事です。
 ティーマナーでは、一口飲んで置く時にはまたくるりと回して取っ手が左になるようにするとは習った覚えがありません。つまり左取っ手をティーカップの正面としてしまうと初めだけ正面を向いていて後はずっとお客様に尻を向けている事になるのです。これをどうしたら良いのでしょう。出来ることならニコニコとお客様の方を向いていて会話に花を添えたい、でもそうすると初めにそっぽを向いていなくてはならない。だからといってクルッと向きを変えた時に「ばぁー」と顔を向けるのも下品だし、あれっ、でもそれもサプライズでいいかな。両側に模様があるのも八方美人みたいだし、あっ、やっぱそれも丸く収まっていいかも。と、なんだかぐちゃぐちゃになってしまいました。
 コーヒー碗でも同様の事が言えます。更にアメリカンのカップの場合はもっと訳がわからなくなってしまいます。
 そもそもアメリカンコーヒーはコーヒー豆が極端に不足した時に産まれたものだそうで、「豆が無くてコーヒーが少ししか出せない、どうしたら良いだろう、あっそうだ、薄めればいっぱい作れるじゃん。」といかにもアメリカ的おおらかな考えで出来たものらしいです。(現在のアメリカンコーヒーは水増しコーヒーではなく浅炒り豆で出すものです。)
 薄いコーヒーなので砂糖やミルクを入れる事なく、そのままガブガブ。薄いからいっぱい飲めるのでカップも大きく、(いっぱい飲んだら豆不足解消にはならない気がしますが)よくアメリカもののドラマなどでオフィスの隅に置いてあるサーバーに大量に作っておいて自分で入れてそのままグイッと、というスタイルが出来た様です。 
 これならばカップを回す事はありません。自分で入れて自分で飲むのですから正面は常に一定。何の問題もありません。
 しかし、アメリカンをお客様に出す場合もありますね。すると正当なお茶の出し方に反したアメリカンの更にそれに反したものとなって、うわー、どうしたらいいんだー。
 あっ、そうだ、「砂糖はおいくつ?ミルクは?」と全てお膳立てしてお出しすれば、初めから右に取っ手が正面のカップでいいんだ。男がこれをやるとお客様が逃げてしまうかもしれないけど。
 めでたく多少難は有りますが問題は解決しました。ちょっと気味悪がられながらも取っ手が右でニコニコ正面のカップをお出しして万事OK。と、思っていたらお客様が左利きでくるりとお尻を向けられてしまいました……。
 さて、模様の場合は多少の不快感ですみますが、これが変形取っ手となると不快感ではすまなくなります。右取っての物は左手では飲めない、という事態も発生してしまうのです。これは大事(おおごと)です。お客様に「おまえに飲ませる茶はない。さっさと帰れ。」と言っているようなものです。ですから私は変形取っ手については右手用と左手用を作っています。お買い求めの際は右手用と左手用の両方にしていただいて、お客様の利き手を確認してからお使いください。
 と、結局なんの結論も出ないまま長々と宣伝になってしまいました。チャンチャン。
 ところで、取っ手は作るときにもかなり面倒なものです。
 取っ手作りは、まずロクロ等で胴を作りその後くっつけるという手順になります。取っ手そのものは、粘土の玉を水で濡らした手で引っ張り延ばすようにして作りそれを胴に貼りつける、というのが定石の様ですが、私は一定の太さの紐を作り、それを板でバンバンとつぶして平べったくして作っています。それをドベ(ドロドロの粘土)を接着剤として胴に貼りつけます。この方法は伸ばして作ったものに比べるとちょっと味わいが不足しますが難しい技術を必要としません。つまり私のような素人向け。いずれにせよ取っ手はかなり柔らかい状態になっています。
 一方、胴の方は特にロクロ成型の場合、高台を削り上げてからになりますのでけっこう乾燥しています(乾燥収縮が進んでいます)。そこへ柔らかい取っ手を付ける、つまりある程度収縮しているものに収縮していないものを付ける訳ですから無理が生じて、取っ手が乾燥するに連れて変形したり時には切れてしまったりします。
 グイッと曲げなければならないので取っ手は当然柔らかい状態で付けられる事になるので、この様な事態もあるのですが、別の方法として取っ手はそのまま乾燥させて(石膏型で形作ってしまう)後に耐火接着剤で付けるというのもあります。でもこれはやりたくないですね。
 とにかく、乾燥具合の管理とタイミングとすばやさが要求される仕事なので途中で用事が入ってもそちらにかまけている事は出来ません。ちょっと目を離していた間に胴が乾きすぎてしまって取っ手が付けられなくなってしまった事もあります。
 また、取っ手の付いた物に化粧泥を掛ける時は更にそのタイミングが難しくなります。粘土はほおって置くとはじめはゆっくり乾燥しますが半乾きになると急激に乾いてきます。つまり胴は急に乾いていくのに取っ手はなかなか乾きません。そこに化粧泥を掛けると。
 ある天気の良い日、取っ手を付けているうちに胴の乾燥が進んでうっすら白くなるくらいになってしまいました。こりゃいかん、と急いで化粧泥を掛けて天日干。しばらくして見に行くとカップを乗せていた手板の上に何やら白いものがうぞうぞといます。なんだ、と良く見ると泥の水分を吸って崩れ落ちた取っ手でした。胴の方も泥が密着せずピリピリに。
 取っ手は当然カップ等を持ち上げるものですから胴との密着度と強度を必要とします。
 胴の乾燥がちょっと進んでしまって取っ手がちゃんと付いているかどうか心配な時は完全に乾燥させた時に一番心配そうなやつの取っ手をもいでみます。取っ手だけがポリッと取れたらダメ、胴の肉が取っ手にくっ付いて来ればOKです。焼成後に取っ手がやけに貧弱に見える時があります。そんな時も取っ手をもいじゃいます。一番貧弱そうなやつから順に。取っ手の強度確認です。もったいないからとそのまま売って使用中にもげたら大問題です。
 だからと言って必要以上に大きい取っ手を付けると焼成中に胴がその重みに耐えられず変形して楕円になってしまいます。
 この様に取っ手はなにかと大変なのです。
 ところで益子の方言では大丈夫のことを「だいじ」と言います。だから取っ手付きの品物を作ると、
 「大事(だいじ)な取っ手、大事(おおごと)になってないかい?」
 「おぅ、だいじだぁ。」
 と、ややこしい事に。 


ちなみに、益子には「おおごと」という場所があります。

本当は「おおごうと」らしいですが皆「おおごと」と呼んでいます。じゃ、またねー。 


--第33号(平成19年6月2日)--

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