<ж 31 ж 峠                                     おまけ Vol 20>

ж31ж 割れちゃったお茶碗

 投稿日時 2010/7/10(土) 午後 6:53  書庫 焼物の間  カテゴリー その他芸術、アート
 

 


延ばして



************ 借窯徒然 ************ 

   ж31ж 割れちゃったお茶碗

 神奈川県川崎市の民話に鬼げ橋というものがあります。嫁が気に入らなかった姑が鬼の面をかぶって脅かそうと待ち伏せしていたものの面が取れなくなってしまい当の嫁に助けられて改心し、その待ち伏せしていた橋が後にそう呼ばれる様になったという話しです。
 後の世になって(昭和初期ごろでしょうか)この橋は割れてしまったギヤマン(ガラス)捨て場となっていた様でそれは子供の仕事だったそうです。
 今にすれば不燃ごみの不法投棄という事になりますが、当時としてはごく当たり前の事だった様です。
 また川にガラスを捨てると水遊びの時に大変危険なものとなりますが、そもそもこの場所は水遊びには危険な場所で、それをさせないために鬼げ橋という子供には恐い名前を付けて近寄らせないという所だった様です。
 ですからその辺もふまえて子供の遊ばない場所へ捨てていたという事なのでしょう。当時の子供には捨てに行くだけでも恐かったそうです。
 余談ですが、この様に恐い話しや河童が出る淵などは基本的に危険な所なので子供達が近寄らないようにする目的がある物多く、今の様にただ「危険遊泳禁止」などと看板を立てるよりよっぽど効き目があったのでしょう。この様に民話や古い地名などにはその土地の危険性を示したものが多いのでおろそかには出来ません。とは言うものの、土木技術により河童の住んでいた淵は水深5cmの川になりそれでも大人の都合で「遊泳禁止○○小学校」などと看板が立っているのは何とも悲しいことです。
 さて、この割れてしまったガラスというのはその着色剤などの種類毎に分ければ100%リサイクルできるものです。いや、それどころか使い終わった時点で回収して再利用が十分可能なものです。
 現在でもビン入りのビールや酒はその対象になっていますし、炭酸飲料でもデポジット制でそれを行っていました。そして最高のシステムを持っていたのが牛乳です。毎日届けて毎日空き瓶を回収してくれる。本当に中身だけを買う事が出来ていたのです。それが今や紙パック。家庭で再生してハガキを作りましたとか、回収されて「この紙は100%再生紙で作られています」などとエラそうに書かれているものになっても次に待ちうけているのはごみ箱。金とエネルギーをかけて形を変えたごみを作っているだけです。ペットボトルにしてもそう。本当のリサイクルとは回収してまた使うという事で、いくらフリースに再加工してもそれは単なる一方通行、全くもってリもサイクルもされていないのです。近頃ビン入り商品なのにわざわざ詰め替え用なるものが売り出されていますが、そんな事するならビンを回収して工場で詰め替えて売って欲しいものです。
 と、エラそうな事を言っておきながら全くリサイクルされていないのが焼物です。
 たとえば峠の釜飯の釜。そう、信越本線横川駅の有名駅弁です。
 あの釜は益子焼で、もうすぐその歴史は50年になります。そして今その釜の生産能力は日に一万個。さて単純大雑把に計算してみましょう。もちろん50年前にはそんなに数は作れなかったし、売れもしなかったでしょう。だからう~んとえ~と、一体いくつ売れたんだ?
 で、峠の釜飯販売元おぎのやさんのHPによるとその数139,000,000個(H17.5現在)売れているそうで、そのうちのほんの一部は再利用又は回収(回収分の大部分は廃棄)されているもののつまるところ大部分は行方不明です。その行方不明のうちの多くはすでに不燃ごみもしくは庭先で花壇の囲いなどになって眠っているものと思われます。
 つまり単純に考えて日本人全員が1個は食べて、各家庭には2~3個は転がっているのではないかと。だから全国一斉に「今日の不燃ごみには釜飯の釜だけ出してください」とやったら相当な数が集まるのではないでしょうか。
 でも行きつく先は不燃ごみなのです。このように回収されたものは衛生的に再利用できないそうで、これは釜飯の釜に限った事ではなく、普通の食器でも使用済みの品物はリサイクル屋でも引きとってくれないそうです。
 焼物は熱に強いのでその消毒は800度ぐらいまで熱してやれば細菌はもちろん有機物は全て燃えてなくなりますし、無機物はその後洗い落としてやればかんたんに落ちます。貫入の中もきれいになります。でもそれをやらないのはやはり費用の問題なのでしょうね。
 実際のところ粘土は無尽蔵にあるといっても過言ではありません。確かに焼物に適した粘土は減りつつあります。でも精製技術の進歩により昔は使い物にならなかった粘土ですら使える様になってきています。すると焼物を再利用するのと新しく作り直すのではどちらも同じ程度のエネルギーと酸素を使う事になり、だったら新品の方が良い、という事なのでしょう。
 かように無傷のものですらこうなのですから、これが割れてしまった茶碗であったらその再利用を考えるなんて事は今の世には存在しません。下手に再利用を考えるよりも埋めてしまった方が手っ取り早いし費用もかかりません。しかもはっきり言ってその辺に埋めてしまっても全くの無害です。腐って臭いを出す事もなければ成分が溶け出して土壌や河川を汚染する事もありません。(一部上絵の具には鉛が含まれていますがガラス成分に包まれているのでどっと溶け出す事はありません)
 それに焼物はガラスの様に溶かして再度原料として使う事が出来ないのです。もちろん粘土粒子と同じ大きさに砕いてやれば見た目は粘土になります。そこへ粘土に含まれているような有機分を混ぜてやれば立派な粘土となるでしょう。でも焼成は出来ません。それは釉薬も一緒に砕いてしまっているので耐火度が著しく低いものとなって普通に焼くと素地自体が溶けてしまうからです。それを防ぐためには耐火度を上げる薬を混ぜる必要がありますが、元の焼物の成分量によりその量は変わってきますので、それこそ現在のガラスの分別以上に限りなく細かく分けられた基準毎に収集するか、1個1個成分を分析して砕いていかなければならないのです。もしくは砕いた後に成分毎に分別する設備が必要となりますが、これは原子レベルにまで分解してから分析して分ける、という現在の技術では不可能なものとなってしまいます。
 ちなみに、「普通に焼くと」と書きましたが、これは再生物を粘土素地として考えその上に釉薬を掛けて焼こうという事です。つまり普通の釉薬が溶ける温度1300度ぐらいまで上げるという意味ですがここまで上げると当然再生素地も溶けてしまいます。なので焼成温度を低くして再生素地が溶けずそしてその温度で溶ける釉薬を使えば良さそうなのですが、かなりもろいものになりそうです。おそらく良い方法があるのでしょうが私には解りません。それに雰囲気的には焼き物というよりも大量に不純物が混ざったガラスというものになるでしょう。(あれっ、それも面白いかもしれない)
 という事でグタグタと書いて来ましたが、結局現在のところ割れてしまった焼物の再利用は砕いて粉にして建築資材にほんの少し混ぜる程度しかないのです。つまり形はどうあれ埋める。これしかないのです。でもこれを続けていると何かの映画の様に世界は錆とセラミックに覆われたものになってしまいますので、早いうちに考えなければいけないのでしょうね。
 で、今出来る最良の策というのが、「茶碗を捨てない」という事です。
 ただ使わなくなってしまっただけという様にまだ使えるものはもちろんの事、割れてしまった茶碗もです。
 またしても余談になりますが、観光地でかわらけ投げを行っているところがあります。あれ、私好きではありません。ただ谷底に投げられるためだけに産まれてきた焼物、かわいそうです。あれ、本当に願いを込めて投げている人ってどれくらいいるのでしょう。それと今は無くなってしまいましたが、信越本線の横川~軽井沢間。そこの線路際には件の釜がけっこう投げ捨てられていました。この様な事は言語道断です。
 さて「茶碗を捨てない」方法ですがまず第一は、余計なものを買わない、です。茶碗を買うときに一番いけないのが衝動買いです。これは後に必ず飽きてまた次のものを買いどんどん使わない器が溜まっていくという悪循環を引き起こします。茶碗を買う時は本当に必要なものかどうかをじっくりと考え更に一生、いや子々孫々まで使える代物であるかどうかをじっくりと吟味しなければなりません。また、結婚式の引き出物に茶碗を選ぶような事もやめてください。これはたいていの場合新たな茶碗を必要としていない人に、余計な茶碗を押し付ける事になります。
 そして第二に、割れてしまった茶碗は修理して使う、です。そんな事ができるのかって?いやそれを普通に行っていた時代があるのです。それは江戸時代。その頃巷には「かけつぎ屋」という職業があって、その人に頼んで割れてしまった茶碗を漆でつないで修理して使い続けていました。現在かけつぎ屋はいません。(ほんの少しそれを請け負う人がいるらしいですが)でも今は漆以上に強力で使い方も簡単な接着剤があります。
 この2つを実行すればもう茶碗を捨てる事はありません。
 でも作った茶碗が売れなくなる・・…。  

--第31号(平成18年12月9日)--

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