<おまけ Vol 19                                    ж 7 ж 江差>

ж30ж お茶碗割れちゃった

 投稿日時 2010/6/27(日) 午前 7:55  書庫 焼物の間  カテゴリー その他芸術、アート
 

 

縮めて



************ 借窯徒然 ************ 

   ж30ж お茶碗割れちゃった

 前回書いた様に「お茶碗割れちゃった」の原因のほとんどは「お茶碗割っちゃった」、つまり人のミスによるものです。
 茶碗などの焼き物は自然に割れる事はありません。しっかりとした保存状態にあれば割れる事は無いのです。しっかりした保存状態とは何も博物館の様にガラスケースに収めて厳重に管理するということではありません。何千年も前の土器が土の中からしっかりとした形で発掘される事もありますし、地震で博物館の建物自体が倒壊してしまえば展示してある器も当然割れます。
 このように地震等で割れてしまったときは「割れちゃった」で良いのですが、それ以外の多くの場合は「割っちゃった」、つまり使い方、扱い方が問題なのです。
 では茶碗はどのような場合に割れるのでしょうか。
 まず第一に多いのは「落っことす」でしょう。
 まれに落としても割れない時もありますが、たいていの場合落っことせば真っ二つ、又は木っ端微塵。これを防ぐには注意する以外の方法はありません。
 もっとも、全ての原因において「注意する」はその予防となるので、落っことさない様にする為の具体的な予防方法はない、と言ってしまっても過言ではないでしょう。
 地球上に重力がある限り物は落ちます。ですから落として茶碗を割りたくない方は宇宙空間にお住まいになる事をお勧めします。
 と言ってしまってはお終いなので、落としにくい環境を考えてみましょう。
 茶碗を落とす時は、手の上などから滑らせて落としてしまう、茶碗を支えている土台ごとひっくり返る、安定して置いてある物に対して外力が働いて落下、等の場合が考えられます。
 手から滑らせてしまうので一番多いのは洗っている時でしょう。濡れていたり洗剤が付いていたりすれば滑りやすいのは当然です。しかし、それ以前に気持ちの問題もあります。
 汚れている器を扱う時は自然と、「あまり触りたくない」という気持ちが働きます。それが知らず知らずのうちにしっかりと持っていないという状態を生み出してツルリを発生させるのです。
 手とは素晴らしいもので、多少の汚れは簡単に落ちるものです。食べ物の汚れが肌から染みこんでいく事もありません。藍染め職人ぐらいにならないと汚れが染み付く事はなく、職人は手の汚れを気にしておそるおそるつまむような事はしないものです。
 ですから洗い物をしていて落としやすい人はなれていない人。つまり新人の奥さんとかたまには洗い物をしてやろうとするお父さんなどで、「ウェ~」なんてつまんでいる人が落としやすいのです。
 お嫁さんが茶碗を割ってしまってお姑さんからたしなめられるのも仕方ない事。ほやほやのお嫁さんは汚れ物に慣れてなくて、一方お姑さんはその道ウン十年の大ベテラン。汚れ物を手に取るなんてなんとも思っていないのですから、「そんな事も満足にできなくて」と思うのは当然。……かな?
 それと指先にケガをしている場合。傷口に水や洗剤がしみるのでやはり恐る恐るやぎこちなくになってガチャン。割れた茶碗で手を切ってそれをかばう為に更に割ってしまうという悪循環が起る恐れもあります。
 また病気の時も辛いもの。無理して洗い物などせず、誰かに頼むかそれが叶わなければ山の様に積んでおきましょう。健康を取り戻す事が先決ですから。
 とは言うもののこの「山の様に積んでおく」が茶碗が割れる原因となる事も多いのです。
 なぜこれが割れる原因となるかというと、もちろん山崩れの恐れというのもありますが、山の様に積んでおく=使える器が減る→山から必要な分を引っ張り出す→茶碗どうしがカチンと当たる、という図式ができあがります。そしてこのカチンと当たるが結構茶碗に対してダメージを与える事が多いのです。
 この事でいきなりバカッと真っ二つという事はありません。でも目に見えない傷が入ります。それを繰り返すとやがて大きなひびとなってパカッ。淵の薄いものですと1回で欠けたりしますし、粉引き(粘土素地の上に白色などの化粧土をかけてから施釉してあるもの)等はペリッと表面がはがれたりします。 
 これはしまう時も同じで食器棚に収める際にカチンとやるとそれでも淵が欠けます。そしてそれに気づくのは次に使う時で、「あれっ?割れちゃってる」になるのです。
 ですからシンク周りや食器棚はこまめに余裕のある片づけをしておくのが茶碗長持ちの秘訣です。その考えからいくと食洗機は結構器に優しい物と言えるのでしょうね。使った事ありませんが。
 あと、台所で茶碗を傷つけやすいものが電子レンジと冷蔵庫。
 電子レンジは食品に含まれている水に電磁波をぶつける事により、水分子を激しく振動させて過熱する仕組みです。ですから電子レンジによって器自体が熱くなる事はありません。取り出した茶碗が熱くなっているのは中の食品の熱が伝わるからです。
 しかし、もし茶碗にひびがあったらそこにしみ込んだ水分は当然熱くなり蒸発をします。水が蒸発すれば当然体積が増える、よってひびを広げる、そして割れる、となる恐れがあります。
 もっとも、ひびというのは水分子にしてみればとてつもなく広いものですからたいていは圧力が高まる前に逃げ出してくれますが。
 それよりも心配なのは施柚されていない水分のしみ込み易いもので、長時間水にさらされて奥の方までしみ込んでいる場合は蒸気の逃げ道が狭いですから注意が必要です。
 電子レンジよりも注意が必要なのは冷蔵庫の冷凍室。水は凍った時の膨張による力も大きいですから油断なりません。ひびにしみ込んだ水は凍る時は逃げ出してはくれませんのでひびを押し広げます。無釉のものも同様です。私のビアマグも中は施柚していませんので冷凍庫で冷やす時はよく乾かしてからにして下さい。
 氷を作る時はその形に注意して下さい。茶碗の様に口が広くなっているものは水が凍って体積が増えても広い方へと逃げてくれますので大丈夫です。(ただしひびの入っていないもの)しかし、切立もの(コップの様に胴がまっすぐなもの)や袋物(壷形)、胴の膨らんだ湯呑などですと逃げ場がありませんので割れる恐れがあります。
 これは冷凍庫に限った事ではなく、寒冷地の冬にも起ります。
 一冬庭に転がっていた植木鉢が春になったらぼろぼろになっていた、という経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。私も水を入れたままの花瓶をうっかり外に出しっぱなしにして割ってしまったり、柚掛けに失敗した素焼素地を洗って外に干してそのままにしていたら翌朝にはばらばらになっていた事があります。
 これらはぱっと見は「自然に割れた」ですが原因はやはり人的ミスです。
 さて、よくよく考えれば自分のせいなのに割ってしまった直接の原因にヤツあたりしたくなるケース。
 まずは風。これはカーテンとの協力があってよく発生するもので「あー!なんだよ!!まったく!!!」
 子供。「さわっちゃダメって言ったでしょ!!!!」
 猫。「コラー!!!!!」
 etc、etc……。(高速道路ではありませんよ。)
 いずれも置き場所や置きかたの問題です。本当に割りたくない品物であれば博物館並に厳重に管理するか桐箱にでも入れて蔵の奥深くにしまっておくしかないでしょう。でも、それってちょっと悲しいですから、床の間に飾っていた壷が飛び込んできた野球ボールで割れてしまったというサザエさん的事故はぐらいは仕方がないとしておきましょう。
 チャボを放し飼いにしている友人が「素焼き前の品物を庭に干せない」とぼやいていましたが、なんとかうまくやっています。
 軽くたたいてみてボコッとにごった音のする茶碗は何処かにひびが入っています。ですから味噌汁の様に熱いものは入れないほうが賢明でしょう。パカッといったら大変ですから。でも多少のひびが入っていてもすぐに捨てるような事はしないでください。大事に扱えばその状態で結構長持ちします。 


--第30号(平成18年10月1日)--

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