<ж29ж お茶碗割っちゃった                            おまけ Vol 18>

ж 7 ж いわき湯本温泉 (2)

 投稿日時 2010/6/13(日) 午前 6:44  書庫 大浴場  カテゴリー 旅行
 

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 エントランスからすぐにあるのがスパリゾートハワイアンズのメインとなる「ウォーターパーク」。室内プール独特のムッとするような湿気の中にウォータースライダーの黒いチューブが走り、巨大帆船が浮かんでいるかの様に見えるプールに多くの人が浮かんでいる。難破した船から乗客が救命胴衣を着けて避難している様にも見える。
 湿度は高いが気温はホカホカと暖房の効いた更衣室に比べて肌寒くもあり、ハワイに来たというより早く温泉に浸かりたいという気持ちになる。
 まずは流れるプール。浮き輪につかまってプカプカと温泉に浸かって運転の疲れでも癒すか、という算段。
 と、ここで気になる事がひとつ。それは物を置くスペースが少ないという事。いくら裸で遊べるところとはいえタオルくらいは持ってきているし、妻は財布や水が大敵の携帯電話も持ってきている。
 人が多いので少し高くなっていて浸水の心配の無い場所はすで一杯。子供達は、チョット待て、というのも聞かずにすでに流されて行ってしまっている。
 なんとか植え込みの脇にタオルを押し込んでいざ温泉。しかし、ちょいと足をつけると「ヒアッ」。お湯が冷たいのである。
 しかし、考えてみればそれは当然で、ここは浴場ではなく室内プールなのである。もし、これが温泉として程よい温度であったならみんなすぐにのぼせてしまって泳ぐどころではなく、ハワイアンズならぬ常磐釜茹地獄センターとなってしまう。
 そう悟って流れに身を任せてみれば至極気分の良いものである。ただし流れに逆らう杭になっている人や激流下りの様に突進してくる人を避けながら子供から目を離さない様にしなければならないので少々忙しくもある。
 何周か回ると次に子供の目当てはウォータースライダーとなる。しかし、下の子は身長制限120cmに引っかかってしまって滑走不可、よって兄弟別行動となってしまった。
 兄を長蛇の列に並ばせその列のすすみ具合を気にしながら弟を帆船前のプールで遊ばせる。こちらは普通に泳ぐプールであるが実際に泳いでいる人は少なく若者がビーチボールで戯れている以外は皆もごもごと移動しているだけといった具合で雰囲気は大浴場に近い。目の前の帆船から飛び込めるアトラクションでもあれば、と思うが、当の帆船の本当の役目はハワイアンダンスショーなどが行われる舞台の裏側となっている。
 そんな事を考えつつ、そろそろ兄が滑り落ちてくるだろう、とスライダー終点で待っているうちに弟行方不明。流れるプールの脇で待っていても一向に流されて来ない。そこで、入り口から他のテーマパークへと続く通路へあがって見渡したらわんぱくプールの滑り台で遊ぶ弟を発見。無事回収して兄と合流、その通路を通って次のテーマパークスパガーデン「パレオ」へ向かったが気分を落ち着けて見てみれば私の様に誰かを探しているような人が幾人か見うけられた。
 パレオは屋外施設となっていて、覚悟はしていたが1歩踏み出すと予想以上に寒い。いつのまにか体がすっかりハワイモードになっていたようである。
 どんよりと曇った11月の寒空の下、南国ムードのトロピカル色に彩られたプールの青い水が、--青い海をモチーフにしたのであろう、プールの中は青色に塗られている--寒さを引き立てている。
 たまらずに即座にプールに飛び込んだが、この水がまた冷たかった。外気温の低さに温泉が追いつかないのであろう。それでも水中の方がまだ温かい事は暖かい。しばし振える様に浸かっていたがこの様な状態でも子供は元気なものでキヤッキャ、キャッキャと遊んでいる。
 だが、子供達の姿ばかりで大人の姿はあまり見かけない。この子達は皆子供だけで遊びに来ているのだろうかと思いながらプールに続いている洞窟の中に入っていくとそこは少し水が温かくなっていて、そして大人がかたまっていた。
 滝登りで洞窟を進み上の段に至って外に出て見るとそこには直径2mほどの小さなプールが点在していてどれも大人達で満員となっていた。これが実はジャグジー、ホカホカの温泉であった。混雑しているはずである。
 私も子供達を連れていくらかのスペースを見つけると割り込む様に入った。ホー、と今まで寒さでこわばっていた体が緩んでいく。生き返った心地がした。
 しかし、子供達にとってここは温泉ではなくプールである。おとなしく静かに入っているわけはない。その煩さの為か連れで来ていたのであろう数人が抜けた。そこに「寒い寒い」と言いながら入ってきたのがうら若き女性のグループであった。膝を突き合わせる様にお湯に浸かっていると弟の方が「おねーさん何処から来たの」と声をかけた。これは私を見習ってでも代弁してくれたのでもない。彼の個性である。あまりのなれなれしい態度に、これこれとたしなめはしたが目線は違う方へと行っている。天国に昇った心地がした。
 残念な事に遅れて昇ってきた妻が合流した。ちゃんとした温泉に入りたいと言う。
 そこで、今度はその広さを誇る露天ブロ「江戸情話 与市」へ向かう。
 「パレオ」から「与市」へは「ウォーターパーク」へ戻る様に進んだ先、となるので少々の距離がある。通路の途中に記されたハワイアンズの歴史などを眺めながらペタコペタコと歩き、南国ムードを漂わせる為に植えられたのであろう木々が少々鬱陶しく感じられる温室?を通り過ぎるといきなり純日本風床壁天井全木造建築照明少々不足の世界に入り込む。いきなりハワイから成田を通らずに何処か山奥の里に行ったみたいだ。
 まずはチョットした休憩スペースがあり、チョット疲れ気味の顔をした人達が集っている。その先にあるのが駄菓子販売コーナー。団子やおにぎりもある。
 ここで子供達がはまってしまうが、「後で!!」と強引に引っ張って先へ進むと到着するのが蕎麦屋。
 「?、露天風呂は何処?」という感じであるがその蕎麦屋の脇を回り込めばやっと目的の「江戸情話 与市」。男女別の完璧な日本的風呂である。
 しかし、その広さをうたうだけあって確かに広いのだが、その広さと先ほどまでの感覚からやはり「プール」という感覚になってあまりゆっくりのんびりという感じではなかった。
 「ハワイ」を求めて来ている人達には場違いな施設なのであろうか、湯浴みする人は少なかった露天風呂を出て蕎麦屋の前で待ち合わせ。もちろん妻とである。男女別の欠点はこれで、どうしても女性の方が風呂は長くなり、「蕎麦を食べたい」と騒ぎ始めた子供二人を抱えたお父さんは暇を持て余してしまう。
 蕎麦屋は大混雑で入る気にならない。騒ぎ始めた子供達とやはり騒ぎ始めた自分の腹の虫を押さえるために先ほどの駄菓子コーナーで団子とおにぎりと駄菓子、と一通り買って入り口に集っていた少し疲れた顔の人達に仲間入りをする。
 しかし、それだけでは満足しない腹の虫たちをなだめるため、また来た道を戻って「パレオ」入り口にあるエスニック料理ファーストフードでカレーを食べる。子供達は更にかき氷も食べて(カレーとかき氷はエスニックだろうか?)満足したところで「スプリングパーク」へ。
 「スプリングパーク」には水着で遊べる「スプリングタウン」と本格的温泉施設「温泉浴場パレス」があるのだが、「スプリングタウン」で遊んだところで時間切れとなってしまった。遠方からの日帰りの辛いところである。
 もう少し遊びたい、と言う子供達を諭して帰途につく。出口はお定まりのお土産売店を通って、となっており、これまたお定まりの「フルーツ砂糖漬け」を買っていこうと思ったがそれは却下され、買ったのはハワイアン風饅頭であった。
 いかにも裏口という感じの出口から出て駐車場へ向かう途中子供達に感想を聞いたら「楽しかった。また来たい。」であった。


 さて、いわき湯本温泉はハワイアンズだけではなくちゃんとした温泉宿も当然もあり、お気に入りの宿に何度か宿泊した事がある。
 その宿はかつての温泉自噴地域内の温泉神社前にあり、14階建ての大きな物であるが、実のところは玄関ロビーを有する10階建ての新館と背後の山にへばりつく様に立つ9~14階の6階建ての旧館とでなっていて、9階でエレベーターを乗り継いで連絡するようになっている。大浴場は新館にある。
 宿の前に立ってみれば道の向かいに小高い山があるだけで、ロケーションは街中そのもの。その辺の都市のビジネスホテルに泊まるのと大差ないと思われる。道路も広くはなく玄関前にスペースもないのでバスが停まれば渋滞の原因になってしまうし、駐車場は少々離れた位置に有る。
 部屋は多少料金を出すとロビーや風呂の有る便利な新館に割り当てられる様だが、私は格安料金の為かたいてい、荷物を持ってもらっている仲居さんが気の毒になるほどの所に有る旧館へと案内される。
 しかし、私はこの旧館がお気に入りである。
 新館の9階でエレベーターを降り、コンパニオンでも上げているのであろうか大騒ぎの宴会場の傍を過ぎると雰囲気ががらりと変わり森閑とした感じになる。
 旧館14階でエレベーターを降りるとそこは背後の山よりも高い位置で、廊下の窓からは湯ノ岳を見ることが出来る。朱色のやぐらはかつての炭坑跡。現在は「いわき石炭・化石館」として、石炭採掘の様子や坑道の再現、いわきで発掘された化石などが展示されている。
 廊下から眺めた限りでは、背後の山の頂きにあるうち捨てられた様な公園が少し下に見えるくらいなのであまり高さを感じないが部屋の窓から下を見れば紛れもなく14階という高さで少し怖くも有る。しかしそのおかげで静かそのものである。宴会場のランチキ騒ぎも車の音も聞こえない。目線を普通にしていれば三崎や塩屋崎への山々が見えるばかりである。
 食事はその三崎の小名浜で揚がったのであろう海の幸が並びとても良い。料理そのものもはるか下に有る調理場から上がって来るので、冷めてしまうからと、てんぷらは出ない。その辺の心配りが良い。
 さて、肝心の温泉であるが、内湯は新館の4、6、7階にあり、時間制で男女が入れ替わったり混浴になったりする。前述の様に旧館からは距離があるのだが、タオルを肩に引っ掛けて近所の風呂屋へお出かけ、という感じで楽しい。
 浴場へ入れば立ちこめる湯気の中に硫黄の匂いが混じる。いわき湯本温泉の温質は単純硫黄泉。炭坑時代には品質が劣るとして嫌われていた硫黄分であるが、今では温泉として最高の味付けとなっている。源泉の温度は約60℃。そしてその豊富な湯量とあいまって、沸かす事無く、循環させる事無く、と贅沢な温泉の様である。
 露天風呂は新館9階の屋上。高い位置にあるので町の雑多な雰囲気は無く開放的で気持ち良い。湯本駅に向かう「スーパーひたち」の姿がちらりと見える。
 ピンとした朝の空気の中、少し身を乗り出せば通勤客や駅へ向かうバスなどが忙しく行き交う普通の町の風景であるが、木製湯船の湯に浸かっていればそんな気配は感じられない。向かいの温泉神社から立ち上る落ち葉焚きのうっすらとした煙がたなびいているばかりである。 

--第29号(平成18年6月10日)--

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