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2010/2/28(日) 午前 7:07 鉄道の間 鉄道、列車
『天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり 』
列車の乗り換えには自信が有った。
学生時代にかなり無理な旅行計画を立てて鍛えられたのである。
特に東京のターミナル駅などはその構造が頭に入っていたし、まったくはじめての駅であってもチョットしたコツをつかんでいたので、乗り換えに不安を覚える事は無かった。
なので時刻表に、上野駅発着の列車から東京駅発着東海道新幹線への乗り換えに必要な時間は40分、と書かれていても、「なんでそんなに時間がかかるのだろう」と疑問に思うばかりであった。
実際、その昔上野駅にあった一番はずれの20番線から乗りかえるとしても、山の手京浜東北線のホームまで2分、列車の待ち時間が5分、上野~東京の所用時間が8分、降りてから新幹線のホームまで2分。計17分。ホーム間の移動と待ち時間は多めにしてあるので更に短い時間での乗り換えも可能だが、いずれにしろ時刻表に書かれている時間の半分以下である。
この場合、乗車券はもちろん、新幹線の切符も事前に手配しておく。例え自由席利用であってもである。
列車に乗る場合に一番時間がかかるのが切符の購入である。乗り換えの時間が迫っているのに自由席特急券の券売機前に長蛇の列が有って絶望感に襲われた方も多いであろう。短時間の乗り換えにおいてはこのリスクは絶対に避けなければならない。
そこで切符の事前手配が必須条件となるのである。
乗車券においては乗る前に買うので問題は無いであろうが、もし時間が無ければいくらでも良いから適当な切符を買ってとにかく乗り込んでしまう。そして車内で車掌から正規の区間の切符に変更してもらえば良いのである。
もっとも最近ではワンマン列車で車掌が乗っていない場合が多く、無人駅であらかじめ切符が買えない場合も多いので、その様な場合には駅旅行センターや旅行代理店で切符を必要分買っておくのが良いであろう。それらの店であれば全国どこの発着の切符であっても買える。
切符さえ手に入れていれば乗り換え時における不安の大部分は解消される。あとはチョットしたコツと鍛錬である。
まずコツであるが、そう難しい事は無い。要はいかにスムーズに動けるかを段取りすれば良いのである。
それは乗り換えの階段に近い降車口を探す、と言う事である。
乗り換え時の最大のネックは階段の混雑である。ここで渋滞に巻き込まれてしまうともう手も足も出ない。そこで降車客で混雑する前に階段を制覇しなければならないのであり、その為に階段に近い降車口から降りるのである。
階段に近い降車口を探すには2通りの方法がある。
まず第1には、それを知っている人に聞く、という方法で1番頼りになるのは乗務員である。特に頼りになるのが車掌でたいていの場合十分以上の情報を得る事が出来る。運転手からも聞く事は出来るが基本的に運転中は話しかけてはいけないので、それ以前の駅で停車中に聞く事になるが、わざわざ乗務員室の戸をたたいて聞くのもなんだし、ワンマン運転で話し掛けやすい車両であってもそれはそれで停車中はなにかと忙しいので話し掛けにくい。それに話し込んで出発が遅れでもしたら本末転倒である。
その次の情報源は地元の人。廻りにいるそれらしい乗客に聞くのである。しかし、それらしくも地元で無い、または詳しくない、という場合が多く、あまり確かな情報源とは言えないかもしれない。
第2の方法は観察する、と言う事である。
駅に近づくと便利な降車口へと移動する人が少なくない。その様な人を見つけたらその後についていけばよいのである。
もっともこの方法は根本的に人に出遅れるという欠点がある。どんなにすばやく行動を起しても、結局は人の後についていくので多少降りるのが遅くなってしまうのだ。
更に、なんとか早めに出口にたどり着いても実際に降りてみたらそこは改札口の前で乗り換え階段ははるかかなた、という事態も起こりうる方法である。また特急列車など降車口が狭く数が少ない列車は少しの出遅れが命取りとなる。
やはり、的確な情報を得た上で早めの行動と言うのが基本となるであろう。到着前には乗り換えの案内放送もあるのでそれも聞き逃してはならない。
階段さえ制覇してしまえば早乗り換えは半分成功したようなものだ。あとは事前に得た情報どうり目的の乗り場へと向かえばよいのだが、その先については少々の鍛錬を必要とする。
鉄道駅構内は大抵左側通行となっている。これは江戸時代に右側通行だと刀の鞘がぶつかり合うので人は左側通行になった、という事のなごりらしいのだが、道路において人は右側になっても鉄道は混乱を避ける為にそのまま引き継がれているのだ。
さて、この左側通行であるが、実際のところはあまりきちっと守られている物ではなくけっこうばらばらで、通路の幅が広ければ広いほどその状態は悪くなる様である。
その様な状態の中で目的ホームへすばやくたどり着くには人の動きを読み、そしてかわしていく、という技術が必要となる。
前の両手に荷物をいっぱい持ったおばさんは歩きが遅く少しずつ右へずれていくが左から抜くにはまだスペースが足りないしこのまま右から抜くと前から来るサラリーマンとぶつかるから少し速度を上げておばさんを抜いたら左へ寄ってサラリーマンをかわし少し速度を下げて左から横切ってくる人の後ろを通ったら速度を上げてその先の人の右側を・・・と常に先の行動を考えながら歩くのである。 廻りの人からすれば暴走族みたいな歩き方で多少迷惑だがかなりの時間が稼げる。私はこれがけっこう得意であった。
これらのやり方をもってして私は乗り換えに自信を持っていたのだがそれがぐらついて来たのは栃木県に引っ越してから5年目のことであった。
ある平日に小旅行の計画を立てた。その中に東北本線で上野8:34着、総武線東京地下駅8:53発という乗換えプランを組みこんだ。少々きついが、上野駅や東京駅の構造はよく解っているし、人ごみ歩きにも自信が有る。
東北線の列車は前の方の車両に乗った。上野駅には大連絡橋と地下乗換え通路の2つの通路があるが、大連絡橋は一度3階まで上がるので時間がかかる。地下通路であれば登る階段は少なくそれだけ早くいける。地下通路は1番前だ。
例のはや歩きでいけば山手線ホームまで1分、待ちは多くても3分だから、遅くとも上野8:38発、東京8:46着でいけるであろうと見積もっていた。
ところが上野駅にたどり着いて驚いた。通路が人でいっぱいでとても追い越しが出来る状態ではなくその動きが遅かったのである。
そう、栃木県でのんびりと過ごしているうちに都会の通勤ラッシュの事をすっかり忘れてしまっていたのである。
気は急くが人々のかたまりはゆっくりとしか動かない。いや、決してゆっくりではなかったのであろうが私にはそれが非常に遅い物に感じた。
ザカッ、ザカッと革靴が階段を踏みしめる音が規則正しく響く中、無常にも山手線電車の発車していく音が聞こえ、すぐにやってきた京浜東北線の電車が動き出したのが8:42。ここまでで予定の倍の時間がかかってしまった。
「このままいけば東京着は8:50。秋葉原から錦糸町へ行けば余裕だが、のこり3分でたどり着いて見せる」と妙な闘志が涌きあがって秋葉原通過。しかし、その闘志は程なくへなへなと消えうせた。
その秋葉原で乗り降りに時間がかかって、東京着は8:51。まだなんとかなるかと思ったが、開いた扉の目の前の階段はほんの少し前に着いた山手線電車から降りた人ですでにぎっしり。
その塊の動きは更に遅く、ホームからの階段を降りたところで8:53となりアウト。
その後もゆっくりと人は流れたが、もうすっかりあきらめてその流れに身をゆだね、ボーッと長いエスカレーターを降って、ホームについたのは8:56。もう目的の列車の影も形も無かった。
仕方なく次の列車に乗ったのだが、その1本を逃したおかげで予定はガダガタに崩れ、最終的には2時間ほどの遅れとなってしまった。
列車は空いていた。はじめは、自信のあった乗り換えに失敗したことがショックであったが、やがて、「今回はちょっと失敗しただけ」と気を取り直し、その先のプランを練り直し、窓外に流れる早春の房総路を眺めているうちに気分はすっかり晴れ、その後の微妙な乗り継ぎもうまく行ったので、自信を取り戻したのである。
しかし、その数年後、自信どころか、乗り換えに対する考え方を根底から覆される事となる。
-第23号(平成17年2月5日)--
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