ж 13 ж 名物は遠くにありて想うもの
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始めて食べた駅弁は「かに寿司」だった。
おそらく山陰の鳥取か米子のものではなかったかと思が、おそらくというのは、駅で買ったのではなく当時はまだ珍しかったデパートの駅弁大会で父が買ってきたからである。
駅で肩から箱を下げて弁当を売っている人がいる事は知っていた。しかし、列車に乗る時はいつも手弁当であったから利用した事は無く、それがどのようなものであるかを知らなかったので、「あの人達はこんな美味しいものを売っていたのか」と、驚いたのであった。
それから幾年かが過ぎ、高校生になるとふらふらと出掛けるようになり、始めての大旅行に選んだのが山陰地方であった。
長年想いをつのらせていた「かに寿司」を食べたかったからである。
夜行列車で山陰に入り、倉吉で念願の「かに寿司」を買った。
箱のデザインに見覚えがあった。わくわくしながら食べてみた。
「ああ、美味しいな」と、思いつつも「ちょっと違うかな」という気もした。
そこで米子でも買ってみた。味は倉吉とさほど変わらず美味しいものであったのだが、やは「???」という思いを乗せたまま、列車は次の目的地の九州へとさしかかっていたのであった。
神奈川県にいた頃、近くへ出かける時はよく「小鯵押寿司」を買った。好みのあじであったし、値段も500円と手ごろでもあった。
神奈川県を離れ、とんとご無沙汰していたのだが、近所のスーパーの駅弁大会で並べられていたので十数年ぶりに食してみた。するとやはり「???」。
これはどちらも長い年月の間に私の味の記憶が膨らみすぎての事であろうとは思われるのだが、後者の場合はもしかするとちょっと違うかもしれない。
昨今、巷では駅弁大会が大はやりだそうだ。先述の様に近所の小さなスーパーでもやっている。
別にそれが悪いとは言わないが、いかがなものであろう。
駅弁はたいてい製造元のすぐ近くの駅で売られている。買った客はそれを列車内や、散策先、自宅等で食べる訳だがその間は常温保存されている事になる。
よって弁当屋さんではそれで美味しいように作っているはずであるが、駅弁大会では「産地より 冷蔵 空輸しました。」などとうたっているものもある。冷蔵庫で保存したご飯は・・・・・・。
大きな大会などではその場で調理するものもあるようで、調理器具など持って来るのだろうが、場所の違いによる使い勝手などはいかがなものであろう。
さらに調理するのはその場であっても、材料は輸送されて来るか、近辺の市場で仕入れをしているはずである。そしてその調理に欠かせない水はおそらく持って来てはいないであろう。どんなによい食材を使ってもデパートのタンクに一時貯蔵された水道の水では・・・・・・。
このような些細な事が味に影響を与えてしまう恐れがあるのでは。
だから私のような偏屈者は駅弁大会は見て楽しむだけにして、買うのは旅行先で、とする様にしている。時には魔が差して手を出してしまう事もあるが、その地方お勧めの名物弁当はなんなのであろうと、旅行の下調べに使っているようなものである。
とは言っても味見をしてみるわけではないので、ただ眺めて、こんなのがあるのか、と思うだけ。もっとも駅弁大会では試食させてくれる事はあまり無い様なのであちこちつまみ食いして全国を巡ってしまおう、というもの難しいようだ。
その大会においての売り上げランキングもよく参考にする。と言うよりも、人があまりにも美味い美味いと言うとつい食べたくなってしまうのだ。
長年ランキングの上位にある弁当を買ってみた。
特急列車なら車内でそれを売っているが、それではせっかく現地まで行った意味が無い。
それで弁当を買うために下車してみた。
改札口を出たすぐ脇の売店でそれは売られており、手に取ると暖かいどころか「あちあち」となるぐらいだったので、それだけで「ここで降りたかいがあったなー」とすぐに待合室で蓋を取った。
開けてみると湯気が上がりその下に東京で見たものよりもたっぷりと汁のかかった弁当が顔を覗かせていた。
一口ほおばってみての印象は「うん、美味い」であったが、食べ進んでいくうちに「ちょっと味が濃いかな」に変わってきた。
それが次第に「これがトップの味なのか?」になった。
結局は駅弁大会に踊らされてしまった事になるのであろうが前評判が良過ぎて私の中で期待感が膨らみすぎていた為の結果なのであろう。
この弁当は有名になっても安価を守り続けているところがすばらしい。
以前は地元で安くて美味しいと評判であった物が、有名になるにつれその販路と生産量を増やし、その店でしか買えなかったものが県内あちこちの店や高速道路のサービスエリアでも手に入るようになる頃には倍の値段になってしまって、味も落ち、旅行者しか買わなくなってしまった名物も少なくない。
また、味は良いのだが、値段がやたら高くて中身は少々高級かなという幕の内弁当が最近増えてきた。名物弁当という事で売り出しているのだが、よくよく聞いてみると弁当が名物なのではなく作っている料理屋が名店だという物だったりする。
幕の内をもってしてその地方の名物だと言うのはいささか疑問があるが、その地方の特産物の詰め合わせみたいな場合もあるのでなんとも言えない。
特産物を扱った内容のよく解る名称を持った弁当にもすこぶる値段の高いものがある。牛肉関係にその傾向が強い様ではあるが、だからと言ってどうせ高い金を出すのならと、その町の店に入って同様の物を頼むと更に高くつくので時間と金の無い私のような者には地方の特産物を味わうのには弁当で充分なのかもしれない。
特に時間が無い時や、その町を素通りするだけなのだがぜひとも特産物を味わってみたいという時には弁当は便利だ。
一昔前に比べてみると駅弁の種類は格段に増えている。もっとも、いくらいろいろな種類の弁当が増えたからと言ってもなんでもかんでも味わえるという訳にもいかない。
秋田に行った時、しょっつる鍋を食べたくなり、駅前の店に入ったことがある。注文すると用意するのに30分程かかると言う。乗り継ぎの列車までは1時間を切ってしまっている。さすがに鍋物の弁当は無かった。
名物弁当が増えたという事は各地方で名物が増えてきたという事でもあろう。と、言うよりも、各自治体などが増やして来た為であろう。
それぞれの土地には細々であれ何らかの特徴ある他所の人が知らないものが有り、それを大々的に発表し、名物として町おこしに役立て様としているからだ。
だから様々な名物があちこちに出来てにぎやかにはなったが、中には怪しいものも有る。
ラーメンが名物という所も多い。しかしこれは宮脇俊三氏が書いておられた「鯉料理が名物という事は名物が他になにも無いから」という鯉料理と同じ事なのではないかと思う。
実際ラーメンが名物の場所でもせいぜいが良い水があるというぐらいで、ラーメンに適した小麦が取れるとか、ダシ専用の豚を飼育しているなんて所は無い。
ましては、ラーメンの麺たる必須アイテムのかん水は日本ではとれないのだから。
栃木県の宇都宮市は餃子が名物として駅前には餃子の象まで作ってしまったが、元はといえば餃子の消費量が他所よりも少し多かったというだけの話である。
私としては、宇都宮駅のすぐ近くで「地球最中」と言う、「なぜ地球最中なんですか」と聞くと「丸いからです」と答えが帰ってきたよく解らないものがあって、こちらの方が地球の臍とでも銘打った名物たるものと思っていたのだが、餃子騒ぎの中何時の間にか無くなってしまったのは残念だ。
ずいぶん昔に富山の「月世界」という菓子を食べた事が有る。
素朴な包みに上品な甘さでとても気に入ったのだが今はどうなっているのだろう。
--第13号(平成15年2月8日)--
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コメント(2)
駅弁は不当に高いからキライですぅ
小松島港駅の竹輪は美味しかったですねぇ。
こういうのが本当の名物ですぅ。
2009/9/20(日) 午後 7:04
本当になんであんなに高いんでしょうね。
今時世間様ではワンコイン弁当が普通になりつつあるのに。
2009/9/21(月) 午後 5:29