大塚山公園
「八王子市鑓水の北端に位置する。標高は213.4m。公園内には、1875年に建てられた小泉寺の別院であった道了堂の跡地がある。 1963年にこのお堂を管理していた老婆が殺害される事件が起きてからはお堂は荒れ放題になり、1990年、八王子市によってお堂を取り壊し大塚山公園とされて整備された。 公園内には、道了堂跡をはじめ、石段や石灯籠などが残っている。」(Wikipediaより抜粋)
ちなみにここは地元のみならず、その筋に詳しい方々の間でも有名な心霊スポットで、「道了堂」とググればいくらでもいわくつきの書き込みが出てくるくらいである。まだ父さんが若い頃には「ボロボロになった廃堂」や「首の無い地蔵(くっつけてもなぜかすぐにまたとれてしまうらしい)」、「墓石」等がそのまま残っていたらしい。今でも興味本位で迂闊に近づくと何かしらの心霊体験や時には結構シャレにならないような目に会うこともあるとか。
そんなやばい所へ行こう等と言いだす鷹野。周りのみんなの反応は「……。」。そりゃ当然だ。そんな所わざわざ行くようなもんじゃないし、万が一シャレにならないような目に遭ったらどうすんだ。しかし鷹野が僕に何か言いたげに目配せをしている。やれやれだ…。
「まあ、ちょっとした肝試しに行くのもおもしろいかも。みんなでもうひとつ夏の思い出作りに行ってみようか?」
渋々フォローしてみる。みんなも多少戸惑いながら、それでも渋々行ってみようということになった。鷹野はノリの右腕をつかんで離さない。どうやら強制連行のようだ。僕は横にいるはーちゃんを見た。表情がすぐれない。か細い肩が震えている。
「ねえ、どうしても行かなきゃダメなのかな……。」
声も震えていた。何だか本気で怯えているようだった。
「うーん、適当なこと言ってバックれちゃえば中止にできないこともないと思うけど…。」
しかし、最初の反応とはうってかわって、周りのみんなはすっかり行く気マンマンになっている。ここで僕たちだけ行かないなんてことになればシラけること間違いなしだろう。そんな空気を読んでかはーちゃんは、
「しようがないよね…、じゃあちょっとだけ行ってみようか。」
諦めたように石段から立ち上がり階段をのぼりはじめる。しかしその足取りは重い。
「ほら~、一葉、サワチン、早く~!先に行っちゃうよ~!」
こっちの気も知らずに鷹野が大きな声でけしかける。お前は空気読めないな全く。
花火を見ていた階段を登り切ると「絹の道」と呼ばれる山道に出る。その道を少し歩くと何やら文字の刻まれた大きな石板がある。ここが大塚山公園の入り口だった。この辺りは木々に周りを覆われているため昼間に訪れても暗い。こんな時間ならもう真っ暗だ。かろうじて月明かりでみんなの姿くらいは認識できるが、もはや誰が誰だかわからないくらいの状況になっていた。
はーちゃんはと言うと僕の腕にしがみついたまま離れないでいた。小刻みに震えるその腕は彼女が本気で怯えていることを僕に知らしめるには充分だった。
「お願い…、絶対に離れないでね……。」
更に強く僕の腕をつかむ。本来ならばこんな状況は喜ぶべきところだろう。好きな女の子にしがみつかれ、しかもその腕には当然彼女のふくよかな胸が…。今の僕はいい意味でも悪い意味でもドキドキしていた。そんな僕らの気持ちなんかそっちのけで鷹野がその場を仕切る。
「みんないる~?それじゃ今から二人一組で肝試しに行くよ~!ペアは組んだ~?」
男女でぺアになる者、男子同士、あるいは女子同士でペアになる者、ケン坊はやっぱり男子と組まされている(笑)。鷹野は当然ノリと、僕はそのままはーちゃんとペアになった。総勢8組のペアができ、各代表者がじゃんけんをする。こんなときに限って勝負運の弱い僕はトップバッターになってしまった。まあ考えようによってはとっとと終わらせて帰れるのでこれはこれでありだろう。
「それじゃあまずサワチン達からね~♪いってらっしゃ~い!」
公園へと続く石段を一歩一歩登っていく。はーちゃんも今にも泣き出しそうな表情で僕の腕をつかんだまま重い足取りで登り始めた。後ろから鷹野の声が聞こえる。
「サワチーン、変な事しちゃダメだよ~!」
……アホか。こんな状況で僕に何をしろというんだ。はーちゃんの為にもちゃっちゃと終わらせて早く安心させてさせよう。
石段を登り切ると公園の広場に出た、と思う。というより真っ暗で何も見えない。少しずつ目が慣れてくるとかろうじて石灯籠やベンチがかろうじて見える。足元に注意しながら前に進んでいく。はーちゃんも少し落ち着いてきたのか、ひとまず震えは収まったようだ。覚悟が決まったのか、早くこんなとこから立ち去りたいのか、足取りも速足になっている。しばらく前に進むと「道了堂跡」と刻まれた石板がある。ここでUターンして帰るんだったな。さぁ戻ろう、と思った矢先、はーちゃんの脚が止まった。
「…?どうかした?」
はーちゃんは御堂の跡地を見つめたまま動かない。すでにさっきまでつかんで離さなかった僕の腕から離れ、一人その場に立ち尽くしている。その目は暗くてよくわからないが、何か一点を見つめている。よく見ると口元がパクパクと動いている。
「はーちゃん、どうしたの?ほら、とっとと戻ろう。」
「……で……しが………れ…く……らな…の…。」
「ん?何?」
「…んで…」
「……はーちゃん?」
「なんで私が殺されなくっちゃならないのよーっ!」
「!?」
なんだ!?どうしたんだ!?やばい!?なんかやばい!?僕ははーちゃんの手をつかんで逃げ出そうとした。しかしはーちゃんの体は石のように重く、なかなか思うように逃げられない。はーちゃんはうわ言のようにまだ何かブツブツ言いながら抵抗する。くそっ!どうしたらいいんだ!
そしてついにはーちゃんは僕の手を振りほどき、再び御堂跡地に向かって走り出した。
「待てっ!はーちゃんっ!」
もともと運動神経のいい彼女、すごい速さで走っていく。僕は見失わないようにするのが精いっぱいだった。
次で終わるといいな~なんて思ったり思わなかったり(笑)
猫のパパ