蛯原信人は木村の高校時代の親友である。2人の通っていた高校は男女共学であった。にもかかわらず入学初年度、つまり高校1年の時、木村はなぜか男子クラスにいた。女子の数が少なかったこともあってか8クラス中1クラスだけ男子だけのクラスがあった。高校を選ぶ際、彼の偏差値では、この高校か男子校の工業高校しか選択肢がなかった。当然女子のいる高校で!と心に決めていた彼にとって、このクラス分けはあまりにも切なかった。そんな気落ちしている彼に声をかけたのが、隣の席に座っていた蛯原であった。
「せっかく共学の高校に来たのにこれはないよね。」
蛯原の一言に木村は大きくうなずいた。そんなこんなで2人は意気投合し、次第に仲良くなっていった。お互い帰宅部ということもあり、学校が終わると2人はよく一緒に遊んだ。とはいっても学生の身、お互いの家に行っては部屋でゲームをしたり、女の子の話をしたり、そんな毎日を過ごしていた。
そして運命の2年目、クラス替えの発表を二人で見に行く。木村は男女共学クラス、蛯原は1年目に続き男子クラスであった。再びがっかりする蛯原に木村は
「残念だったね。でも来年があるよ。」
と声をかけるが、その顔はとても残念そうには見えなかった。明らかに浮かれ顔である。とぼとぼと自分のクラスに行く蛯原を見送り、いざ念願の共学クラスへ。そして教室に入る木村の前に1人の女子生徒が走ってくる。
「あはは、やだぁ、もう、ちがうってばぁ。」
ドンとその女子生徒は木村にぶつかってきた。思わず彼は後ろによろけてしまった。
「あっ、ごめんねぇ。大丈夫?」
その屈託のない笑顔に木村は大丈夫と答えた。本当は彼女の持っていたカバンが、ちょうど彼のみぞおちに入ってしまい、まったく大丈夫ではなかったのだが。この女子生徒こそ、後に木村の心を狂わす女性、永嶋亜衣であった。
つづく