#ギイタク
パラレル



少し慣れたのか、託生がギイの肩に頭を寄り掛からせている。

頭ひとつ分の重みが愛おしい。

上から見る託生のまぶたにまつ毛。

可愛い目元…。

ああキスしたい。と顔を覗き込もうとしたら、託生が目を上げたので、ばちっと目が合ってしまった。

ギイは、やましい気持ちを見抜かれたかと、心臓が跳ね上がる。

託生は無邪気な顔で、ギイを見た。

「そういえばさぁ、崎くんは、
 あれするな、これするな、
 あれしろ、これしろ、言わないね」

どっから来たんだ?その話題。
託生は、黙ってるとインナートリップしてる。
相変わらず変な奴。
変だけど、託生が言うとまぁ天然。

ギイは託生の頭を撫でた。

「言うぞー?」

「あ、言うの?」

あれしろこれしろ、ねえ。
色々させたいのは、山々ですがね。
そんな無垢な顔されたら、犯罪冒す気分です。

「まず、崎くんやめろ、ギイだ」

託生は、ふにゃと笑ってうなずいた。

「あ、うん。
 愛称って距離感だから、崎くんがいいなら、僕もギイがいいよ」

おや、至極まともな感覚と見解が返って来た。

「よし。
 次、浮気はするな」

託生の首を振る反応は、『あり得ません』的な感じ。
まぁね。
そういうタイプだよな。

「…するわけ無いでしょ。
 あ、他の人と喋るな、とか?」

「訳あるかよ、どんどん喋れ。 
 友達作れ。
 でも恋人はオレだけだ」

「そりゃそうだよ。
 だって尚は、他と話すの嫌がったから」

…どんだけ束縛だよ。
にーちゃん。

「あとは!
 デート、しよう!
 外出許可取れ、校内でも寮内でもロクにイチャイチャ出来ねー。
 外に出てイチャつくぞ」

託生は嬉しそうに笑った。

「うん。
 ペタペタしたいね。僕もだよ」

託生はオレが触っていいんですか?
オレはめっちゃ触りたいです。 

だって託生、髪も頬もサラサラすべすべ、そんじょそこらの女の子より、絶対気持ちいい。
(そんじょそこらの女子ごめん。
恋って所詮こんなもん)

…可愛い。

託生を見詰めてたら、託生が顔を上げた。

「ギイ他はぁ?」

「いや、逆にお前は何かないの?」

託生が、んー、と考える。

そして、ぱち、と目を上げて

「好きって言って」

「…好きだよ」

「キスしていい?」

「はい」

ギイは、託生の後頭部に手を差し入れて、唇を合わせた。

そのまま託生が抱き付く。

「気持ちいい。
 ギイ大好き」

ああ

ああもう、悩殺…。

託生、可愛過ぎるぞ。

見た目のピュアさから、普通にキスしたいとかってギャップ萌えはなばたしい。

…下半身にクル。

いや、我慢。

純粋にお付き合いお付き合い。

兄貴の時みたいに目の前で泣かれたくないぞ。



クラスに託生と同じ中学出身がいた。
託生の中学は祠堂離れてるから、これは稀。

奴はうなずく。

「あー同中だから知ってる。
 葉山ね、ヤバい奴。
 いや、葉山はそんなにヤバくないか、
 ちょっと異常なお兄さんだよね、あれ。 
 でもされるがままの葉山も、見てて結構ヤバかったよ」

されるがまま?
何かされてたとか聞かないけどな。

「でも葉山も、それを良しとしてる、っていうか
 ニコニコしてたよね。
 自分の意志なく、お兄さんがいいなら、いいか、的な。
 お兄さんが喜ぶのを、基準に自分が動いてた感じ?」

…それって仲良いのかなぁ。
あんま、オレは自分の思い通りに、ってのつまんないけど。
託生は意外と変な個性が可愛いのに。

同中の奴は、思い出すのか、眉を寄せる。

「ある意味変。
 葉山ペット化してたよ
 束縛、超多かったよ。
 あれするなー、こうしとけー、って。
 葉山、うんうんうなずいてたけど…あの制限ナニ?何か不治の病にでも、葉山は犯されてるの?
ってくらいには」

だから、あの行動力のなさか。

出来ないんじゃない。

させてもらえなかったんだ。

兄貴の言われた通りに動く。

まるで、兄貴がいなくなったら生きていけないような気に…させられないか?

ギイはゾッとした。

同中の奴の懐古は続く。
よほどインパクトあったんだな。

「葉山にさあ、自主性ってあるのかなあって不思議だった。
 お人形さんみたいだったもん。
 だから、正直、ギイとたどたどしくだけど、一応会話になってるっぽいし、ちゃんと適切なとこで、笑ったりびっくりしたりしてるっぽいから、ホッとしてる」

同中の奴は、ギイの胸に人差し指を当てる。

「だからさ、以前の葉山を知ってる奴らは、まぁ心の病気ってほど無かったか、ってホッとしてる。正直、コイツ病んでね?って見てたから。
 高校からの奴らは、分かんないよ?
 ギイ、自分の立ち位置自覚してる?
 人気もんだよ?
 下手に優しくし過ぎると、葉山周りから恨まれるよ?」

別にギイは、自分の身くらい自分で守るけど。

託生は…

今までお兄ちゃんが守って守ってきたなら、自分で出来ないかもな?

あれ?

この恋愛、すんなり続行出来ないか?

ギイは託生を気に入り過ぎて、周りを見てなかった。

託生の方が、言ってなかったか?

「モテるんだね。
 一緒にお散歩とか、恨まれるかな?」

え、大丈夫か?

裏で何か嫌がらせされてないか?

ちょっと不安になってきた。 



託生は、あの朝陽が昇る絵を評価され、何か入賞したらしい。

ギイも市の美術展に見に行ったけど、そこにあった絵は、託生が必死で見届けようとしていた日の出の空ではなかった。

託生が何かから抜け出そうとする、痛いほどの決意が描かれていた。

あの色のグラデーションは、確かにギイも見たものだけど、多分美術室にハマり込んで描いてた後があれになったんだ。

タイトルも

『Go ahead』


『前へ』

進みたいと、託生の絵は訴えていた。

進もう?

託生、オレと一緒に進もう?