#ギイタク
パラレル
10年後の二人
#病気の話が絡みますので
不快な方は読み進めないようお願い致します。




『ギイは、安心して忘れていいよ。』

『僕が全部覚えてるから。』

僕の繰り返しにギイが笑う。

「普通、忘れないで、って言うんじゃないのか?」

「そうかな。
 そうだね、あ、でも『それ忘れて〜っ』って事も沢山あるなぁ」

ギイがクスクス笑う。

「何」

託生は、頬杖をついてギイを振り返る。

「高校1年の僕とか?」

ギイが苦笑した。

「そりゃ、忘れらんないなぁ。
 すっごい愛想悪くて、しょっちゅうトラブルばっかり起こしてる託生」

託生はうつ伏せた。

「あー、やめてー」

「何度、赤池と現場に駆け付けたかなぁ」

託生は、ギイに頭を下げる。

「その節は、大変お世話になりました」

「大変お世話をしました。
 『余計なお世話だ』
 『放っておいてくれないか』
 だけどね」

「もー、何その記憶力っ。
 やだやだ恥ずかしい」

ギイが笑う。
託生も笑う。

一番輝いてたね。

毎日わちゃわちゃ。

一番楽しかった。

託生は、遠く10年前を見遣る。

「楽しかったね、でも今も一緒いられて楽しいよ?」

ギイがうなずく。

「だな。
 託生といるのが、一番気持ちがいいよ」

緩く流れる…

心地良い時間だ。

ありがとう

神さま。

僕に、もう望めなかったはずのギイとの時間を与えてくれて、

本当にありがとうございます。

手放しで喜ぶわけではないけど

感謝してます…。





必ずギイは、喋る時、始めに託生の名前を呼んだ。

梅雨空を見上げる。

「たくみー、雨降って来た」

「ホントだ。
 ギイ、窓閉めようね」

「たくみー、花が咲いた」

「紫陽花が綺麗だね。
 雨を好きな花だね」

ギイのブラウンの瞳が、託生を見詰める。

「ふうん。
 たくみの好きな人は?」

託生は、ギイの首に腕を回す。

そっと口付けて瞬きをして、ギイの光に透けると黄金に近くなる茶色の瞳を見詰める。

「ギイだけだよ」

そのままキスを首にずらして…

分かる限りギイと身体を触れ合わせた。

少しでもギイの近くにいたかった。

ギイが自発的に託生に何かすることは、大分減っていたけど。

なんとなく、ギイの腕は託生の背中を抱きしめて、触れられる感覚に身を置いていた。

「たくみ…」

「うん?」

ギイが、託生の髪に頬を擦り寄せる。

「たくみー」

「はい。ギイ?」

ギイの腕が、託生を抱きしめる。

「オレのたくみ」

「うん、ギイの僕だよ。
 たくみだよ」

「たくみ」

ギイが覚えていたかったからか、

僕の耳に残り続ける為に呼び続けてくれたのか、

どちらかは分からない。

何度も何度も

「たくみ」

ギイは繰り返した。

「たくみ」

何度聞いても、心地良かった、ギイの僕を呼ぶ声。

そして何かにつけ、託生の顔を見詰める。

くすぐったくて、託生は笑う。

「なぁに、ギイ」

「たくみを、ずっと見ていたい」

「僕もだよ、ギイ」

でもギイ?

僕の名前より、

僕の顔より、

「愛してるよ、ギイ」

愛されていたことを、最後まで覚えていて欲しいな。

ギイ。

こんな形を望んだ訳ではなかったけど…

一緒にいられて、僕は、とても

とても嬉しいんだ。



こんな優しい時間を

僕にありがとうございます

神さま…