膨大なので、収録内容は最後で。

 

 同時に同じScribendumのメルツェンドルファーのハイドン交響曲全集33枚組も購入しましたが、ヒストリカル録音廉価レーベルのボックスは、2つの傾向がありますね。

 1つは過去にメジャーレーベル(デッカとかウェストミンスターとか)で販売されたものを集めて廉価に提供するの。無論ありがたいことではあるが、結局多くが知る録音を追うことになり、面白みがないので、このパターンは安くても手を出してません。

 2つ目は、このマリア・ユージナボックスがそうなのだが、今まで入手しにくいレーベルで単発的にしか売られてこず、大系的にコレクションするのが極めて困難だったものを集大成してくれるもの。このマリア・ユージナは過去にVeneziaとBrilliantでボックス出てましたが、それでも今もまたありがたいことには違いない。そういうのを狙って買っていきたいです。一緒に勝ったメルツェンドルファーの方はCDの形ではScribendumが初出だしね。

 

 マリア・ユージナの演奏は奔放と言われる。剛直さが耳に付きやすい。強打で、切れ味鋭いというより、鉈で叩き切っていくような印象を与えるところが多いですね。ただし、音色は別に汚くはならない。

 

 以下、順不同でざっと感想。

 

 私はベートーヴェンのピアノソナタは今はほとんど聴いておらず、演奏の判断はあまりつかないのだが、それでもボックスのたくさんの枚数からとりあえず抜き出して聴き始めたうち、22番ヘ長調 op.54 には違和感を覚えた。第一楽章の主題で、旋律の流れをつなげることを無視したかのようなそれぞれの音が浮いた強い打鍵。これは音符と動機が縦横無尽に飛び交っている感はあり、スケールは非常に大きい。解釈としては普通にありと思いますが、ピアノ学習者が真似するのはやめた方がいいのでしょう。

 28番イ長調 op.101 はベートーヴェンピアノソナタ中最も好きだが、これは超名演といえます。トリスタンの先取りと言われる1楽章に始まり、あるピアニストが“グロテスク”と評したフーガもどきの最終楽章で終わる、極めて特異な作品だが、とにかく最終楽章の演奏が完璧。あの難曲を軽やかなタッチで易々(聴き手にそういう印象を与える時点で驚異的)と奏していき、大きな旋律の流れも自然に、滑らかに浮かび上がらせていく。モーツァルト演奏かのような印象です。1~3楽章も良いのだが、あの最終楽章フーガもどきをここまで完璧に音楽として演奏したのを他に知らない。必聴といえます。

 

 シューベルトの即興曲は、初め「えらく強い打鍵による‘固い’演奏だなあ」と思ったのですが、聴き進めるうち、ブロックを積み重ねて塔を造っているのを眼前にしている印象となりました。なるほど、構築性を問題としたかったのか。シューベルト自身はベートーヴェンの構成力を終生追い求めて、それはピアノソナタ19,20あたりでの苦心に反映されているが、こうしたピアノ小品演奏でそうしたアプローチをするのは初めて聴いた。さすがにもっと抒情性を押し出すのが本筋だろうとは思うが、説得力はすごいですよ。何も考えないふわふわした演奏ではありませんしね。

 第21番変ロ長調 D.960 の1楽章を聴くうちに精神が浄化されていくかのような感覚に持って行かれるのはやばい……。展開部で、魂が天上に連れ去られていきます。やはり打鍵は強めなのだが、その衝撃から浄化の蒸気が立ち上っているかのよう。最終楽章は変に色づけしようとしない、モーツァルトかハイドンかのような演奏の始まり方をするのだが、伴奏の響きが分厚くなっていくにつれ、小細工無しの強みが出てかっちりした構成感を与えて終わります。それでも何だかんだ情趣があるのがさすがですね。

 

 ブラームスのピアノ四重奏曲。これはピアノも弦も強い音色。人によると、きついという感想まで抱くかもしれないが、最初に言った鉈で叩き切るかのよう。恐らく弦もユージナの解釈に合わせているのでしょう。シューベルトと同じように、抒情より構成感重視という感じだが、それだけに追うほどに音楽がわかりやすいですね。ただ、展開部のクライマックスとかは浄化感が増していき、敬虔な正教徒であったというユージナの祈りを聴いているかのよう。ブラームスでこういう演奏解釈をするか……。私は聴いていて楽しめましたが、一般的でないのは確かでしょう。

 

 音楽的には超一級であり、一般的でない解釈が時に見受けられるとはいえ、高い技術と音楽性で説得力を持たせるのはどうあれ偉大です。ある程度深いクラシック(特にピアノ)音楽愛好家は間違いなく買って揃えるべきボックスと断言できます。ただ、ほとんどの演奏はYouTubeに転がってますけどね。興味のある方はどうぞ。

 

 他演奏も聴いて徐々に追記していきます。

 

CD1
●バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻より14の前奏曲とフーガ
・第1番ハ長調 BWV.870
・第2番ハ短調 BWV.871
・第3番嬰ハ長調 BWV.872
・第4番嬰ハ短調 BWV.873
・第5番ニ長調 BWV.874
・第6番二短調 BWV.875
・第7番変ホ長調 BWV.876
・第8番変ホ短調 BWV.877
・第9番ホ長調 BWV.878
・第10番ホ短調 BWV.879
・第11番ヘ長調 BWV.880
・第12番ヘ短調 BWV.881
・第15番ト長調 BWV.884
・第21番変ロ長調 BWV.890
Recording: 1953-1957

マリア・ユージナ(P)


CD2
●バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988
Recording: 1968/69 January 1968

マリア・ユージナ(P)


CD3
●バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より6つの前奏曲とフーガ
・第19番イ長調 BWV.864
・第20番イ短調 BWV.865
・第21番変ロ長調 BWV.866
・第22番変ロ短調 BWV.867
・第23番ロ長調 BWV.868
・第24番ロ短調 BWV.869
Recording: 1951-1955

●バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
Recording: 4th September 1948

●バッハ:前奏曲とフーガ イ短調 BWV543 (編曲:リスト)
Recording: 1950 or 10th April 1952

●バッハ:前奏曲 嬰へ短調 BWV883
●バッハ:トッカータ ハ短調 BWV911
Recording: 1936

マリア・ユージナ(P)


CD4
●モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 KV 466
Recording: 1948
セルゲイ・ゴルチャコフ(指揮)モスクワ放送交響楽団

●モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 KV 488
Recording: 1948
アレクサンドル・ガウク(指揮)モスクワ放送交響楽団

●ハイドン:ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob XVI:52
Recording: 6th October 1951

マリア・ユージナ(P)


CD5
●モーツァルト:デュポールのメヌエットの主題による9つの変奏曲 ニ長調 K.573
Recording: 18th May 1948

●モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K 475
●モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K 397
Recording: 6th October 1951

●モーツァルト:アダージョ ロ短調 K 540
●モーツァルト:ロンド イ短調 KV 511
Recording: 1963

●モーツァルト:ピアノ・ソナタ ヘ長調 K 533
Recording: 1964

マリア・ユージナ(P)


CD6
●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58
Recording: 1948
クルト・ザンデルリング(指揮)レニングラード・フィルハーモニー交響楽団

●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73
Recording: 16th December 1950 live
ナタン・ラフリン(指揮)USSR全同盟放送交響楽団

マリア・ユージナ(P)


CD7
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 Op.10 No.1
Recording: 3rd May 1950

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 Op.26
Recording: 9th September 1958

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第16番 ト長調r Op.31 No.1
Recording: 22nd August 1951

マリア・ユージナ(P)


CD8
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22番 ヘ長調 Op.54
Recording: 25th July 1951

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op.90
Recording: 8th September 1958

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番 イ長調 Op.101
Recording: 1959

マリア・ユージナ(P)


CD9
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調『ハンマークラーヴィーア』 Op.106 
Recording: 1952

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111
Recording: 26th June 1958

マリア・ユージナ(P)


CD10
●ベートーヴェン:創作主題による15の変奏曲とフーガ(エロイカ変奏曲)変ホ長調 Op.35
Recording: 7th April 1961

●ベートーヴェン:ディアベリのワルツによる33の変容(ディアベリ変奏曲)ハ長調 Op.120
Recording: 30th June 1961

マリア・ユージナ(P)


CD11
●ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO 80
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調『月光』 Op.27 No.2
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調『テンペスト』 Op.31 No.2
●バッハ:前奏曲とフーガ イ短調 BWV543 (編曲:リスト)
●プロコフィエフ:束の間の幻影 Op.22 (抜粋)
I. Lentamente
II. Molto giocoso
III. Inquieto
IV. Dolente
●シューベルト:『白鳥の歌』~「海辺にて」 D.957 No.12 (編曲:リスト)
Recording: Live in Kiev 4th April 1954

マリア・ユージナ(P)


CD12
●シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 Op. Posth. D.960
●ボロディン:小組曲(抜粋)
●シューベルト:楽興の時 第3番 ヘ短調 Op. 94 D.780
●モーツァルト:レクィエム~「涙の日」 KV626 (arr. K. Saltykov)
●ムソルグスキー:『展覧会の絵』~「古城」
Recording: Live in Kiev 4th April 1954

マリア・ユージナ(P)


CD13
●バッハ:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第3番 ホ長調 BWV1016
Recording: 1950

●ベートーヴェン:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第6番 イ長調 Op.30 No.1
Recording: 7th July 1950

マリーナ・コゾルポーヴァ(ヴァイオリン)
マリア・ユージナ(ピアノ)

●リスト:バッハのカンタータ『泣き、歎き、憂い、怯え』の主題による変奏曲 S.180 
Recording: 28th February 1950

●シューベルト:即興曲 変ホ長調 D.899 No.2
●シューベルト:即興曲 変イ長調 D.899 No.4
●シューベルト:即興曲 変イ長調 D.935 No.2
Recording: 15th January 1956

マリア・ユージナ(P)


CD14
●シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
Recording: 1947

●ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 Op.24 
Recording: 1948

マリア・ユージナ(P)


CD15
●タネーエフ:ピアノ四重奏曲 ホ長調 Op.20
Recording: 1953

●タネーエフ:ピアノ五重奏曲 ト短調 Op.30
Recording: 1957

マリア・ユージナ(ピアノ)
ベートーヴェン弦楽四重奏団


CD16
●シューマン:幻想曲小曲集 Op.12
Recording: 1951-1952

●シューマン:予言の鳥(森の情景 Op.82,第7番 ト短調)
Recording: 1952

マリア・ユージナ(P)

●シューベルト:ピアノ五重奏曲 イ長調『ます』 Op.114 D.667
Recording: 19th November 1960

マリア・ユージナ(P)
ウラディーミル・コメンコ(コントラバス)
ベートーヴェン弦楽四重奏団のメンバー


CD17
●ブラームス:間奏曲 Op.116 No.2 イ短調
Recording: 1968

●ブラームス:間奏曲 Op.117 No.1 変ホ長調
Recording: 1968

●ブラームス:間奏曲 Op.117 No.2 変ロ長調
Recording: 1968

●ブラームス:間奏曲 Op.117 No.3 嬰ハ短調
Recording: 1951

●ブラームス:間奏曲 Op.118 No.1 イ短調
Recording: 1952

●ブラームス:間奏曲 Op.118 No.2 イ長調
Recording: 1968

●ブラームス:間奏曲 Op.118 No.4 ヘ短調
Recording: 1952

●ブラームス:間奏曲 Op.118 No.6 変ホ短調
Recording: 1966

●ブラームス:間奏曲 Op.119 No.2 ホ短調
Recording: 1968

●ブラームス:間奏曲 Op.119 No.3 ハ長調
Recording: 1952

●ブラームス:ラプソディー ト短調 Op.79 
Recording: 1952

●メトネル:ピアノ・ソナタ第1番 変イ長調Op.11-1
Recording: 30th October 1958

●メトネル:ピアノ・ソナタ第2番ニ短調 Op.11-2
Recording: 7-12 July 1958

●メトネル:ピアノ・ソナタ第3番ハ長調 Op.11-3
Recording: 13-21st July 1958

マリア・ユージナ(P)


CD18
●ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番
Recording: 10th December 1968

マリア・ユージナ(P)

ドミトリー・ツィガノフ(Vn)
フョードル・ドルジーニン(Va)
セルゲイ・シリンスキー(Vc)

●ストラヴィンスキー:ピアノと管楽のための協奏曲
Recording: 1968

マリア・ユージナ(P)
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(指揮)モスクワ放送交響楽団


CD19
●ムソルグスキー:夢
●ムソルグスキー:瞑想曲
●ムソルグスキー:涙
Recording: 9th September 1949

●ムソルグスキー:スケルツォ 嬰ハ短調
Recording: 4th April 1950

●ムソルグスキー:歌劇『ボリス・ゴドノフ』~主題による3つの小品 (編曲:カメンスキー)
Recording: 8th December 1969

●ムソルグスキー:組曲『展覧会の絵』
Recording: 1967

マリア・ユージナ(ピアノ)


CD20
●ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調
Recording: 12th June 1961
ナターリア・シャホフスカヤ(チェロ)マリア・ユージナ(ピアノ)

●プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 Op.119
Recording: 21st February 1966
Lev Evgrafov(チェロ)マリア・ユージナ(ピアノ)

●オネゲル:ヴィオラ・ソナタ H.28
Recording: 12th October 1960

●ヒンデミット:ヴィオラ・ソナタ ヘ長調 Op.11 No.4
Recording: 28th April 1960
フョードル・ドルジーニン(ヴィオラ)
マリア・ユージナ(ピアノ)


CD21
●ドビュッシー:24の前奏曲~『パックの踊り』(クラリネットとピアノのための編曲版)
●ドビュッシー:24の前奏曲~『ヒースの荒野』(クラリネットとピアノのための編曲版)
Recording: 1963

●ベルク:クラリネットとピアノのための4つの小品 Op.5 (1913)
Recording: July 1966

●オネゲル:クラリネットとピアノのためのソナタ H 42
Recording: 1966

●ヒンデミット:クラリネットとピアノのためのソナタ 変ロ長調
Recording: July 1966

●プーランク:クラリネット・ソナタ 変ロ長調 FP.184
Recording: 1967

マリア・ユージナ(ピアノ)
レフ・ミハイロフ(クラリネット)


CD22
●シマノフスキ:9つの前奏曲 Op.1
Recording: 1956 

●シマノフスキ:変奏曲 Op.3
Recording: 20th January 1956

●ヒンデミット:2台ピアノのためのソナタ
Recording: 1970

マリア・ユージナ(P)
マリーナ・ドルズドヴァ(P)

●ヒンデミット:ソナタ第3番 変ロ長調
Recording: 2nd April 1960


CD23
●バルトーク:ミクロコスモス~8つの小品23. 
No. 128. Peasant Dance: Moderato 
No. 132. Major Seconds Broken and Together: Adagio 
No. 137. Unisono: Moderato 
No. 142. from the Diary of a Fly: Allegro 
No. 144. Minor Seconds Major Sevenths: Molto Adagio Mesto 
No. 145. Chromatic Invention (The 2 Versions Played at the Same Time): Allegro 
No. 146. Ostinato: Vivacissimo 
No. 149. Dance No. 2 of the 6 Dances in Bulgarian Rhythm
Recording: 8 January 1964
マリア・ユージナ(ピアノ)

●バルトーク:コントラスツ,クラリネットとヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲 Sz.111 BB 116 
Recording: 1966
マリア・ユージナ(ピアノ) 
レヴ・ミハイロフ(クラリネット)
ヴィクトル・ピカイゼン(ヴァイオリン)

●バルトーク:2台ピアノと打楽器のためのソナタ
Recording: 1962
Maria Yudina piano; Victor Derevianko piano; Valentin Snegiriov & Ruslan Nikulin percussion


CD24
●ストラヴィンスキー:サーカス・ポルカ(若い象のための)
Recording: 3rd March 1964

マリア・ユージナ(P)

●ストラヴィンスキー:2台ピアノのための協奏曲
Recording: 1963

マリア・ユージナ(P)
ヴィクトル・デレヴヤンコ(p

●ストラヴィンスキー:デュオ・コンチェルタント
Recording: 1963

マリア・ユージナ(P)
ヴィクトル・ピカイゼン(ヴァイオリン)

●ストラヴィンスキー:イ調のセレナーデ
Recording: 3rd February 1962

マリア・ユージナ(P)

●ストラヴィンスキー:2台ピアノのためのソナタ
Recording: 1962

マリア・ユージナ(ピアノ)
マリーナ・ドルズドヴァ(ピアノ)

●ストラヴィンスキー:ピアノ・ソナタ ハ長調
Recording: 1962

マリア・ユージナ(P)


CD25
●シャポーリン:ピアノ・ソナタ第2番 ロ短調 Op.7
Recording: 23rd May 1959

●マルティヌー:端午節 H.318
●マルティヌー:マラケ河岸の花束 H.319
Recording: 21st June 1961

●プロコフィエフ:ロメオとジュリエット~抜粋
Recording: 24th July 1952

●プロコフィエフ:束の間の幻影 Op.22
Recording: May & July 1953 

●セロツキ:前奏曲の組曲
Recording: 1953

マリア・ユージナ(P)


CD26
●ベルク:ピアノ・ソナタ ロ短調 Op.1
Recording: 10th June 1964

●クレネク:ソナタ Op.59
Recording: 1961

●ジョリヴェ:ピアノ組曲『マナ』~La Chevre La Vache La Princesse de Bali
Recording: 24th August 1964

●ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第2番ロ短調 Op.61
Recording: 5th October 1965

マリア・ユージナ(P)

●ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲
Recording: 3rd March 1964

マリア・ユージナ(ピアノ)
マリーナ・ドルズドヴァ(ピアノ)

 

Various: from Vienna Various: from Vienna
1,251円
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『ウィーンより』
モーツァルト::クラリネット三重奏曲変ホ長調 K.498《ケーゲルシュタット・トリオ》、
         ピアノと木管のための五重奏曲変ホ長調 K.452
ベートーヴェン::ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調 Op.16
シェーンベルク(ウェーベルン編)::室内交響曲第1番 Op.9(ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネットの五重奏版)
ツェムリンスキー::クラリネット、チェロとピアノのための三重奏曲ニ短調Op.3/
ベルク::室内協奏曲より アダージョ
J・シュトラウス2世(シェーンベルク編)::皇帝円舞曲

ロンドン・コンコード・アンサンブル
2012年-2015年

Champs Hill Records

2枚組

 

 これは驚異的でした。いや、ガチで驚いた。

 

 まず私はシェーンベルク好きなんですね。CDはかなり集めてきた。お気に入りのChamps Hillレーベルで、普段から聴きやすいモーツァルトの楽曲とのカップリング2枚組とのことで注文したの(あまりよく試聴はしていない)。

 シェーンベルクとモーツァルト半々が目的だったが、正直シェーンベルクの方はさほど期待してもいなかった。彼の作品9の室内交響曲は超傑作だが、これがウェーベルン編曲のピアノ五重奏版となると、やはり編成が小さすぎるあまりの無理が感じられたんですね(あれだけ複雑な曲だもの……)。いくつかCDを買って聴いてみたが、どれも響き的に単調でしかなかった。なので、今回も以前からのマニア心の惰性で注文してみました。

 

 届いたのをBGMのため、何の気無しにプレーヤーに放り込んだら、冒頭のヴァイオリンの音で違和感を感じた。何じゃこりゃ? ガチガチ? めっちゃ不安定じゃない? 力みすぎてない? ライブ? にしてもこんなのプロの演奏でありうる? Champs Hillは若手演奏家起用中心のレーベルと承知しているが、そういうことなのか?(この時はロンドン・コンコード・アンサンブルがかなり活躍している演奏団体とは知らなかったん……)

 ところが、聴き続けるうち、ただものでないと気付きましたね。フレージングやアーティキュレーションが滅茶苦茶細かく刻まれているの。冒頭の不安定さに感じられたヴィブラートもその趣旨。で、それを支える演奏技術も非常に高い。

 ヴァイオリンもチェロもフルートもクラリネットもとんでもなく細かく表情付けされてますよ。無論、ピアノも呼応して完璧に渡り合っている。今まで聴いた3~4種類ほどの演奏はどれもこれもこんなじゃなかったよ。ずーっと一本調子だったの。

 なるほど、オリジナルの15楽器の響きをピアノ五重奏で再現するにはここまでやるしかないのか、と納得しましたが、そもそも楽譜にこんなに細かく発想記号書いてあるのか? という疑問も。あのウェーベルンならやりかねないという気もするが……。でも、他演奏はこんなじゃなかったからねえ。スコア見れば一発なんですが。ただ、スコアがどうあれ、これは素晴らしい成果と思いました。どうあろうと断固支持する。ここまでして初めてオリジナル編成に匹敵する表現力を得られる。このピアノ五重奏編曲版で初めて心から満足できる演奏でした。

 

 ツェムリンスキーのトリオも素晴らしい! 寄せては返す波のうねりのような音楽の息づきを感じます。響きに心を乗せての情動が自覚される。

 

 ベルクのアダージョの情念もぴったりだし、ヨハン・シュトラウスⅡのシェーンベルク編曲後半の盛り上がりはオケを想起させるほどの表現力でした。こいつはすごいぜ。

 

 あっ、モーツァルトとベートーヴェンはそこまで……。いい演奏ではありますが、頭抜けたところはない。室内交響曲を聴いた時予想した通り、あくまで近代の濃密なテクスチュアの曲表現に長けた団体のようですね。

 

 ブックレットの、CDケースを開けたらすぐ目につく裏カバーに同団体演奏の別CDとして、プーランクの室内楽曲が紹介されており、こちらも試聴してみたらとんでもない演奏のようです。いずれ買います。プーランクの室内楽曲ってかなりの数のCDが出てるけど、どれもこれも一本調子で、心動かされる演奏に出会った経験はほとんどないんですよね。皆様もよければ試聴のほどを。

 

Complete Chamber Music Complete Chamber Music
1,902円
Amazon

 

 

 

ファイン・アーツ四重奏団 WFMT放送録音集

 

ファイン・アーツ四重奏団
〔レナード・ソルキン(Vn)アブラム・ロフト(Vn)
ジェラルド・スタニック(Va1968年前)
バーナード・ザスラフ(Va1968年後)
ジョージ・ソプキン(Vc)〕
ジョン・ブローニング(P)ナオミ・ザスラフ(P)
バリー・タックウェル(Hr)
録音:1967~73年

Music & Arts Program

 

 CD8枚組で、収録曲が数多いので、収録曲情報は記事最後に回します。といっても、ほとんど(7~8割ほどの割合)がハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典派弦楽四重奏曲ですが。

 

 私はMusic & Arts Programレーベル好きなんですよね。ヒストリカル復刻レーベルは数多くあれど、音質のクリアな堅牢さといい、CDの高級感といい、持ってるとそれだけで贅沢な幸せな気分になれるの(特にボックス)。

 そういう興味から入って、まず試聴してみたのだが、一瞬で演奏に魅了されました。即座に注文して、届くまでの間繰り返し試聴して、全曲を聴いた時のことを想像しましたよ。

 

 67~74年の録音だが、音質は非常にいい(もちろんヒストリカル基準)。放送用録音だけあって、雑音は一切無し。聴きやすいですね。

 

 ヴィブラートのほとんどない、すっと伸びる弦の音色。これがたまりませんね。といっても、スカスカの音色じゃないの。古い演奏に見受けられる、香気のようなものと同居して豊かに鳴り響いている。

 

 特にハイドンの演奏が素晴らしい。ハイドンの弦楽四重奏曲は全8枚中2枚を占めているが、試聴で一番関心を惹かれ、聴きたかったのがこれなの。

 ハイドンの曲はカッチリしていて、構築性と響きを同居させるのが難しいと思います。楽器数が多い交響曲ならまだしもだが、弦楽四重奏曲で耳を満足させる演奏に出会うことはなかなかない。モーツァルトの豊かな和声や、ベートーヴェンの面としての響きで攻めれませんからね。線で音楽を紡ぎ上げていき、響きでも耳を満たす必要があるという非常な至難曲。私は基本古楽演奏好きながら、ハイドンばっかりはスカスカの響きに陥って、貧相な聴取感しか与えないという演奏に出会ったりしました。

 しかしこのファイン・アーツ四重奏団の演奏いいですねえ。ヴィブラート控え目であっさりと奏され構築感がよく出ているのに、先に述べた香気で単純に響きとしても心地よい。プロ・アルテ弦楽四重奏団といい、極めて自然に古典的な様式感覚を身に着けている古い演奏にハイドンの良演が多いと思います。

 

 モーツァルトもベートーヴェンも素晴らしいですよ。特に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンでお互いフレーズ渡し合うところがたまりません。芳醇な響きでくっきり立体的に立ち上がってくるの。

 ただ、ホルンの曲は演奏が駄目な感じですね。ミスもあるし。何かこのホルンやたらキンキンして耳障りだなあと思ったら、バリー・タックウェルだったのか……。あまり好きなホルン奏者じゃないんですよね。ブラームスのホルントリオは滅茶苦茶好きな曲だけに、少々惜しい。

 

 バルトークは駄目駄目な感じでした。明らかに様式感覚の把握に戸惑いを感じられる。響きは相変わらずめっちゃ綺麗で、縦の和音はよく揃っているんですが、まるで流れがない。何か意味も分からないまま、立派な声で朗読されてる感じ。もたついたりもしますし。

 

 ヒンデミット、ジャン・マルティノン(指揮者の)の曲はいい演奏でした。もっとも、ここら他の演奏そこまで知らないからそう感じるだけかも知らないけど。ある程度古典的な様式で動機がガチャガチャ動く演奏になると強いね。

 

 とにかくこれは素晴らしいアルバムボックスでした。届いたその日だけで次々かけ続けていきましたよ。真面目に聴いても、BGMとしても最高。もっと録音が掘り起こされ、CD化されないものかと思います。

 

【曲目】
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番ヘ長調Op.59-1『ラズモフスキー第1番』
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第8番ホ短調Op.59-2『ラズモフスキー第2盤』
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第9番ハ長調Op.59-3『ラズモフスキー第3番』
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番イ短調Op.132
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番ヘ長調Op.18-1
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番変ロ長調K.458『狩り』
モーツァルト:弦楽四重奏曲第20番ニ長調K.499『ホフマイスター』
モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調K.493
モーツァルト:アダージョとフーガ ハ短調K.546
モーツァルト:ホルン五重奏曲変ホ長調K.407(386c)
ハイドン:弦楽四重奏曲第0番変ホ長調Op.1-0
ハイドン:弦楽四重奏曲第11番ニ長調Op.2-5
ハイドン:弦楽四重奏曲第12番変ロ長調Op.2-6
ハイドン:弦楽四重奏曲第35番ヘ短調Op.20-5,
ハイドン:弦楽四重奏曲第68番変ホ長調Op.64-6
ハイドン:弦楽四重奏曲第78番変ロ長調Op.76-4『日の出』
ハイドン:弦楽四重奏曲第80番変ホ長調Op.76-6
ブラームス:弦楽四重奏曲第2番イ短調Op.51-2
ブラームス:ホルン三重奏曲変ホ長調Op.40
バルトーク:弦楽四重奏曲第3番
ヒンデミット:弦楽四重奏曲第3番
フサ:弦楽四重奏曲第3番
シーモア・シフリン:弦楽四重奏曲第4番
マルティノン:弦楽四重奏曲第2番Op.54

 

 

モーツァルト:フルート協奏曲全集
フルート協奏曲第1番ト長調 K.313
フルート協奏曲第2番ニ長調 K.314
フルートとハープのための協奏曲ハ長調 K.299
アンダンテ ハ長調 K.315
ロンド ニ長調 K.Anh.184

 シャロン・ベザリー(フルート)
 ジュリー・パロック(ハープ)
 オストロボスニア室内管弦楽団
 ユハ・カンガス(指揮)

 録音:2005年4月、2007年10月
 SACD Hybrid

 BIS

 

 これは非常に素晴らしい演奏と録音。

 購入前に低評価レビューが目につき、「フルートの音が小さく、オケに埋もれてしまう」とのことで、試聴した限り、確かに(フルートの音色が)キラキラ浮かび上がる感じが無く、少々地味かなと思われたのだが、経験上こういう低評価レビューはあまりあてにならない、というか、引っ張られ過ぎては素敵な出会いを逃すので購入。

 

 で、本日届いたので聴いてみたのだが、まずオケの音色の精細さに驚いた。音色が優美な美しさと鋭さを同時に兼ね備えているの。動機が楽器パートごとにくっきり浮かび上がってもいる。もちろんSACDの音質の良さであり、鋭い硬質の美しさはBISレーベルならではあるが、それにしてもとにかくオケの演奏が素晴らしい。

 フルートソロが始まりましたよ。確かに前面に出てこないが、普通によく聴こえるじゃん。キンキンキラキラしておらず、ちょっとシックな感じだが、こちらのほうが落ち着いて聴けます。大体実際のオケとフルートの音色バランスからいってこんなものでしょう。ベザリーの演奏は普通に上手いと思いました まる(フルートのことはよくわからないん…)。

 

 フルートとハープのための協奏曲。こちらはいかにもサロンBGM風に優雅に演奏されること多く、まあそうした演奏も嫌いではないとはいえ、もっさりして途中で飽きることが多いのだが、これはきびきび動きますよ。先に書いた優美ながら鋭い音色でカッチリ構築していく。何というか、普通にかっこいいです。ハープの音色はきらびやかで、SACDの強みが出ている。こうした演奏がカフェのBGMに流れてたら、まったりした雰囲気に浸りに来た人はどう反応するかわからないが。

 

 モーツァルトのフルートとオケのための作品CDは今まで積極的に買ったことはなく、その限られた経験から、何かふわふわした演奏しか知らずにいたのだが、いやあ、こうした演奏なら最後まで聴く集中力が続きますねえ。また色々聴いてみたいと思いました。

 

Bartok: String Quartets 1-6 Bartok: String Quartets 1-6
63,188円
Amazon

 

 Takacs Quartet

 1983年録音

 3枚組で、CD1~3にそれぞれ1・2、3・4、5・6と割り振られている

 

 タカ―チ弦楽四重奏団のバルトーク弦楽四重奏曲録音といえば、 1996年のDECCA録音が有名だが、その時とはメンバーが変わっており、

第2ヴァイオリンのカーロイ・シュランツ

チェロのアンドラーシュ・フェエール

の2人だけが共通している。

 

 旧盤では

第1ヴァイオリン:ガボール・タカーチ=ナジ

ヴィオラ:ガボール・オルマイ

 

 

 DECCAの(メンバーが違う)タカ―チ新盤は広く出回り、容易に入手できることもあり、随分以前に聴いた(実際色々な人によるレビューもあちこちに腐るほどある)が、はっきり言って大した演奏とも思えませんでした。何の印象も後に残らない。

 

 バルトークの弦楽四重奏曲は理想的な盤を求めつつも、なかなか巡り合えなかったのだが、そんな折、ドイツのオペラハウスで演奏していたこともある日本人のヴァイオリニストの方(今後このブログで頻繁に出ると思うので、‘Kにゃん’としよう)から勧められ、聴かせてもらったのがこの演奏で、その時感動した本盤をつい先日私も買いました。

 

 機能的な技術レベルの高さと、バルトークの民族音楽的表現が見事に融け合って昇華した演奏です。音楽性に満ち溢れている。

 バルトークの音楽はたださえ精緻なため、‘分析的’の大義名分の下、土俗表現をかなぐり捨て、無表情かつ機械的な演奏に傾斜する例がほとんどで、また、単純に響きがかっこよく(特に急速箇所)、単なる勢いの‘ノリ’だけでもそれなりに聞こえてしまうため、ガチャガチャやるだけの演奏すら時に見受けられる(異常なほどの高評価を得たアルカントカルテットの演奏などまさにそれで、あれはロックの延長でしかありませんでした)。

 機能性と民族・土俗的表現の融和こそが難しいのであり(ここらはハンガリーの民俗音楽の勉強もしないといけないので、当然でしょうが)、それを最高度のレベルで達成したのが、このタカーチ旧盤と思います。全曲、全楽章に渡って、うねる有機性があり、時々粘菌の動きを眺めているかのように感じられるほどです。

 タカ―チ新盤の方は、民族表現がすっかり失われており、そこら擁護者は‘普遍的’だの何だの言うのだろうが、正直右も左も見失った生気のない演奏にしか思えません。単純に技術レベルでも旧盤の方が上だしね。

 

 というわけで、これは廃盤で時に高値が付くが、皆さんも中古安くで見かけることがあったら買ってみましょう。NMLでも聴けるが。

 

 YouTubeにも(多分)全曲あったりする