彼女と出会ったのは23ヵ月前、土砂降りの雨の日だった。
傘を忘れて、会社の前でぼやいて居ると彼女の方から声を掛けててくれた。
「よろしければ、途中まで、入っていかれますか?」
「よろしいのですか…?」
「はい、どうせ駅まで同じですし」
彼女のその優しい笑顔に一瞬ドッキとした。
でも、俺はこの人の事など全く知らなかった。
どうして、俺が帰る駅を知って居るかなんて全く気にもならなかった。
俺の中にあったのは、
春到来?
初彼女?
モテ期到来?
さらば、さくらんぼ~♪
そんな不純な考えでいっぱいだった。
しかし、現実は甘くなかった。
彼女は愚か、女の子と喋ったのは10年前の中学の卒業式依頼だ。
しかも、その最後の会話が、「おはようございます。」
世間一般では、あいさつと言われて居るが、俺はこれ以上の会話なんてした事がなかった。
そんな男がサラサラヘアーのロングヘアーの優しそうな女性に声を掛けられたらどうなるか…、
しかも傘に入らないか?と聞かれたら…
【もしかして、この人俺に気がある?】
と思うに違いない…
違う、あり得ない、間違いだ。
心と頭と体で分かって居るはずなのに、
心の奥底で悪魔の囁きが聞こえる…
いろんな妄想が飛び交う…
そう、そして…
『駅、着いちゃいましたね…』
『あ…』
『今日はお疲れでした?
また、今度ゆっくり話をしましょうね♪』
『あ、はい。
今日はありがとうございました。』
俺は知って居る。
経験した事は無いが本能が言って居る。
女性の【今度】は
永遠にやって来ない確率が約25%(当社比)…
俺の場合、持てない属性のお陰で、
+約75%…
つまり、約100%やってかないのだ…
俺は遠ざかって行く
彼女を見送りながら、
さらば青春…
こんにちはさくらんぼ…
と心の中で呟いた…
夏が来た。
俺温暖化現象により春がこない事が
脳内ニュースで、流れた。
俺は溜め息を一息つくと、
電車のホームに向おうとした。
すると、先ほどの女性が走って戻って来た。
『これ…私の…のメアドなんで…受け取って…ください!』
『あ、ありがとうございます!』
彼女は息を切らせながらメールアドレスを渡してくれた。
再び脳内臨時ニュースが流れた…
心に春がやって来たと…
モテない男が女の子に声を掛けられたら
みんな、こんなものだ…