柄の折れた古びた箒に縋るようにして立っているのさえやっと、そんな傷だらけの魔女の姿を見つけ、驚き思わず玉座から飛び降りるように駆け寄るレン。
よたりと崩れ落ちそうな身体を腕に受け止めると、はっと息を飲む程に細く軽い。
「治癒術師をっ!!どうした?何でこんな……」
緊迫した魔王の声に走り出す側近。
紅茶色の瞳がまっすぐにただレンを見つめる。
勇者の背中を見つめキラキラと輝いていた瞳は今やどろりと仄暗く染まりきっていた。が、それでもその瞳に見つめられたレンは喜びはぞわりと身を振るてしまう程。
そんな恋い焦がれる魔王の心など知りもせず、キョーコは弱り切った腕でそれでも、がしりと強く魔王の腕を掴むと、絶え絶えに、だが確かに怨嗟のこもった声で願いを告げたのだった。
 
 
 
「魔王……わたしを生贄に……どうか、この怨み……」
 
 
 
 
魔王城のとあるひと部屋。
大きな大きなベッドの上に横たえられて意識なく眠る魔女。そしてその傍にはひとりの男。
魔族の中にも数は少ないが治癒術を使える者はいる。けれど、治癒術とは術者の魔力とそして対象者の体力を糧とする術なのだ。魔法だからと簡単完璧回復とはいかないもので
「最低限の手当てはさせていただきました。完全回復には、この子に休養を取らせてある程度の回復を待ってからでないと……」
魔王城で一番の術師であるテンはそう魔王へと報告していた。
術を受けている間、魔女のキョーコが魘されるかのように零した怨み。
彼女は、勇者に裏切られパーティの仲間から呪いを受けたのだと。
勇者。キョーコがショーちゃんと呼び慕っていた様子の、レンが一発KOなまでに叩きのめしたあの男。
プライドの塊かのようなショーは魔王相手とはいえ一方的で圧倒的なまでの敗戦と逃亡を、報告の義務のある教会や王を相手に自らの実力不足と認めたくない、ただその一心で大敗の積の全てをキョーコへと押し付けたのだ。
そう、魔王に負けたのは俺が弱いからじゃない!魔王への裏切り者がパーティのなかにいた所為だ!!と。
そんな馬鹿な。たったひとりの女の子の裏切り者で勇者が負けるのか?そもそもが、勇者が選んだ仲間だった筈なのでは?なんて、普通ならば当たり前に上がるだろう声。だが、勇者が裏切り者と指差した先にいる女の子、それが魔女の魂の持ち主である事で勇者のでっち上げは途端に信憑性を持ってしまったのだ。
魔王への生贄となり得ると言い伝えされ、過去には異端視され迫害さえされていた魔女なのだからと。
違うと、裏切ったりなどしていないと……恋しい勇者へと必死に信じて欲しいと訴えたキョーコが見たものは
「そもそもキョーコみたいな色気のない地味な女が、勇者である俺のパーティにいること自体気に入らなかったんだよ!」
酷く、キョーコを貶める言葉を吐く兄妹のように共に育った幼なじみでもある男。
宿屋を営むショーの両親に拾われた捨て子だったキョーコは、ゆくゆくは跡取り息子のショーの妻となり宿屋を継いで欲しいと望むショーの両親の期待に応えるべく幼少この頃から大人顔負けで宿の仕事をこなし、14の歳でショーが勇者であると教会から告げられると彼を支える為に寝る間を惜しんで魔法を学びレベルを上げ、ショーが望むままに装備を買い与える為に働き……全てを、ショーのためにと生きて来たのだ。
そんなキョーコをあっさりと捨てた勇者は、それだけではなく
「キョーコの癖に勇者の俺よりレベルが高いなんてありえねぇだろ?」
と、呪術師のショーコに禁呪を使わせ、キョーコからレベルまで奪い取ったのだ。
呪いにより初期レベルまで弱体化した魔女。その辿る先など、あの頭の軽そうな勇者が思い描けたかどうかは不明だが……やっぱ女はショーコさんみたいなフェロモン系〜❤︎なんて見せつけるように呪術師の腰を抱いて勇者が去って行ったあと、キョーコを待ち受けていたのは悲惨な未来だった。
魔王へ寝返った魔女として教会の魔女狩りに捕縛されたキョーコ。
全てを捧げ恋した男の裏切り、守る為戦っていたキョーコへ石を投げ火刑台へと追い立てる群衆。
キョーコの絶望と恐怖は如何程だっただろうか?
深い絶望の淵で、魔女は新たな力に目覚める。
胸な巣食った怨霊がそのまま形となったような怨キョたち。その力を借りて、火あぶりとなる寸前で命からがら逃げ出した魔女っ子は……
その仄暗い怨嗟を抱え傷だらけの体で魔王城へと向かったのだ。
彼女にただひとつ残された魔女の魂を魔王への生贄に、復讐を果たすために。
 
 
 
 
魔王城の城門へと続く石造りの廊下にカツカツと苛立った足音が響く。
「魔王様、お待ちください!どちらへ!?」
怨みを語り終わった魔女っ子が治癒術師のテンな魔法で強制的な眠りにつくのを見届けると魔王は無言のまま動きはじめたのだ。
「大丈夫ですよ、彼女の目が覚める前に血祭りに上げて帰りますから。」
制止しようと追いかけてくる側近へ、怒れる魔王はさらりと低い声で淡々と答えてのける。
長く側にいるヤシロでさえ初めて見るブチ切れ状態だ。
それも仕方がないのかもしれない。恋しい魔女っ子の頬やあちこちに痛々しい傷や火傷、手首には縄のあとまであったのだから。だがっ!
「待て待て、待てって!!」
このままではネズミやらな獲物を褒めてと持参して贈る飼い猫のアレな行動みたいに、魔女っ子の枕もとに勇者の生首が乗りかねない。寝覚めが悪いどろこの話ではない。
ヤシロが必死に暴走する魔王を止めるのは、別に勇者を思いやってではない。
キョーコに唯一残された魔女の魂という触媒の生贄もなしに、魔王の手によりあっさりと復讐が成された場合のその後を考えの事だ。
勇者に裏切られ全てを無くしたキョーコが、生きる糧としているのが復讐なのだ。勇者を亡き者とした後に、教会と王から敵認定されてしまっている人の世界へ帰る場所もないあの孤独な魔女っ子が、生きる気力を無くしてしまったりしたどうするのだと。
側近の説得で、魔王の足が止まる。
愛しいあの魔女っ子を傷付けた男など許し難い。だが、レンはキョーコに生きていて欲しいのだ。願うるならば側で笑って。
だが、どうすれば良い?悩める魔王の隣で有能なる魔王の側近は早々に魔女っ子隔離計画を立て語り始めるのだった。
キョーコにかけられた呪いの解呪や勇者への報復等々は一時的においておくとしてもだ、なによりも怨みの元凶たる勇者と魔女っ子を決して遭遇させてはいけないと。だが、勇者の目的は魔王討伐なのだ。
ならば、勇者を魔王城へと近付けないようブライアンにお願いしよう。
ブライアンはレンが雛から育てたコカトリスだ。魔王が育てた所為なのかたまたま変異種だったのかは不明だが、普通のコカトリスの3倍程な高レベルまで育ったあの子にお願いしておけば、あの勇者ならカンスト近くまでレベル上げないと魔王城へと近付けやしないだろう。そうやって時間を稼ぐからその間に……
「キョーコちゃんに復讐を忘れさせるんだ、お前が。」
側近はそう魔王へ進言したのだ。魔女っ子を手に入れたければ彼女から復讐心を消せと。
だが、どうやって?と整った顔に書いてあるかのような手のかかる弟分へ、自称お兄ちゃんな側近はちょっぴりと悪どいみたいな表情で囁くよう告げてみせたのだった。
「決まってるだろ、口説き落とせ」と。
 
 
 
 
 
傷つき疲れ果てていた身体を癒した後の魔女っ子がどうなったかといえば、話は前編冒頭へと戻ることとなる。
その復讐心を元凶の勇者どころか人類全てへと向けて、嬉々として全力で生贄となろうと明後日な方向へ全力暴走中なのだ。
それこそ少し目を離せば、拷問ウエルカムと酷く危なげな器具を製作しようとしたり……
機嫌よくご飯作ってくれてるのをかわいいななんて覗き見魔王が頬を緩ませたりしてると、質の良い生き血は正しい食生活から!!なんて物騒な事をつぶやかれたり……
生贄を捧げられるなんてとほんのちょっぴり躊躇したそぶりでもみせようものなら、ご安心ください!このキョーコ確実な聖らガールですとも!!と主張し、なんのこと?と小首を傾げたレンとヤシロへ
「あの、その、ちゃんと……処女…です。」
と、真っ赤な顔を俯けながら恥ずかしげに生贄の価値としての処女性を訴えたりしちゃって、まるで無理やりに具体的に卑猥な事を口にさせるセクハラ親父みたいじゃないか!?ってオロオロさせてみたり……
初恋拗らせ魔王様は、魔女っ子の全力生贄へGO☆な生贄志願をあの手この手で逸らして、少しでもその意識を自分との恋愛へと向けてもらおうと悪戦苦闘な日々を続けているのである。
 
 
 
 
 
唐突に我が魔王城へとやって来た押し掛け魔女っ子は生贄になりたがるのが困りものなんです。
 
 
 
 
 
 
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
 
 

さて、このヘタれっぽい魔王様はどうやって生贄志願な魔女っ子口説き落とすんでしょうかね?←書いたひとなのにさっぱり不明なんで教えていただきたい。
 
 
 
「処女じゃなきゃ生贄になれないって思ってんなら、処女じゃなくしてやれば良くね?」
「きゃー!レンくんの遊び慣れた大人のテクでメロメロに!?でも、お兄ちゃんは許しませんっ!!キョーコちゃんにお妃まさになってもらうまでは撫でる程度で我慢我慢だぞ、レン!」
なーんて、魔王さまをからかって遊ぶローリィとヤッシー…………そして、その背後でキュラッキュラの似非紳士スマイルな魔王とかどうでしょう?←
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
ヘタれながらもなんとか魔王が口説き落として魔女っ子が綺麗でかわいく磨かれた頃に、勇者がやって来ちゃって魔女っ子復讐心復活しちゃったりとか魔王がジェラシってこじれたりとかするのとかもおろしろそう。
そんな妄想設定もろもろ山盛り詰め込んだだけなアホ話でしたとさー!
お付き合いありがとうございました。
_(:3」z)_
 
 
 

↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


web拍手 by FC2