猫木の変な挑戦『いろんな敦賀さんを書いてみよう。』
困惑混沌の朝。から派生する続きのひとつの超番外編的なものとなっております。
 
 
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背中に冷や汗でべたりと張り付いたシャツ。
はじめて受けたオーデイションだってこんなに緊張した事なかった。
最上さんの家のリビングのフローリングの床にいまいち慣れない正座。
そして、そんな俺の目の前には…………凄まじいまでのプレッシャーを放つ、だるま屋のご主人。
以前、最上さんに誘われてお邪魔しただるま屋で焼き魚を出された時とは比較にならないくらいな硬い表情に額に浮かんだ青筋がその深い憤りを物語っている。硬く腕組みされた腕は、きっと俺を殴ってしまいそうなのを戒めてのことなんだろう。
仕方がないのかもしれない。親代わりのように最上さんが慕い、そして娘同然のように同じ屋根の下に暮らしていた……その最上さんの一人暮らしの家に、早朝から寝起きですと表すかのようにボサボサの髪によれよれのシャツな不審な男……の俺がいたものだから。
 
 
 
 
「とりあえず、服を来てくださいぃぃぃぃぃ!!」
と、そう顔を真っ赤にする最上さんに言われるがままに飛び出るみたいにベッドを出て散らばった服を着る事からはじまった朝。
彼女への想いを告げようとする俺の言葉を遮るみたいに、「責任を感じていただかなくても大丈夫です」だとか「お酒の過ちなのだから忘れましょう」だとか……果てには「なかった事にしましょう」とまで言われて、なかった事になんてしてなるか!!って、完璧に逃亡を決め込むみたいな彼女に縋る勢いで話を聞いてくれと頼み込んでいたそんな時だった。
もう、いっそのこといつもの最上さんの得意技を真似して土下座をしてでも……と、思っていたところへ響いたドアチャイム。
最上さんの自宅を訪ねて来たのは、だるま屋の大将だった。
芸能人として顔が売れて、お店にご迷惑をかけるからとだるま屋を出た彼女。一人暮らしをしたとはいえ、時折だるま屋を訪れていた最上さん。
昨日の打ち上げの前も、ロケ先のお土産を持ってだるま屋に行っていたのだそうだ。
そして、その時に忘れ物をしたらしい。
次のお仕事が決まったのだと彼女が語ったドラマの台本。それがないと彼女が困るだろうと、店の仕入れの帰りに最上さんの家へと寄ったところ…………あからさまに疚しい事があるって挙動不審な最上さんとどう見ても男物の靴があって、その上に泊まりましたと語るみたいな馬の骨な俺が居た訳で……
「付き合って…」
たのか?と、そう続くであろう大将の低い声を遮ったのは「ませんっ!!」と、そう叫ぶみたいな勢いでもって交際を否定した最上さんの声で……
途端、ビシッて音までさせて大将の額に青筋が浮かびましたとも。
いつまでの玄関先で騒いでいる訳にはいかず大将を部屋へと招いてからも、しどろもどろとなんとか誤魔化そうとしていた最上さん。
その首筋には俺が刻んだ独占欲の唇のあとがくっきりで。有耶無耶にするつもりもなかった事するつもりも微塵もないとは言え、気まずい。
「おい、茶をくれ。」とそう頼むことによって最上さんに席を外させた大将とサシで向かい合うことになった俺。
そして、今この現状へと至る、と。
「……………………結婚詐」
針の落ちる音さえ響きそうな重たい沈黙の中、ボソリと落とされただるま屋の大将のその言葉に弾かれたように俺は声を上げた。
「も、もちろん真剣に考えていますっ!もが……キョーコさんに承諾してもらえればですが、決して遊びだとか軽い気持ちではなくてっ!!」
顔から身体からあちこち強張ってるのが分かる。
俳優として生計を立てる身としては、恥ずかしいくらいに緊張に硬くなって回らない自分の口が恨めしい。それでも、必死に真剣に彼女を想っているのだと告げて頭を下げた。
「ッチ……あいつは付き合ってないって言ってたぞ。お前、けじめつけろ。」
舌打ちの後に、唸るように言われた。
けじめ……といは何を求められているのか、とそんな俺の表情を呼んだのかだるま屋の大将は続けたのだ。
「そんなチャラチャラした髪して抱かれたい男だなんだ言われてっからあいつが信じらんねぇんだ……頭、丸めろ。」
一瞬、商品としての敦賀蓮が抱える契約が頭をよぎるが…………天秤に掛けるまでもない。
ぐっと手を握ってだるま屋の大将と目を合わせた。最上さんが大切にするひとに、認めてもらいたい。
「はい」と、そう答えようとした瞬間だった。
視界が一転したのは。
「ダメですっ!!敦賀さんはっ!ちょっと目を離すとすぐになんちゃらインゼリーやらカロリーなんたらばっかりでちゃんとしたご飯も食べないまんま寝ないでお仕事ばっかり詰め込んじゃうような方なんです!」
一心不乱に訴えるみたいな最上さんの声が俺の食生活を暴露していく。
横から首から刈り取るかのように、グイッと勢いよく抱え込まれた俺の頭。
「奇跡なんです!いくら高級なヘアケア製品を使用なさっているだろうとはいえ、そんな杜撰極まりない生活習慣を送ってやがる方がこの艶さらなキューティクルの髪を維持なさっているのはっ!!えぇ、そりゃぁ神の寵児たる敦賀さんの魅力のひとつとはいえ……このついついあと少し、少しだけと撫でていたいって誘惑に逆らえぬようなかわいい髪の撫で心地は正に至宝っ!!他にはないのです!それを、坊主頭にするだなんて神に対する冒涜ですっ!絶対に駄目ですっ!!」
実演してみせるかのように俺の髪を撫でながらも、朗々と俺の髪の艶だとか指通りだとかを熱っぽく語ってみせている最上さん。
………………えと、もしかして……髪フェチってやつ?
なんて、予想外な成り行きに半ば唖然としながら考えてしまっていた俺。
驚きにまんまるに目を開いただるま屋の大将と目が合った。
ふわりと甘い彼女の香りとふにゃりと柔らかな彼女の胸に押し付けられたみたいに、ぎゅうっと大事なものを守るみたいに彼女の腕に頭を抱き込まれて変な体勢でいるままで…………
 
 

 
結局、命に代えてでも俺の髪を死守するのだというかのような最上さんにだるま屋の大将が折れるような形で場は収まった。
その後、思わずフェチズムを晒してしまったと恥ずかしがる最上さんへ真剣に彼女を好きなんだって告げて…………信じてもらえるまで紆余曲折はあれども、なんとか最上さんにも伝わったと思う。
娘の部屋に朝から上がり込んだ馬の骨な俺と、けじめをつけさせようとした親代わり、そしてそんなけじめを真っ向から拒絶した彼女。
そんななんとも微妙にぎこちのない空気となってしまった理想とは程遠いみたいな彼女とのはじめての朝。だけど、
「…………今度、飯食いに来い。」
と、帰り際のだるま屋の大将にそう言ってもらえたの嬉しかった。
 
 
 
 
 
是非にと答えた俺が、後日社さんに頼み込んで作って貰った時間でギチギチに緊張しながらお邪魔させてもらっただるま屋で振舞ってもらったメニューは、例の査定な魚料理と…………ワカメや昆布やひじきなどの、髪に良いと言われている食品がふんだんに使われたものだった。
 
 
 
 
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大事な娘に手を出した憎っくき馬の骨を殴りつける父親……ってのは、クーパパで書いたような気がするのでだるま屋の大将には、けじめつけろやおらぁ!……とか、どうだろうかと。
_(:3」z)_
 
 
そんなこちら、↓拍手コメントにてkomugiさまよりいただきましたネタ
 
「だるま屋のご夫妻の絡んだ話。大将のあたりのキツさから一悶着あってもおかしくないかなぁと。」
 
を、捻じ曲げてこじつけたがっかりなものとなっておりまする。
蓮キョコさんの他の第三者をお部屋に引っ張り込むのはやっぱり難しくって……大将ひとりしかねじ込めませんでした。ごめんなさい。
ネタくるる方に依存しまくりなこのシリーズに、はじめての朝の変な敦賀さんネタをありがとうございましたー!!
 
 
目の前で大事なの!ってフェチズム全開で語る娘には、さすがの頑固おやじも折れるしかない……かと。
んで、蓮さん。キョコちゃんは髪フェチじゃなくって敦賀フェチですぞー☆
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↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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