「そう死にそうな顔をしなくとも、なに……ようはこの魔術師を喰らえるようになればいいだけだ。方法はあるよ?」
この深刻で重ったるい沈黙とピリついた空気を作り出した筈のキジマは、一頻り愛しい夢魔を死の淵へと追いやるところであった衝撃に打ちひしがれる美貌の魔術師の苦渋を堪能するとけろっとそう告げた。
投げられたその言葉を受けるのは魔術師と夢魔。縋るように黒い瞳を向ける魔術師と少しの戒心を滲ませる琥珀色の瞳。
にんまりと、笑ってみせるは色欲の悪魔。そして、彼は囁くように声にしてみせたのだった。
「キョーコ、俺のことをヒデヒトって呼んでみる?」
閨を共にする者へとしか許さぬと言った彼の呼び方を。誘うようにしっとりと夜を匂わせ、たっぷりと色を滲ませながら
 
 
 
 
 
 
ヒュンッと、空気を切り裂き唸る黒色。魔術師の敵愾を具現化したかのようなしなやかな黒い魔犬がその爪を振るう。
ふわりと、戯れ踊るように後ろへと飛んでみせたキジマへと、牙を剥きながらも……追撃を掛けないのはキョーコを救う術を知る者だからなのだろう。
「危ないなぁ。俺ならその娘へと、レンが喰らえるだけの充分な祝福を与えてあげられるんだよ?一夜……では無理でも、なに。ほんの片手程の夜だ。最強のサキュバスになり得る程の力を与えてあげように…………それでも、そんなに仲間はずれが嫌なら、お前も混ざるかい?3人で睦み合うのもまた良しだよ?」
こてんと、愛らしいがまでにあざとくも小首を傾げてるみせる悪魔。
ほんの数秒頬へと唇で触れた、それだけで目に見える変化をキョーコへともたらしていた夢魔達の始祖なるキジマからの祝福。夜を共にし、肌重ねればその効果は更に強く強靭なまでの効果をもたらすのだろう。
「それにね?……選ぶのはお前じゃない。」
絡み付くみたいな魔術師の腕に囚われたままの娘へと、圧倒的なまでの余裕の笑顔を浮かべたまんまの悪魔は続けたのだ。
選択権を持つのはあくまでもキョーコであるのだと、そう語って。
「レン、お前と交わした契約は『その愛し子を見つける手助けをすること』だ。それで?幼いを言い訳にするには酷な程に俺の娘を飢えさせていたお前が交わしたのは、この子に喰われる為に『はじめて』のままである事。この娘が純潔である事ではない。そうだろ?」
畳み掛けるようなキジマの言葉に苦しげに唇を噛むレン。
レンとキジマが交わしたという契約も解らずにいるキョーコへと、彼女の父となる悪魔は諭すように言った。
「この坊やはね?愛しいお前に置いて行かれぬように、同じ時を過ごすただその為にその眼の力でもって自らを人の軛から無理矢理に外れてみせたのだよ。」
夢魔たるキョーコの唯一の『ごはん』になったとして、ただ人とは異なる時間を生きるキョーコ。レンがその命を引き取った後に長い時を取り残されたキョーコはどうなるというのか……
力を持つ『嬰児』は、ほんの僅かな躊躇いも躊躇さえないまま、人の定の輪廻の輪から外れ落ちてみせたのだと言う。
そして、魔界へと再びに舞い戻った魔術師の男。予想外に流れた時間と飢えてか細く弱った愛しい夢魔。その居所を探す為に魔術師が訪ねたのが、色欲を司る悪魔たるアスモデウスが城。
「それで…………どうする?俺の閨にひとりで来るかい?それとも……?」
全ての夢魔へと召喚の扉を開くなど造作もなかったであろう悪魔。ぺろりと、見せ付けるかのように色欲の悪魔の舌が自らの唇をなぞってみせる。
その身ひとつを差し出すか、魔術師の男と共に閨へと侍るかと……か弱き夢魔へと問うかのように。
男の腕に捕らわれたまま、まっすぐと答えるような紅茶色の瞳に浮かぶのは力への欲でなく……警戒の色。
魔界に生きる悪魔、その性。残虐にして狡猾、そして悪魔でも利己的。飢えたキョーコへの哀れみなどではあるまい……。色欲の悪魔たるアスモデウスが望み、それが美貌の凄腕魔術師を得る為だろうとだ……ただ命じればそれで済む筈のキョーコへと選択権を委ねるだなどおかしい事であると。
「…………賢い子だね。」
キョーコの訝しむ視線を受けて、それでと何故かキジマはにんやりと楽しげに笑う。
「俺に利はあるんだよ?このアスモデウスの誘惑を……それも、男が駄目なら女にだって変わってあげようってまでした誘いを『俺のはじめてはキョーコちゃんのだから』なんて跳ね除けてみせた『嬰児』。それをまだ未成熟な頃でさえ虜にしてみせるサキュバス。君は立派なダークホースだ。それに、ただの夢魔ひとり……それだけで凄腕の魔術師を我が陣営に繋ぎ止めていられるだろ?」
俺って飛び切りの美女になるってのに見る目ないよねぇ?と、袖にした男を詰って。
力のある者こそ全てであり、群雄割拠争いの絶えぬ魔界で即戦力となりうる凄腕の魔術師。取り立てて権力争いには興味もないが……それでもレヴィアタンなんかにくれてやるには惜しいと。不仲と伝え聞く嫉妬を司る悪魔の陣営には取り立てでやりたくはないのだとそう手の内を曝け出すかのように語ってみせるキジマ。
それでどうする?とでも問うかのような色欲の悪魔へと…………キョーコが返したのは、沈黙。
狡猾なる悪魔。手の内を晒してみせたふりをして、更にその裏があるのだろうと。
するりと、距離を詰めたキジマはそんなキョーコの栗色の髪をなでなでと楽しげに撫でると、やっと第三の選択肢を告げたのだった。
「一度に喰らい切れないのなら……ゆっくりじわじわとこの娘のキャパシティが育ち切るまで時間をかけるしかないでしょ。」
と。手っ取り早くキジマの寵愛を受ける他は、時間をかけるしか術がないのだと。
そして、再度キジマは娘へと問う。
「それで……キョーコはどうしたい?」
うっとりと甘く誘うかのように。
キョーコとて悪魔たる端くれ。飢えて蔑まれて来た分だけに、目の前にわかりやすくぶら下げるかのような力へと渇望がないとは言えない。
けれど……長い睫毛を一度伏せた後に、夢魔はしっかりとその琥珀色の瞳に意思を乗せて答えたのだった。
「私たち悪魔は自分の欲望に忠実にして貪欲。それならば…………お父様、1番の美味しい『ごちそう』は独り占めにしたいものですわ。」
親しい者としてでも、ベッドをに侍る者としてでもない呼び方で夢魔達の父にして母なる者を呼んで。
自分の身体に腕を回す男の頬へと指を這わせ、そのまだ幼さの残る顔にぞくりとする妖艶な女の色を乗せて。
アスモデウスの祝福を得たとはいえ、まだ夢魔としてはか細いキョーコの力。獲物を差し出すつもりはないと正面からたんかを切るような返事はキジマの怒りを招くやもしれない…………
それでも、先程よりレンをチクリチクリと甚振りその美貌が苦渋に歪む表情を楽しむかのような夢魔達の始祖。夜を共にする者へと晒すのだろうレンの秘められた夜の男の顔を、例え誰でもあろうと……それが夢魔たちの始祖でたるアスモデウス  であろうと、共有するつもりなどキョーコには微塵も持てなかったのだ。
はっきりと、独占欲を示す返答をキジマへと返した夢魔の身体をぎゅぅっと強く抱き締めるレン。
腕の中の最愛の夢魔の両の手をしかっと取り向かい合うと、頬を僅かに赤らめながらその黒い瞳に真剣な色を乗せて告げたのだった。
 
 
 
 
「キョーコちゃん、愛してるんだ!ずっとキョーコちゃんの美味しい『ごはん』でいれるようにするから……だからっ、ずっと一生俺の事だけ食べてくださいっ!!」
 
 
 
 
 
古臭い、そう……一生俺に味噌汁を作ってくれの亜種かのようなプロポーズめいた願い。
パチクリと瞼を瞬かせるキョーコが言葉を返す前に、ぶふっと吹き出して笑い出す色欲の父。
そのままゲラゲラと腹を抱えるように盛大に笑い転げてみせると、呆れたかのような顔をする黒い魔犬の頭をがしりと腕に抱えて言ったのだ。
「はぁぁ〜。ゆっくりじわじわととは言ったが、まさかそこからとはねぇ…………。せめて、俺の上書きにって頬ちゅーくらいするもんだとばっかり。それに……坊やは喜んでっけど解ってるのかねぇ?俺の娘だよ?磨けば磨く程かわいくなるし、男の夢!サキュバスだよ?色っぽくもなるだろうさ……でも、キョーコが喰らい切れるようになるのがいつまで掛かるかわかんないままで、それこそ挿れる前だろうがイク直前だろうがキョーコの限界が来たらそこまででその後は指一本だろうが進めない……って拷問が続くって事。」
わしゃわしゃと黒い毛並みのかくようにおでこを撫でるキジマの手をあからさまに嫌がるカインの頭を腕に捕まえたまま、クックックっと喉で未だに治らぬ笑いをかみ殺すキジマ。
まぁ、俺の娘を飢えさせていた分だけ……存分に生殺しに焦らされるがいいよと、全ての色欲の父にして母なる悪魔はやんわりと優しげに目を細めたのだった。
 
 
 
 
 
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
 
 
 
貴島パパからの三択。
俺と寝る?
三人で楽しむ?
この男焦らして生殺しなつまみ食いでゆっくりじわじわ成長する?
な、感じでしたとさ。笑
 
 
 
おっかしーな?魔術師さんとサキュバスなんてぇろいことし放題☆って感じな設定の話の筈が…………キジーが頬ちゅーしただけで、蓮くんはこれからあても無き生殺しぷれぃに。
さぁ、これからいいとこ……っとこではい!もう無理☆おなかいっぱい☆ってキョコバスちゃんにされちゃってもう悶々と行き詰まって苦悩する魔術師くんっての……なんか良くないっすか?
ほんと、なんだこの話?誰が楽しいんだ?
((((;゚Д゚)))))))
 
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


web拍手 by FC2