はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
そぅっとそぅっと、誰にも気付かれないように。だが、かなーりな重さと深さでもってキョーコの肺から吐き出された息。そりゃぁもう幸せ逃げまくりに逃しまくりな事間違いなしな立派なため息である。
一見するには愛らしさ全開のスマイルを貼り付かせたまま、キョーコはそろりと視線を動かす。
キョーコの視線の先にいるのは、地獄へと抱えていかねば成らぬ密かな恋心を抱いてしまった想い人である敦賀蓮そのひとが微笑んでいた。
誰よりもぎっちぎちなスケジュールをこなす売れっ子俳優。残念ながらこれといったドラマや映画な演技での共演の予定もなしな現状。少しでもその神の寵愛を受けた顔をひと目でも見れたら、あわよくば挨拶やちょっとだけでもお話なんて出来てその笑顔を向けて貰えたならば……恋する乙女としては天にも昇ろうって程に嬉しい筈…………その筈なのだが
ウッキウキに浮かれてはニョロニョロと踊り出す怨キョという名の高性能な蓮のお怒りレーダーを搭載してしまっているキョーコ。
な、なんでかわからないけど……すごく怒ってらっしゃるぅぅぅぅぅ!!
向けられているのはあの嘘吐き似非紳士スマイルだ。なのだが、悲しいかな整い過ぎた美貌の俳優の全開スマイルはキョーコ以外の人間の目には上機嫌かの様に映るらしく、キョーコ一人きりがキリキリと追い詰められたかのような心境でいるしかなく……
ただひっそりこっそりと気付かれぬよう小さくため息を吐き出すしかキョーコには出来なかったのである。





逃げ出せるものならば可能な限りに迅速なスピードでもって逃亡を果たしてしまいたい!!そんなまるで針のむしろみたいな撮影がやっと終わった。
仕事でなければ滂沱の涙を流して地面に張り付いていただろうキョーコは、先輩に叩き込まれた精神でもってプロデューサーやスタッフ……そして共演者へと挨拶へ回る。
ぷきゅぅぷきゅぅぅと鳴る足音は如何にも重たげだ。
「お疲れさま。」
うっとりするような耳障りの良いテノール。にっこりと、そう擬音が付きそうなにこやかな笑顔……けれど、キョーコにはグサグサと突き刺さるキラキラフラッシュが痛くて堪らない。
『お疲れさま!今日は敦賀くんと対決だなんて光栄だったよ!!』
嫌な汗がたらりと流れる顔を雄鶏の着ぐるみの中へと隠したまま、キョーコはふぁさっとそうメッセージの書かれたスケッチブックを蓮へと掲げてみせる。
そこに……もふぁっ!とした衝撃がキョーコを襲う。
「坊さまぁ♡」「坊くん、お疲れさまですぅ」なんて変声機で作られた高い機械的ボイスと色取り取りで丸っこいシルエットに耳や羽なんかがついたフェルトと毛並みの着ぐるみ集団に揉みくちゃにされるキョーコ。最後にぎゅぅっと坊のまんまるボディを抱き締める黒い腕。
「あぁん、もうダーリンったらなんて可愛いの!?その手も胸も脚も、どこもかしこも本当に食べちゃいたいくらい♡今日は共演出来て嬉しかったわ!またね、ダーリン♡」
すりすりゴロゴロと坊の雄鶏フェイスに懐くだけ懐いてそう告げる黒猫の着ぐるみ。どピンク色のリボンを付けた耳をぴこっと動かすと、ラストに仕上げとばかりに坊の黄色い嘴の端にチュッっとキスをして走り去っていく。
るんたったと軽い足取り、スタジオの出口手前でくるっと振り返って白いソックスハンド柄の肉球付きの手をふりふりと振るさまは着ぐるみらしくコミカルで大変に愛らしい。
押せ押せ肉食系女子キャラな黒猫の『キョコちゃん』……まぁ、雄鶏な坊としては猫に食べちゃいたい!なんて言われてしまうと、手(手羽)胸(ムネ肉)脚(モモ肉)なんて考えが浮かんでしまって、少し笑えないような気もしてしまうのだけど…………
「ふぅん……モテモテだね?」
のそりと、地を這うかのように低く冷たい声が真っ赤な鶏冠のついた雄鶏の後ろ頭へと呟かれる。
ひぃぃぃぃぃぃっ!!っと、内心に身の縮むような思いをしながらも恐る恐ると振り返った坊へと向けられる笑顔はキュラリラキュラリラと輝きを増している。
グッサリグサグサと刺さりまくる似非紳士微笑み光線に、動く事のない坊の着ぐるみスマイルも心なしか引きつり気味に見えるかのようだ。
「流石、抱かれたい着ぐるみNO.1。」
にっこり笑顔なまんまの蓮が坊をそうわざとくさくも褒めそやす。自分だって同じような称号に君臨し続けてるくせにだ。
そう、本日のキョーコのお仕事。その始まりは、密かにリベンジを決めて猛特訓に励んでいたキョーコを中身とした坊がゆるキャラグランプリの王座へと輝いた事からだった。
その着ぐるみボディを物ともしないような見事なる機敏さと繊細なまでの細やかな動きでもって一躍大人気なスターダムへとのし上がった坊は今や着ぐるみキャラクター達の憧れな的で、抱かれたい着ぐるみNO.1なのだと。
そして、同じく抱かれたいなNO.1なる男、敦賀蓮とのモテ男頂上決戦なんて組まれてしまったのが…………本日の特番であったのだ。





雄鶏をわちゃわちゃと取り巻き奪い合うたくさんの着ぐるみキャラとの共演で、鶏なんぞとの対決なんて内容がお気に召さなかったのかなんなのか……
坊の正体を知られる訳にはいなかい緊張感と密かな蓮との共演を喜ぶ複雑な心境で本日の撮影に挑んでいたキョーコ。
なのに、キョーコにしか気付かない蓮の似非紳士的お怒りスマイルは撮影中も撮影後もキュラキュラと輝きを増す一方だ。
『ははは。敦賀くんほどじゃないよ!じゃぁ、僕はこれで……』
触らぬ神に祟りなし!逃げるが勝ちな勢いでもって、キョーコは楽屋へと逃げ込もうとしたのだが……ポンっと坊の丸っこい肩に置かれた蓮の手。
「もう今日は上がりなんだろ?さっき彼とそう話してた。プレイボーイでモテ男なんて浮名を流している君に相談したい事があるんだ。」
と、そう蓮はにっこり笑顔のままで追い詰めるかのように坊へと形だけは疑問形で訪ねてみせる。番組司会なブリッジロックのお兄さんズを指差して、これからの坊の時間の空きは把握してるのだと付け足してまで。
にっこりにっこりと、実にキラキラしい笑顔を浮かべた蓮は、彼の友人ともいえる雄鶏へと逃げ道を塞ぐかのように、それでいて妙に甘やかに強請るのだった。





「……君の今夜の時間と身体、俺にくれるだろう?」




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。(;°皿°)
なんだ、これ?←いつもどおりの計画性ナッシング
完璧勢いな思い付きでタイトルつけましたゆえに……ど、どうすべかしらねー?



妙に積極的な蓮くんと坊は果たしてどこへと向かうのか?



次回、坊くんの初心者恋愛相談室☆


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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