踊っていただけますか?
そう願うように告げて
君へと差し出した俺の手に
恐る恐るちょこんと君が手を乗せてくれた。



「ワルツなんて踊ったことないです。」



不安そうにそう言っていた君
チャンスだと思ったんだ



少しでも君といたくて
ちょっとくらい頼ってほしくて
君とのダンスのパートナーの座を
誰にも譲りたくなくて
「ご教授お願いします」
なんやかやと遠慮しようとする君を
あの手この手で言いくるめて
やっと、ぺこりと頭を下げてくれた



まっすぐに伸びた姿勢の良い背筋
抱き寄せた細い腰
腕の中に収まってくれている細い身体
くるりとターンに合わせて揺れる栗色の髪
甘い香りと愛しい体温
俺を見上げる琥珀色の大きな瞳
あぁ、どうしてくれようか?



俺はこんなに君に夢中だっていうのに
それなのに君は足元を見てばかり
慣れないヒールと覚えたてのステップ
だけど……それでも
こんなにも近くにいるんだから
少しくらい
俺のことを見て、意識してほしくて
ほら
また俯いてしまった君の頬へ
唇を寄せた



まんまるに見開かれた君の瞳
ぶわっと赤く染まる頬と
背中に添えた手のひらに感じる跳ねた鼓動が
嬉しくて


ダンスの基本はパートナーから
意識を逸らさないこと
そんな事を告げながら
次から下を向く度にキスするよ?
そう君に囁いた



きょどきょどと狼狽えた君は
ぽしょぽしょと小さな声でこぼすんだ

 

「……スケこまし。ひとタラシで遊び人」


失礼な
こんな事、君にしかしないのに
そんな事を言う口は塞いでしまうよ?
俺がそう言うと
途端にキュッと唇を閉ざしてしまった君を
少し……残念に思いながらも




さぁ、君とワルツを。