モノトーンを基調とした整った、だが、何処か排他的なひんやりとした空気が満ちた書斎。窓の外には階下に広がるネオンのギラついた光と対照的に重たく深く暗い夜の空。
デスクの上に一枚、また一枚と読み捨てられるとある書類。
その全てに目を通した男は、何かを深く考え込むように長く瞼を閉ざした。




最上キョーコについて調べさせた。
個人情報の保護や取り扱いやセキュリティーについて煩いくらいに話題に溢れた昨今であっても、ある程度のツテと金額さえ惜しまなければどうとでも掻き集められる。そして、蓮は自らが持つそれらを使う事に躊躇いもなかった。
蓮の勤務先の病院に運び込まれた少女。ただ、それだけであっは筈の彼女。
キョーコのまだほんの17年間のざっくりとしたあゆみ。
それは、決して平凡とは言えそうもなかった。
父親のいない母子家庭。だが、母親はキョーコを慈しむ事などなく、キョーコが物心つくずっと前からほとんど不破家に、キョーコが王子様だと言いショーちゃんと呼んでいた少年の家へと養育費の名目の多額の金と共に放り投げるように預けたままで。
ネグレクトされた少女と、共に育った両親の愛情を当たり前のように受けたひとり息子。
キョーコが高校生になり母親がほぼ帰る事のない彼女の実家で暮らすようになるまでの間を、歪ながらも同じ家で育った幼馴染みのふたり。
キョーコにもっとも近しい存在の筈の彼……けれど、彼のその存在によってキョーコの孤立は深まっていった。
自分の松太郎の名で呼ばれてる事を嫌がり、ショーと呼ばせている彼は整った顔をした自信家だった。幼少期からキョーコという揺るぎなき比較対照を持ち、チヤホヤと持て囃され育ったショーは自己肯定に裏打ちされた万能感に満ちておりカリスマの如くに振る舞った。
目立つショーが気安く接して同じ家に住むキョーコは、ただそれだけでショーを好む女の子達のコミニュティから爪弾きにされ友人もなく、ショーがバンドを始めると学校中のほぼ全ての女子からのイジメられるようにさえなる。
それでも……キョーコはショーから離れることなく、ただ只管に従順に尽くしていた。





蓮の閉ざした瞼。その裏に浮かぶ、病室の窓からショーの背中へと向けていたキョーコの縋るような視線、薄く笑ってキョーコを便利だと吐き捨てた男…………そして、病院へと運び込まれていたキョーコが意識を取り戻した、その時に瞬かせた睫毛の向こうに浮かべていたあの瞳。
ゆっくりと瞼を開いた蓮。黒い瞳はもう既にあの歪んだ狂執に染まっており、唇は薄く笑ってさえいた。
これから自分がおこそうとしていることへ、そして都合の良さに。
病院の跡取りとしての蓮に、纏わりつく患者や看護婦などから避難する為に与えられていた人を寄せ付けぬ特別室。
友人もなく、母親さえ見舞いに来る事もないキョーコ。
自分だけでなく、何組かへ掛けられていた東京からのスカウトの声に抱いているらしいショーの焦り。
まるで、お膳立てされてでもいるようだ。




「あぁ……首輪、と鎖も必要かな。」




甘くさえ聞こそうな蓮の低い声が、ひとりそう歌うように零す。
誰にも知られることのないように、キョーコの意思など関係なく蓮の手の内に閉じ込めて繋いでしまおう。
それはまがいようもなく恐ろしく、発覚すれば医師としての立場も危うく、そして蓮の両親や勤務先の父の病院にさえ累が及ぶであろうとはっきりと予測される。




それでも、蓮は天秤にかけるまでもなくただキョーコだけを選び取ったのだった。




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話が動いてる気がしない。無駄に長くなるーぅ。
よ、読んでる方は大丈夫でしょうかのぅ?
_:(´ཀ`」 ∠):


実は、第2ぇろパートを入れるかどうか迷い中ー。
んでも、はじめてキョコさんにねっちりねっちりと酷いことなさるへん◯医さんになりそうだからなぁ……
やめとこうか!笑



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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