俺は海が嫌いだ。
俺が嫌いだってんのに、やたら大きくてキラキラしやがって目に入りやがるから大嫌いだ。
それなのに、せっかく取れた久しぶりのオフに海に来てしまう………そんな俺も、気にいらねぇ。



五年前に俺がこの世で一番気にくわない男が死んだ。
俺のもんだって思っていた女も一年前にいなくなった。



あの野郎が死んでから、あいつは俺の事を一切見なくなった。
何をしても、取り返して奪い返して怨みでも憎しみでもいいから俺を見させてやろうと思った…………実行する前に見たことがある眼鏡の優男が止めた。
あの野郎のマネージャーだった男。
「君はキョーコちゃんを魂の根元から殺す気なのか?」
骨まで凍りそうな冷たい目と声。
俺を見ないあいつの泣き声とあの野郎への叫び。
俺を見ない…………海しか見ないあいつ。
背を背けて目をそらすしか出来ない自分をぶん殴りたくなった。



あいつ…………とっくに俺のもんじゃなくなってやがった。
それにやっと気が付いた。






あの野郎が座ってたNo. 1の座を得ても、ちっとも勝ち誇れやしない。
十二月の末の冬の海、雲が満月を隠す。


やっぱり、俺は海が嫌いだ。
芯まで凍えるようになるまで立ち尽くし、眺めていた海に背を向ける。
胸に、昔の俺のもんだったあいつの笑顔とショーちゃんと呼ぶ声がよぎる。俺のそばで俺だけを見て、笑って……俺のものだったあいつ。
この痛みがあいつの残した復讐の痛み。





俺は海が嫌いだ。
俺のものじゃない女と俺の嫌いな男がいやがるから…………



だから、海が嫌いだ。