後悔することなんて山のようにありますわ。
部屋のベランダ、お祖父様にお願いして朝陽の見える方角の部屋に変えてもらったそこから朝陽を眺める。
でも、私の手の中にはお姉様との約束がありますの。



ぼわりと………滲むように取り巻くように暗い暗い靄のようなものが濃くなって行くのが………
もとから細いその身体がより一層細く、頼りなく儚げで消えてしまいそうなのが………
夢見るように海を見つめているのが………
ただ、恐ろしかった。こわかったの。
それを見ていられなくて、目をそらしたくて、お姉様の病室へ行けなくなってしまった私にお祖父様が言ったの。
「後悔をしないようにな………マリア、お前は知っているんだろう?」
困った顔と頭に乗る優しい手の重さ。



そう………知っていますわ。
二度と、会えない。
それが、どういった事かを。




久しぶりに会ったお姉様は、記憶よりさらにさらに細く小さく見えた。
「マリアちゃん、私、お散歩に連れて行ってもらいたいなぁ?」
綺麗に綺麗に笑う、もう歩けなくなってしまわれたお姉様をブランケットに包むみたいにして乗せた車イスを押して、海が見える裏庭を歩く。
いつものように、海が綺麗だとそう言うお姉様に
「………海が美しく光るのは、その水底にたくさんの血肉を銜え込んでいるからですわ………」
つい吐き捨てるように言ってしまった。そんな事を聞かせたい訳ではなかったのにと、唇を噛んで俯く私にお姉様は言ってくださいましたの。
「マリアちゃんに魔法を分けてあげる。」




小さなガマ口から取り出しされたお姉様の魔法。
「この子がマリアちゃんの悲しい気持ちを食べて小さくしてくれるわ。」
手のひらの上に乗せられたちいさな魔法。
「ね?マリアちゃんにお願いがあるの。私ね、この子にたくさん………たくさんの悲しい気持ちを食べさちゃったの………だから、マリアちゃんはこの子に『幸せ』を見せてあげて?」
お姉様が綺麗に笑う。




朝陽に蒼い石をかざす。
色を変える優しい魔法の石。


「さぁ、今日も幸せを探して行きましょう。」


お姉様との約束ですもの。