5年ぶりに飛行機に乗った。
いや、より正確に言えば乗せられた。
飛行機は嫌いだ。
俺とは相性の悪い電子機械で飛ぶ、それは空飛ぶ鉄の棺だ。



あいつも墜ちたじゃないか。
帰って来なかったじゃないか。




その知らせを聞いた時は、目の前が真っ暗になった。
信じたくなかった。
何かから逃げるみたいに慌ただしく事後処理に追われる自分を他人事のように思っていたんだ。
ただ気にかけていたのはひとつだけ、あいつのたったひとりの特別。
あいつの代わりなんて誰にも出来やしないのはわかってるけど、それでも………



だけど………あぁ。




キョーコちゃんは俺を見て、無理に笑おうとするんだ。
それで、ふと無自覚に俺の隣の頭ひとつ分上、その空間へ視線を彷徨わせてしまうんだ。
そうやって、探してしまって
そこに居ない現実を突きつけられる。
ぐしゃっと歪むキョーコちゃんの顔。
それに気付いてしまう俺と、そんな俺を見て更に傷付くキョーコちゃん。



だから、そばにいれなかった。
キョーコちゃんには俺が
俺にはキョーコちゃんが
あいつに近過ぎた。
お互いのまだどくどくと血の滲む傷口をえぐるしかできなかったから。
そんな彼女は、ひとりひっそり悲しく綺麗に咲いて………散った。




なんだか、俺の線がぶれた様なぼやけた様な気分になった。
ぼんやりしたまま日常を流れる俺に社長が言った。
「お前、お使いに行って来い。」
そうやって無理矢理に放り込まれた飛行機。
長い長いフライトと旅の末に辿り着いた場所。静者たちの眠る場。
そのひとつの十字に届け物をそっと置く。
そこに眠る人と届け物の………あいつのいつもしていた役目を放棄した腕時計の関係なんて、ひとつもわからぬまま
「あいつは、ちゃんと立ち上がって歩いていたよ………誰よりも俺が知ってる。」
リックと刻まれた石碑に語る。




届け物と伝言のお使いは終わった。
ふと見上げれば、どこまでも青空。
この空を飛ぶのなら嫌いな飛行機も悪くないようなそんなふうに感じる青空。



「さぁ、帰るか!日本に、空を飛んで。」



もう俺の線はぶれてないと思えた。