空になったグラスにキョーコが何も言わなくとも蓮が片手をあげて、また同じカラフルなカクテルをオーダーする。
目の前に置かれたその鮮やかさの味を最初に一緒に味わったのも蓮だったと、そう思い出してしまう。
「もう、これの気分じゃありません……」
思い出してしまえばお気に入りのそのかわいい色さえも気に入らなくてキョーコはダダを捏ねる。小さく困ったみたいに笑う蓮に別のカクテルの名を告げると、苦笑を浮かべた彼は彼女のそんな願いをバーテンダーへと伝えた。
新しい透き通るカクテルのグラスと引き換えに、キョーコのお気に入りの色合いはそんな蓮の唇へと運ばれた。「甘いね」なんてちょっと顔をしかめたくせに酷く上機嫌にその甘さを飲み込む。
きっと、あんなふうに誰かの心も簡単に飲み干すのだろう………と、何故かそんなふうにキョーコは思った。 


「そんな嬉しそうに笑わないでください!!」
腹が立って仕方がなかった。キョーコにだって解っているのだ、無理をしていると。
だが、この目の前の彼は言っていたのだ『君に応援してもらいたい』と。
偶然にも居合わせてしまったTV局の倉庫の片隅へと追いやられた、キョーコが何年も前にその中へと入る事をやめた鶏の脱け殻に向かって。
『君にどんな手を使っても落とせって言われた彼女を、やっと捕まえに行く勇気が持てたんだ。だから、君に応援してもらいたいくってここに来たんだ。』と。
蓮は知らずとも、蓮の語るその相手は自分に違いない事を知っているキョーコ。祝福せねばならない機会など来なければいいなどと願ってしまった罰なのだろうか………応援をせねばならないのだ。
こんなにも育ってしまった秘密の恋の相手の恋愛の成就を。
どうすればそんな事が出来るのだろうか?そう思い、ひっそりと物陰で泣き濡れたキョーコが、降って湧いた天啓のように思い出したのが恋多き大女優の言葉だった。
無理矢理な願掛けのようならものだった………この恋心ごと恋しいと思ってもらえるほど深くに思ってもらえたならば、きっとと………だから、誓いを破るとそう宣言だってしてみせたのだ。厭われる覚悟まで決めて。
なのに、その男がこうも何度も邪魔をしに現れるのだ!
………いい加減に辛くなってしまう。


「シャンパンでも開けて乾杯したい気分なんだから仕方がないね。」
そんな憎まれ口を叩いた蓮は手にしたグラスをカチンとキョーコの前のそれと鳴らせた。
「後輩の恋路の邪魔がそんなに楽しいなんて、本当にいじめっ子なんですね………」
恨み言が止まめられないキョーコ。
そんなにキョーコが誓いを違える事が気にいらないのだろうか。どうせ、貴方なんかひとりで『キョーコちゃん』のとこに行ってしまうくせに………
こんな先輩なんか彼の唯一の弱点をつき、目の前に山盛りの食べ物を提供して困り切った弱り切った顔をさせてしまいたいとキョーコは思い描く。
「敦賀さんなんてさっさと本命でも口説きに行っちゃえばいいのに………」
トロトロと透き通るカクテルの酔いに任せたキョーコがそんな事が零す。


「ふぅん?本命、口説いてもいいんだ?じゃぁ、遠慮なくそうするよ。ここでこのまま口説かれたい?それとも、部屋に行く?」
コトリとグラスを置いた蓮は、そう言ってこのバーラウンジの入ったホテルのキーなど取り出してみせる。
「ふざけるのもからかうのもやめてください。」
ばっさりと切ってのけるキョーコ。
「そんな寝言は寝てから言ってください。」
そう言ってこの場から立ち去るべく席を立つ。そんなキョーコの腰をさらりと抱き寄せた男は慣れた仕草でバーを出る。
「寝言は寝てからね……是非ともそうしよう………寝ようか、一緒に。」
そんな事を言いながら、蓮はエレベーターの呼び出しボタンを地上へではなく上昇方向へと押した。
「俺が何年君を想ってるか知りもしないで。君の恋路の邪魔なんて、その相手が俺じゃない限りいつまでだってどこまでだって邪魔し続ける気でいるからね、いい加減に君も諦めてもらうよ?」
そんな言葉と熱い眼差しに晒されて酔いよりさらに鮮やかに赤めくキョーコを連れて、口を開いた箱の中へと乗り込む。
「もう二度と他の男に口説かれようなんて思えないくらいに、言葉で身体で俺の本気と愛をわかりやすく教え込んであげるから。」





彼の本気とやらと『キョーコちゃん』の正体を知った彼女の恋愛回路が矯正され、彼女の暴走の理由と鶏の中身の正体を知り彼がベッコリと沈み込むの事になるのは、その夜の後の事となる。





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あれ?
結局いつもの拉致る暴走蓮さんだ。
駆け引きはどこへ消えた?
(´Д` )
うぬぬ、こんな感じのネタはもっと構成とか着地点とかきちんと決めてないといけないな………いつかリベンジしよう。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

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