「もう、離してください!」
トゲトゲしい声をあげて囚われた手を引こうとするキョーコ。その手を離す気など微塵も持ち合わせてなぞいない蓮は、その指先を捕らえる大きな手の力を緩めずに、さらに強く唇を押し付けて「嫌だね」などと宣い嫣然と笑みを深める。


苛立たしいとそう思ってしまった、誰のせいでこんなこんなにもめんどうな事をしていると思っているのかと……
この場にいるふたり、ふたりともが深刻な病持ちである。
彼女を唯一と決め切ってしまう幼少期からの刷り込みだったかのように絶対に刻み込まれた違えようの無い恋に落ちた男、片や愛したくも愛されたくもないという病の名残りか曲解に磨きがかかったようにある男の事に関してだけ盲目的に明後日の方向へと走る恋愛回路搭載の女。



キョーコは、深く恋をしてもらうと決めたのだ……目の前のこの男を想うその心ごとを許してしまうほどに強く。
『忘れられない男がいてもいいのよ。それでもその心ごとを愛してくれる男がいればね、いい女にはきっとそんな男が現れるものだわ。』恋多き女と呼ばれた大女優がそう語っていた。
女優としてタレントとして着々と経験を積み、その過程の中で磨かれ華やかに花開いたキョーコ。
その卑屈なまでの自信のなさも周りの評価や苦言により、多少は矯正されるに至り自信を持った確立した自分を育てあげた。
もうあの厚かましくも厚顔なる幼なじみも不可思議な言動が止まない魔界人も軽くあしらえると思えるし、降るように迫り来るアプローチもその意図を正確に理解した上でスルリと受け流せるようにだってなっていた。
「いい女」と呼ばれるものになれたのかもしれないと、そうでなくてもなんとかそれを演じる事が出来るのではないかと、そう思った。
だから、キョーコは告白をしてもらおうと決めて努力を重ねているのだ。
今も心に巣食う男のために


誓いを違えるとそう言われたのだ………それはもう、晴天の霹靂のように唐突に。
愛しい愛しい唯一至高の存在。
蓮だけが知っていればいいその彼女の魅力は留まるところを知らずに、あらゆるものを魅了してまわっていた。
少女から女性へと、滴るように香る彼女に群がる馬の骨は払っても払ってもわらわらと湧いて出て、その度に胃の腑が焼けるような思いを味わっていたのに。
じんわりと近づこうと画策する蓮を、尊敬だとか敬愛だとか果てには崇拝する我が主とまでに遠い遠い存在へと追いやっておいたキョーコが。
『純潔を守り通す』その誓いを違えると。
彼女の力をもって漸く自分を許せると思えたからには、いきなりに押し付けて遥か彼方へと逃亡される前にやんわりと外堀を埋めがんじからめなまでに絡め取ってしまおうとそう決めていた蓮に。
そう言い切るなり、代わる代わるに男との逢瀬を重ねだしたのだ………蓮の事など眼中にも入れずに。
これが、邪魔をせずになどいれようか



「いい加減にしてください!いくら敦賀さんでも度が過ぎるとセクハラですよ!」
などと、そんなかわいくない事を言って、蓮の唇に食まれてしまいそうだったキョーコのその指を引き戻す。
「いい加減にしてほしいのはこっちの方だよ………ねぇ、もう諦めたら?」
いなくなってしまったひんやりとした指先の名残りを惜しむように己の唇へと赤い舌先を這わせながら蓮が言う、挑むみたいな目をして。
「………嫌ですよ」
子どもっぽくも唇をとがらせた彼女は、そんな事など知らぬ気にグラスに残ったカラフルなカクテルを睨みつけてからクイと飲み干すだけだった。






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熱が下がりました、猫木です。元気です。
本日は、出勤して出張後の報告や書類提出して参りました。まだ、顔色があまり良くなかったみたいで土曜まで休んでいいからと早々に帰らされちゃいましたけど。
わぁい!休みの間サイト巡りしよー。
( ´ ▽ ` )ノ


って、中編?あれ?終わんねぇ終わんねぇよ………
そもそもどこに着地するつもりだったのかしら?
最初は、しっとり大人な恋の駆け引きな感じを目指していた筈なのになぁ。
まとまんのかな、この話。
(´Д` )


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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