カンッと、高い音をさせてグラスが降ろされる。
「おかわりください!」
店員ではなく、悠然と隣に腰掛ける男に苛立たしげに告げる。
しょうがないねといった苦笑を浮かべた、けど、どこまでも絵になる男が片手を上げてバーテンダーにオーダーを伝える。
ふいっと顔を背けて全身で「私、怒ってます」アピールをしているそんな姿もかわいいな、などと爛れた事を思っているは彼女の先輩にあたる人気俳優。
「ご機嫌ななめみたいだね?」
蓮はご立腹な彼女とは対照的に嬉しげにクスクスと笑いを零している。
「そうですよ!意地悪な誰かさんが邪魔ばっかりしてくださるから!」
20台も後半に差し掛かり更に円熟した大人の男の余裕と色気をこれでもかと滲ませるそんな隣の男の満足気な態度が、尚更にカンに触ると言わんがばかりに意地でも蓮を見ないようにしているのは、蓮のかわいい想い人。
類稀なる表現力で難しい役どころも卒なく己の物へと変える実力派女優であり、マルチで多彩な才能と飾らないキャラクターで愛されるタレントとして人気の最上キョーコ。


差し出されたカラフルな色合いのカクテルを自棄酒のようにそのかわいらしい唇へと流す彼女には、窓の外にひろがるロマンチックな夜景などもう目にも入ってはなさそうだった。
「何度も何度も!なんでそんなに意地悪なんですか?」
そう………キョーコは先ほどまで別の男とデートなるものをしていた筈で、さぁ良いムードとなった頃合いでこの意地悪な先輩が現れたのだ。思い切り横槍を入れに。
「意地悪なんて心外だな。」そうやってニヤリと笑うその顔には思いきり計画通りだと書いてあった。
「なんで、敦賀さんはそんない意味ありげで回りくどい事ばかりおっしゃるんですか?………もう少しなのに」
ぐだぐたぐちぐちと不満を零す。
普段のキョーコなら絶対にしないような、嫌味なくらい長い彼が専属モデルをつとめるブランドのスーツを纏った脚をハイヒールの先でコツンとぶつけるように軽く蹴ったりなどしてみせる。


そうもしたくなるほど、このタチの悪い先輩は何度も何度も何度も何度も!どこから監視してるんですか?といった完璧なタイミングでキョーコの目的を削ぐために現れるのだ。誰よりも多忙の筈なのに。
出来るだけかわいくなるようコスメマジックを使って服なんかもこだわって、そうやって声をかけて貰えるように、誘ってもらえるようにとがんばって………なのに、その時になればこの先輩はとびきりの笑顔でするするとやって来てしまうのだ。
そして、さも親しげにキョーコの腰を優しく引き寄せ、この前作ってくれた料理が美味しかったからまた食べたいだの、遅くなったらまた泊まればいいなどといった台詞を意味ありげに囁くのだ。
そうなると、もう、キョーコがなんとか気をひいて罠をはり待ち受けていた相手の男は、おどおどと逃げて行ってしまう。
抱かれたい男No.1の地位を欲しいままにする男と張り合おうとする手合いはそんなにいない。増して目の前で見せ付けるようにはっきりと牽制されれば、なおのこと。


「絶対に、あとちょっとだったのに………」
恨めしげにキョーコがつぶやく。
(あとちょっとで告白してもらえるところだったのに)
好きになって告白をしてもらう………それが彼女の掲げた目的。
そんなキョーコの手を取り、白魚のように白い蓮の愛してやまない指先に唇を付けて言った。
「だから………だよ?」
勝ち誇るような笑いをその唇に乗せて。
キョーコはそんな好き勝手な先輩を酔いに潤んだ目で睨みつけた。
「敦賀さんの……いじめっ子」
そうやって詰っても彼女の先輩の笑みは深くなるだけだったのだけど。






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発熱が続いております、猫木です。
今日はもう、やたらめったらに睡眠を貪りました。

熱で頭茹ってるからよくわからないな、これ。
前編って書いたけど、後編ってあるのかしら?
(´Д` )




↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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