その日、確かに芸能界の人気NO,1俳優は壊れていた。



日本人離れした長身の引き締まった身体、彫刻のように整った精悍な顔、フェミニストで紳士な物腰、表現力に裏打ちされた確実な演技で、抱かれたい男No.1に君臨する男。
敦賀   蓮は、左頬に真っ赤な手形をくっきりと付けご満悦に笑み崩れていた。
それはもう、春の陽射しなどではなく常夏のようにぐっずぐずに。




「あ、あの………敦賀さん?その頬は、一体?」
ただでさえ人の目を惹き付ける男の頬にはっきりと人の、サイズ的に女性の手形。
誰しもが『何があって一体誰が、敦賀蓮の顔を打ったのだ?』と、問うた。
そして、その後誰しもが問うたことを後悔したのだった。


「あぁ………コレですか?」
蓮は、問われる度にうっとりとより一層に笑みを深くして、その手の跡でさえ愛しいと大事だと言わんがばかりに指でなぞるように触れると告げた。
「結構しっかりと残ってくれましたからね。かわいいでしょ?…………マーキングですよ。」
と、滴るような濃蜜な色気を纏わせて。
胸焼けを起こすような、甘い甘い空気の中で。






そして、手形の主は誰であったのかは彼が所属する事務所に帰った時に判明した。


吹き抜けの広い正面ロビー。
運の悪いことに彼女は、その見晴らしの良い広々とした空間で彼に見つかってしまったのだった。


彼女を視界に捉えるやいなや、蓮はその長いコンパスをフル活用して歩み寄ると抱きしめた。何故か、怯え逃げようとする少女を。


「ひぃ!…………やめ!離してください、敦賀さん!!」
じたじたと蓮の腕から逃れようと暴れる少女の抵抗など物ともせずに、後ろからしっかりと絡め取るようにその身体に腕をまわし
「やだ。………ねぇ?キョーコ。キョーコのかわいい顔見せて?」
キョーコの耳元で囁くと、その身体の向きをくるりと変えて向き合いその顔を覗き込む。
「っ!敦賀さん!だからあんなにすぐ冷やしてって言ったのに!!」
蓮の顔にはっきりと残る手形を見て青ざめる。
「ん?コレ、俺はキョーコのものって見せびらかして歩いてるみたいで嬉しいよ………次は、また歯型にする?」
と、キョーコの右手を取り手形の残る左頬に当てる。
「この顔じゃ仕事にならないから今日はもう帰れって言われたんだ。キョーコも、お仕事終わりでしょ?一緒に帰ろう?」
ひょいっとキョーコの腰を抱き、持ち上げる。
「いや!ひ、ひとりで自分の家に帰ります!」
「だーめ。まだ、キョーコが足りない。我慢出来ない。」
そう告げると、おもむろにキョーコの唇を塞いだ。


「むがっ………んっ……ふぅ……」
キョーコの後ろ髪に指を絡めて逃げ道を塞ぎ、苦しげにあがる吐息さえ貪るように覆い尽くすような深く長いくちづけ。
それは、じたじたた抵抗を試みていたキョーコからぐったりと力が抜けるまで続けられた。やがて名残惜しげにその唇に舌を這わせてなぞり、ようやくくちづけを解くと集まった視線へとニッコリと笑みを乗せ見渡す。
「そういう訳で、失礼します。」
宣言すると、キョーコを横抱きにしてそのまま堂々と駐車場へと続くエレベーターへと乗り込んでいった。




残された観衆は思う
「流石、ラブモンスターの率いる事務所の看板。愛がおっもい!!!」
と。




壊れた俳優と連れ去られたタレントの行く末は、次の日俳優の両頬に増えた手形と首筋の歯型が物語っていた。






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壊れた蓮さんを書こうってのと、蓮さんの顔に手形を付けたかった。ただ、それだけの妄想。

きっと叩かれた時の台詞は
「敦賀さんの破廉恥ーーー!!」
的なものに違いない。←なにをやったのやら。





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