「アメリカ人講師」襲撃事件で火が付いた「世界の中国批判」…!「排外主義」を招いた習近平の「EV大誤算」の一部始終

中国で台頭する「排外主義」

6月10日、中国北東部の吉林省の公園で米アイオワ州コネール・カレッジの講師4人が刺される事件があった。

前編「中国で「アメリカ人講師」刺傷事件が発生し、習近平の権威が失墜…!経済無策で「落ちた中国」と「排外主義」の不穏な関係」で紹介したように、4人の命に別状はなかったが、ロイター通信、BBC、CNN、NHKなど西側主要メディアはこの事件をいち早く報道し、話題となっている。一方で、中国の国営メディアは、事件をほとんど報じていない。

習近平国家主席。国内の景気悪化が不穏な事件を誘発している…Photo/gettyimages

習近平国家主席。国内の景気悪化が不穏な事件を誘発している…Photo/gettyimages© 現代ビジネス

主要メディアによれば、事件は次のようなものだった。

〈警察によると、男性がアメリカ人講師らの1人に体をぶつけて刺し、続けて他の3人も刺したという。さらに、助けに入った中国人観光客も負傷させたという。警察は「崔」という姓の男(55)を逮捕した。他の事案とは関連のない単独の事件とみている。中国で外国人が襲撃されるのはまれ〉(BBC)

崔という男の素性は明らかではないが、米国人講師への襲撃は内需不振に加えて唯一気を吐いている輸出産業に対して、欧米の厳しい政策が影響しているのではないかと心配になる。

中国国内で排外主義が台頭しないのか、検討してみよう。

海外から袋叩きにされる「中国EV」

中国政府が7日に発表した貿易統計によれば、5月の輸出は前年比7.6%増だった。2ヵ月連続で増加し、伸び率は4月の1.5%増から拡大した。

だが、輸出主導の景気回復期待に水を差す出来事が起きている。欧州連合(EU)は12日、「中国から輸入する電気自動車(EV)に来月から最高48%の関税を課す」ことを発表した。米国ではすでに中国製EVに対する関税を25%から100%に引き上げる措置を決定しており、今後、西側諸国への輸出拡大は難しくなることだろう。

安価な中国EVの輸出が世界から問題視されている…Photo/gettyimages

安価な中国EVの輸出が世界から問題視されている…Photo/gettyimages© 現代ビジネス

中国製乗用車の5月の輸出台数は前月比9%減の37万8000台と既に低調となっているが、「今年の輸出台数は前年比20%超増の500万台となる」との強気の予測が出ている。「東南アジアや中南米諸国などの新興国向けの輸出が拡大する」というのがその根拠だが、はたしてそうだろうか。

タイは中国製EVの有力な輸出市場となっているが、このところ経済が低迷しており、今年の乗用車販売台数は以前の予測よりも大幅な減少となる見込みだ。

貿易制限の動きも出ている。昨年、中国製EVに追加関税を課したトルコ政府は8日、「中国製ハイブリット車とガソリン車にも40%の追加関税を課す」と発表している。

 

新興国で高まる「中国デフレ輸出」への怒り

中国の新興国向けシフトは乗用車に限ったことではない。中国の1~5月の新興国向けの輸出は前年比6.7%増の4544億ドル(約70兆円)と好調だ。だが、今後もこの傾向が続くかどうかはわからない。

ローテク分野の輸出が急増しており、新興国との間でも貿易戦争が勃発する恐れが生じているからだ(6月5日付ブルームバーグ)。

マレーシア政府は、「中国は住宅関連分野の過剰生産能力をデフレ輸出という形で貿易相手国に押しつけている」と批判している。

中南米諸国でも同様の事態となっている。中国からの鉄鋼輸出の急増で地元鉄鋼企業が打撃を受け、安価な繊維製品が地元アパレル企業を倒産に追い込んでおり、中国に対する怒りは日に日に高まっている。

中東湾岸諸国でも、「中国製品の輸出ラッシュで自国産業が大打撃を被ってしまう」との危機感が生まれている(5月14日付ロイター)。

多くの新興国が中国製品に対して厳しい貿易制限措置を講ずるのは時間の問題だろうが、これに対して中国側が逆ギレし、中国国内で排外主義が猛威を振るう事態になってしまうのではないかと筆者は懸念している。

経済困窮が引きおこす「自殺」と「犯罪」

不動産バブルの崩壊のせいで中国の世相は暗くなるばかりだ。

中国はかつて「楽観的で自信に満ちた中流階級が社会を支えている」と言われていたが、「今は昔」だ。保有する不動産価格が暴落したことが災いして貧困層に逆戻りするケースが後を絶たない。

経済低迷で国内の秩序が大きく乱れ始めた…Photo/gettyimages

経済低迷で国内の秩序が大きく乱れ始めた…Photo/gettyimages© 現代ビジネス

中国各地で飛び降り自殺が多発しているため、橋や商業施設などでは監視員が常駐し、「防護ネット」が取り付けられるのは当たり前になりつつある。「中国社会は急性アノミー(社会的規範が失われて無秩序になる状態)に陥りつつある」と指摘する専門家もいる。

無差別殺傷事件も相次いでいる中、憂慮されていた事態が起きてしまった。それが、吉林省での米国人大学講師4人の襲撃事件だ。

日本人も例外ではない…

逮捕された崔という男は50代の失業者だった。犯行の動機はわかっていないが、外国人をターゲットにした無差別殺傷事件だった可能性は排除できないと思う。

中国のネットからは「清朝末期に列強に反発した庶民が組織した『義和団』が復活した」との声が聞こえてくる。「中国に圧力を強める米国が当時の列強だ」というわけだ。

残念ながら、日本も例外ではないようだ。中国メデイアによれば、雲南省で8日、日の丸に「必勝」と書かれた鉢巻きをした人物が周囲の人々から暴行を受けるという事案が起きている。

6月13日付ヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)は、「吉林省の事件と6月1日に中国人インフルエンサーが靖国神社で路上放尿した事件には関連性がある」とする識者のコメントを伝えている。

この事件は、正確には靖国神社の石柱に放尿する仕草をしたあと、赤いスプレーで「Toilet」と落書きして逃げ去った動画に批判が集まったものだ。中国でもこのインフルエンサーへの批判が起きているが、中国国内の状況が次第に悪化するなか、日本人への排斥運動についても、厳しいチェックが必要だろう。

日本にとって最悪のチャイナリスクが起きないことを祈るばかりだ。

連載記事「「EV」がアメリカだけでなく中国でも絶不調に…トヨタ「ハイブリッド一人勝ち」のウラで「中国EV大ピンチ」の深刻すぎる実態」では、中国経済の深刻な状況をさらに詳しくお伝えする。