1989年の天安門事件から35年を迎えた6月4日、香港では中国政府を批判したなどとして23歳から69歳の男女4人が逮捕された。

香港では長年、この日に天安門事件で犠牲となった若者らを追悼する集会が開かれていたが、2020年に香港国家安全維持法が施行されて以降はそれ自体が禁止となった。この日も早朝から香港島にあるビクトリアパーク周辺では警察官100人以上による厳重な警備体制が敷かれていたが、逮捕された68歳の女性は路上で中国政府を批判するスローガンを叫び、今年3月に香港国家安全維持法を補完する形で施行された国家安全維持条例違反の疑いで逮捕された。ビクトリアパーク内で太鼓を鳴らしながらお経を唱えていた日本人男性も警察に連行され、一時拘束されたことも明らかになった。

また、この1週間前の5月28日には、SNS上に中国政府に対する憎悪を拡散する投稿を行ったとして男女6人が逮捕されたが、有罪になった場合は最長で禁固7年が科せられる可能性がある。国家安全維持条例では、香港の分離独立や破壊活動、テロ、外国勢力との共謀などの行為を犯罪と規定しているが、人権団体などからは市民の自由な権利が侵害されていると強い懸念が出ている。

香港は百万ドルの夜景やグルメで日本人にも大変人気の観光地だった。また、自由や民主主義といった価値観を共有し、世界の金融センターというイメージがあったが、今や見る影もない。民主化を求めた「雨傘運動」が勃発したのが2014年。それから10年かけ、習近平政権は反政府活動を弾圧するために上述のような法律を施行して、着実に香港の中国化を押し進めてきた。

香港市民はもう諦めモードにある。本来であれば自由や民主主義の復活を訴えたくても、そういったことをネット上に書いただけで逮捕される恐れがあり、“心の中で思う”ことしかできない状況だ。

習政権が最も恐れているのは、“第2の天安門事件”である。今日、中国の経済成長率は鈍化し、不動産バブルは崩壊し、若者の失業率は20%あまりと高く、市民の習政権への経済的、社会的不満は根強い。それを二度と繰り返さないためにも、習政権は香港を含む全土で今後いっそう監視の目を強めていくことだろう。