「増税メガネ」岸田首相も財務省に「毒されている」頑なに消費税減税しないワケ 政権発足以降最低の支持率を記録

「遅く、ショボい」経済対策

現在政府・与党は所得税減税1人4万円と、非課税世帯への7万円の給付金を軸に検討しているが、この評判があまり芳しくない。

原稿執筆時だが、テレビ東京と日本経済新聞社が実施した10月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で政権発足以降で最低、前回9月調査から9ポイント減少した。その中で、所得税減税を「適切だとは思わない」は65%だった。

岸田首相としては、満を持して「増税メガネ」を払拭するつもりだったのだろうが、「減税ウソメガネ」とまで揶揄されるようになってしまった。

その理由を本コラムでは考えてみたい。

結論から言うと、「遅く、ショボい」からだ。

先週23日の本コラム〈「増税メガネ」岸田首相の「失策」がここで連発…所得税減税でブレブレの自民党〉でも、財源は50兆円程度あるがそのうちの15兆円程度の規模感があればいいが、その議論がないと指摘している。

さらに、税法改正案が臨時国会か来年度通常国会なのかがポイントであるが、来年のような気がすると懸念している。

悪い予感はあたるもので、23日の本コラム公開後に行われた所信表明演説とその後の展開をみるとわかる。

経済に着目するのはいいが

23日岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済、私は、何よりも経済に重点を置いていきます。」と語った。

さらに、「変革を力強く進める「供給力の強化」と不安定な足下を固め、物価高を乗り越える「国民への還元」。この二つを「車の両輪」として総合経済対策を取りまとめ、実行してまいります」、「なお、還元措置の具体化に向けて、近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会における早急な検討を、指示します」としている。

まず、経済に着目するのはいい。そのために、供給と需要に働きかけるのもいい。

ただし、供給のほうは効果がすぐ出ないので、需要対策を先に述べるのが普通だ。供給対策として、賃上げ減税など各種の企業向け減税措置が書かれている。

一方、需要対策として、所得税減税は明記されていない。所信表明で書かれているのは、与党税制調査会への指示だけだ。自民党税制調査会長は、岸田首相のいとこで財務官僚だった宮澤洋一氏だ。

さらに、還元すべきものが「成長による税収の増収分の一部」とされ、金額が書かれていない。

その翌日24日の代表質問において、岸田首相は所得税減税を明言した。また、還元する税収は過去2年度分であるとも答弁した。

来年6月以降の実施

その後、26日の政府与党政策懇談会で、一時的な措置として所得税・個人住民税の減税をするのが最も望ましいと指摘、過去2年間の税収増分を還元すると語った。

所得税減税について、所信表明演説に書かれなかったことは、今臨時国会ではなく来年の通常国会に税法改正案を提出するということだ。

しかも、規模も23日所信表明演説では言及せずに、その後の24,26日に、首相は、過去2年間で所得税・個人住民税の税収が3.5兆円増加する中で国民負担率が高まってきたことも踏まえ「この税収増を国民に税のかたちで直接還元する」と語った。

これで、筆者が冒頭に「遅く、ショボい」という意味がわかるだろう。

所信表明演説で所得税減税を明記すれば、今臨時国会に税法改正案が提出され、最速では年末調整にも間に合う。その場合、規模は15兆円程度だ。

一方、岸田首相が「所信表明演説以降に話したことは、3.5兆円規模で来年税制改正において実施するということは最速で来年6月以降で実施するということだ。

今年年末のはずが来年6月、15兆円のはずが3.5兆円というのだから、まさに「遅く、ショボい」のだ。

ちなみに、筆者は、28日放送の大阪朝日放送「正義のミカタ」において、財源が50兆円もあるから、今年の年末に第1段として15兆円減税、その後、景気回復がうまく行かない場合には二の矢、三の矢として15兆円減税を連発する用意があるというメッセージを打ち出せるとも言った。それと、来年6月に3.5兆円の1回だけというのとでは雲泥の差があるだろう。

財務省の手で踊らされている

消費税減税でなかったことも、人々の不満がある。先週の本コラムでかいたが、これは、消費税については社会保障目的税なので減税はできないと財務省の説明に毒されている。

本コラムで何度も指摘しているが、消費税は先進国でどこでもあるが社会保障目的税なのは日本だけだ。

その経緯を今回は書いておこう。

実は、1990年代までは大蔵省も、消費税は社会保障目的税でないと主張していた。しかし、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。ただし、2000年度の政府税制調査会答申では、「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」と書かれている。

社会保障論からみれば、消費税を社会保障目的税化とするのは間違いだ。社会保障は、日本を含めて給付と負担(保険料)に関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多いが、日本のように消費税を社会保障目的税とし税金が半分近く投入されている国はない。税の投入が多いと、給付と負担が不明確になるからだ。

もし、日本でも他の国と同様に消費税が社会保障目的税でなければ、消費税を減税できないとの恫喝とも言える暴論はできない。

なお、給付と負担が不明確になると社会保障費は膨らむおそれがある。この社会保障論から、消費税を社会保障目的税とせずに、保険料で賄うほうが望ましい。保険料は究極の社会保障目的税だ。

ちなみに、保険料といっても、その法的性格は税と同じで強制徴収なのは世界共通である。このため、保険料とはいえ、世界では社会保険「税」として、税と同じ扱いである。ただ、日本は、世界常識になっている「歳入庁」がなく先進国の中で珍しい。

財務省にとって、消費税の社会保障目的税と歳入庁がないのは好都合だ。

保険料は労使折半なので企業負担もあるが、消費税は企業負担がないと経済界は考えて、消費増税前向きだ。その上に、財務省が消費増税と法人税減税のバーターを持ちだすので、さらに経済界は消費増税に前のめりになる。歳入庁がないのは国税庁支配力の維持に好都合だ。岸田首相も財務省の手の上で踊らされている。