ついに韓国は「中国の負け」に賭けた...中国王朝の変遷に翻弄された歴史で培われた「勝ち馬」を見抜く眼力

 

1992年に国交正常化したが、韓国の対中認識は変わりつつある AP/AFLO

<中国経済への依存度の低下もあって韓国の対中感情が変化し、現在では与野党双方が競って中国を批判するという状況が出現している>

「中国が負けることに賭ける人たちは、あとで必ず後悔するだろう」

中国と韓国との間での舌戦が繰り広げられている。発端となったのは、冒頭の駐韓中国大使の挑発的な発言だ。背景に、対米関係を重視する尹錫悦(ユン・ソギョル)政権への中国政府のいら立ちが存在することは明らかである。

注目すべきはそこからの展開だ。露骨な批判を受けた尹政権が「内政干渉だ」と反発したところまでは、同政権のこれまでの外交政策を見れば不思議ではない。

先の中国大使の発言は韓国の最大野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)との夕食会で出たものであり、韓国政府の抗議に対し、中国外務省は「駐韓中国大使と李在明代表の交流に不当に反応して抗議したことに重大な遺憾と不満を表明し、抗議する」と反論した。

慌てたのは、名前を挙げられた李在明だ。中韓の対立が高まるなか、中国に対し妥協的であるとみられることを恐れた彼は、「中国政府のそのような態度はしかるべきものではない」と発言し、自らの姿勢を急いで修正した。結果、与野党双方が競って中国を批判する、という状況が出現した。

背景にあるのは、韓国の対中感情の変化である。例えば2013年、保守派の大統領だった朴槿惠(パク・クネ)が中国へ接近した理由は3つあった。韓国世論の中国への高い親近感、北朝鮮との対話の橋渡しの期待、そして急速に進んでいた中国市場への経済的依存の高まりだ。

「次の覇権国家の見誤り」は打撃

しかし現在、その状況は大きく変化した。朴槿惠政権末期に勃発したTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備をめぐる中国の事実上の経済制裁は、韓国人をして「中国は他国を力でねじ伏せようとする国である」との認識を持たせることになった。北朝鮮との対話においても中国は橋渡しの役割を果たせず、朴槿惠に続いた文在寅(ムン・ジェイン)政権の南北対話で重要な役割を果たしたのは、アメリカであった。

何よりも韓国の中国への経済的依存度は、13年をピークに頭打ちしている。理由はいくつか存在した。1つは中国市場への過度の依存を恐れた韓国企業が対外投資を分散させたこと。結果、00年代の一時期には対外投資の40%近くを占めた中国への直接投資は、今日10%以下にまで低下している。

2つ目は、中国経済の減速である。00年代には年平均10%を超えた中国の経済成長率は、10年代になって低下の傾向を見せるようになり、新型コロナ禍に苦しんだ20年と22年には2%台までに低下した。

こうした状況の結果、かつて存在した「来るべき時代は中国の時代になる」という理解が韓国で急速に失われつつある。時に誤解されるように、韓国の中国に対する認識は、「大国の中国に無条件に頭が上がらない」というものではない。

彼らの頭の中にある中国認識は、元が明に代わり、明が清に天下を譲ったように、複数ある「帝国」が互いに競い合い、覇権を争う図式である。そして、だからこそ移り変わる覇権国家の中で、「次」を見誤らないことが重要だ、と彼らは考える。

元と明の交代期に高麗が選択を誤って滅び、明から清への交代期に朝鮮が滅びゆく明を支持して女真に攻撃されたように、覇権国家選択の誤りは、時に王朝や国家に致命的な打撃を与えるからである。

そして、今日の韓国の中国に対する冷淡な態度は、彼らが「次」の覇権国家としての中国の存在に大きな疑問符を付けつつあることを意味している。だとすれば、尹政権による中国と距離を置いた親米路線は、われわれの予想以上にこの国に根付いていくのかもしれない。