香港(CNN) 米ボーイングや欧州エアバスに対抗する航空機「C919」が先月末、初の商用飛行を行った。中国はこれを歴史的快挙だと自負している。

中国政府は同機を国産大型旅客機の第1号と位置付けている。海外航空機メーカーへの依存を減らすために、中国政府が大々的に展開する「中国製造2025」政策の旗頭的な存在だ。

だがC919は、技術革新における中国の国際的地位を強化するどころか、欧米依存から抜けきれない状態を象徴していると専門家は言う。

その理由は、機体に使われている部品の大多数が海外製で、それも欧米からの製品が大半を占めているからだ。中国の国営メディアは同機の部品の約40%が輸入品だと報じているが、実際の数字ははるかに上回ると専門家は言う。

航空機メーカーが機材を世界中から調達するのは珍しくないが、「C919が他と違うのは、飛行に必要な部品のほぼすべてが中国製でないという点だ」。こう語るのは、中国の数十年規模の旅客機開発計画を2年にわたって調査したチームのリーダー、スコット・ケネディ氏だ。

果たして結論は。米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の中国のビジネスや経済の専門家、ケネディ氏は、「基本的に、C919は非中国製の航空機に中国の塗装を施したものだ」と語った。

長年の夢

C919を製造したのは、上海を拠点とする国営企業の中国商用飛機(COMAC)だ。「中国製の大型航空機を青い空に飛ばす」ことを目標に掲げている。

航空業界の動向を追うエンダウ・アナリティクス社を創業したシュコア・ユソフ氏は、これがどれほどの難問であるかは語りつくせないと言う。

現在、国産航空機を製造している国は世界でも数えるほどだが、ユソフ氏によれば、それも当然のことだという。難解な技術的知見や厳しい規制上の要件、驚くような時間と資金といった巨大なハードルが待ち構えているためだ。

例えばC919の場合、CSISの試算では製造費はすでに490億ドル(約6兆8200億円)に達している。ただしCOMACの財政状況が不透明なため、正確な数字を出すことは不可能だとCSISは言う。

C919はCOMACが製造した初めての国産航空機ではないが、その大きさから、より注目を集める形となった。

C919の収容可能な乗客数は最大192人で、最大航続距離は5500キロメートル。

これに対し、COMAC初の商用機「ARJ21」はずっと小型の国内専用機だ。最大航続距離はわずか3700キロメートルで、乗客数も最大97人だ。

COMACは広胴型の長距離航空機「CR929」の製造にも取りかかっている。だがこちらは中国とロシアの共同プロジェクトで、ケネディ氏によれば、昨年ロシアがウクライナに全面侵攻をしかけて以来中断しているとみられる。

「こちらの機体はおそらく写真や図面で終わるだろう」とケネディ氏はCNNに語った。「中国とロシアの共同計画に、技術提供しようとする者はいない」

本当にメイド・イン・チャイナ?

C919の初の商用飛行は5月28日。中国東方航空(CEA)の運航で、乗客を乗せて上海から北京へ飛んだ。

中国側はC919がボーイング737やエアバスA320と肩を並べる存在になり、技術大国としての地位を強化してくれるだろうと期待しているとケネディ氏は言う。

だが、中国政府が国産航空機の成功を喧伝(けんでん)したために、すぐさま専門家から海外製部品の割合について指摘が飛んだ。

CSISが2020年に行った分析による推計では、C919の主要または大型部品のおよそ90%が欧米製で、中国やアジア諸国で製造された部品はわずか10%だった。ユソフ氏の試算もほぼ同じだ。

この割合は20年から変化しているかもしれないが、認証プロセスの最中に部品メーカーを変更するのは困難なことを考えれば、その可能性は低いだろうとケネディ氏は考えている。

C919は計画よりも数年遅れて、昨年ようやく中国本土での商用飛行と大量生産が認められた。

中国側も批判を認めている。中国の国営英字紙グローバル・タイムズは先月29日、「C919が輸入製品に依存している中、国産航空機と呼べるのかという疑問が一部から持ち上がっている」という論説記事を掲載した。

「C919の場合、たしかに海外業者の名前がずらりと並んでいる」(グローバル・タイムズ紙)

同紙は、C919には「ハネウェルの電気系統と着陸装置、ゼネラル・エレクトリック(GE)のフライトレコーダー、CFMインターナショナルのLEAPエンジン、パーカーエアロスペースの操縦系統と燃料系統、ロックウェル・コリンズの気象レーダーとフライトシミュレーター、ミシュランのタイヤ」が使われていると指摘した。いずれも米国または欧州の企業だ。

他の航空機メーカーも輸入製品に頼っているというのが中国政府の見解だ。

中国の国営英字紙チャイナ・デイリーは先月31日、ボーイングやエアバスも「世界各国のトップサイプライヤー」に依存しているという論説記事を掲載した。

ユソフ氏によると、ボーイングでは787ドリームライナーをはじめ、飛行機部品の約40~50%が外国製だ。エアバスも、マレーシアなど海外から部品を調達しているという。

「巨人」に挑む

中国は、現在航空市場を事実上独占しているエアバスやボーイングに対し、ゆくゆくはCOMACで対抗するという野望を明言してきた。

ユソフ氏によれば、その野望がすぐに実現する可能性は低そうだ。

ひとつに、COMACは航空各社に心変わりをさせるほど十分には同機を差別化できていない。同社の技術は「エアバスやボーイングの機体ですでに使われている」とユソフ氏は言う。

COMACの機体が欧米の航空規制で承認されるまでには何年もかかりそうだ。

だがいったん増産態勢に入れば、国内や発展途上国からの受注は増えるだろう。こうした国の航空会社は、現在市場を独占する2社の機体にはとても手が出ない。インドネシアの地域航空会社トランスヌサは昨年、海外の航空会社では初めてCOMACの機体を発注した。

「商用機市場で欧米以外の国が別の選択肢を提供してくれることは、大いに賞賛に値する」とユソフ氏は言う。

だがユソフ氏は、中国が機体の価格を大幅に下げたとしても、顧客の心をつかむには時間を要するだろうと続けた。

「各国の航空会社を説得して購入させるのは簡単ではないだろう。機体を気に入ろうが気に入るまいが、(新参者には)つねに偏見がつきものだからだ」(ユソフ氏)