「中国気球」について衝撃事実 2~3月に多数が日本海に飛来も当局は政治的影響に鑑み「対処しない」決定していた

「2023年 中国『偵察気球(スパイ気球)』事件」は、まだ記憶に新しいことだろう。

発端は2月1日、米モンタナ州上空に正体不明の「気球」が飛来、多くの市民の目撃動画が次々にネット上にアップされ始めたことだった。地元空港は万一のリスクに備えて、飛行機を欠航させた。

これを受け2日、米国防総省の報道官が「1月28日、中国の気球が米国の領空に入った」と公表した。

その後、紆余(うよ)曲折あって4日、米南東部サウスカロライナ州沖に達したところで、米軍の最新鋭ステルス戦闘機「F22ラプター」が空対空ミサイルで気球を撃墜した。あの一件である。

発見から撃墜までの数日間、世界に共有された光景はさながら、テレビドラマのようだった。

中国は「平和的な気球だ」「米国は過剰反応だ」と主張。しかし、アンソニー・ブリンケン国務長官は予定していた中国訪問を中止した。

ここまでは外交上の〝ドラマ〟だが、野党・共和党はジョー・バイデン政権の対応を「弱腰」だと非難した。米中関係の緊張とともに、米国内の対立も激化した。

この一件後、筆者はずっとモヤモヤしたものを感じていた。

中国の主張を真に受けるわけでは無論ない。米国の大メディアが報じた「軍事偵察目的」との話も、さもありなんと思った。とはいえ、たかが気球である。

当初、「目的は米軍基地の画像情報取得だ」との報道があったが、200基以上の偵察衛星を保有している中国が、わざわざローテクの気球を使う必要があるのかと思った。

また、たかが気球を撃ち落とすのに、米国が、同盟国の日本にさえも「機密保持」を理由に売らなかった戦闘機F22を用いる必要があったのか。当初、国防総省は撃墜を考えなかったとも報じられていたのに…。などなど、多くの疑問が消えなかった。

3年前、わが国の東北地方に同様の気球が飛来したときのことも思い出した。当時の河野太郎防衛相は、気球の行方や再飛来の可能性を問われて「気球に聞いてください。安全保障に影響はございません」と答えていた。

今般改めて野党の追及を受けた河野氏は「分析の内容を対外的に話すことはできない」と答弁した。

これは大筋として理解できる。しかしそれなら、「お答えを控えます」と真面目に言うべきところを、「気球に聞いて」と茶化すように言うセンスには首をかしげる。

余談だが、河野氏は2021年の自民党総裁選に立候補した際、敵基地攻撃能力について「昭和の時代の概念」などといってケムに巻いた。国防の肝であり、最も言い難い論点をはぐらかす態度からは、「将来の宰相の器」を感じられない。

気球に話を戻そう。

米NBCテレビは3日、気球が「複数の米軍基地の兵器システムが発する信号や兵員間の通信を傍受していた」と報じた。収集した情報はリアルタイムで中国本土に送っていたという。

織田邦男氏「目的はピンポイントで持っていけるようにする」

だとすると、安全保障に影響は大ありだ。当然、わが国に飛来した気球にも同様の疑いを向けるべきだ。さらに、元航空自衛隊空将の織田邦男氏は、筆者のネット番組「百田尚樹・有本香のニュース生放送 あさ8時!」で、震撼(しんかん)する未来予想を解説した。

「中国がもくろんでいるのは、この気球を世界中にピンポイントで持っていけるようにすることです。風の速度と方向は高度によって違いますが、それが全てわかれば、全データをAIに入れ、どの高度に上げて(下げて)どこまで持っていくか操れるようになる。ピンポイントでワシントンに持っていき、生物兵器を落とすことも可能です」

もはや、たかが気球という話ではない。

最後に、筆者があるソースから得た最近のわが国に関わる重大情報を明かそう。

米国での「気球」事件の後、2月中旬から3月にかけ、わが国の日本海側に中国のものとみられる気球が多数飛来していた。当初、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)で監視したが、その後、数があまりにも多いことや、政治的影響に鑑み、日本当局は「対処しない」と決定した。

果たして、この決定は正しいのか。われわれの未来の安全を「気球に聞いて」いる場合ではないはずである。

■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。