亡国のエコ 太陽光パネルを〝中国軍から買う〟愚行 GXの法制化は事実上の「ジェノサイドへの加担」義務化 再生可能エネでなく安全保障こそ最優先だ

 

日本では、岸田文雄政権が2021年10月に公表した第6次エネルギー基本計画に「再生可能エネルギー最優先」と書き込まれた。菅義偉前政権の再エネ推進派、河野太郎元行政改革相、小泉進次郎元環境相の影響が強いとされる。

この路線は強化される一方であり、政府は今国会で「グリーントランスフォーメーション(GX)実行計画」の法制化を進めている。ヘンなカタカナ言葉だが、要はCO2(二酸化炭素)削減のことであり、「脱炭素」のことだ。

自治体レベルでも、東京都に続いて川崎市でも、「太陽光パネルの新築住宅への義務化条例」が可決された。いずれも2年後の25年4月からの施行予定となっている。

だが、これは事実上、「ジェノサイドへの加担」を義務付けるものだ。

今や世界の太陽光パネルの95%は中国製になろうとしている。そのうち、素材(多結晶シリコン)の半分は新疆ウイグル自治区で生産されている。

米国は強制労働などの人権弾圧への関与を理由に、中国製パネルの輸入を禁止した。そして、かつて日米貿易摩擦を担当した米国通商代表部(USTR)を窓口として、日本の経産省に足並みをそろえるよう要請してきている。

日本でも、同盟国である米国同様の輸入禁止措置を採るのは時間の問題だろう。ならば、上述の「再エネ最優先」や「太陽光パネル義務付け」は、すべて見直すことになる。

もちろん、本来は米国に言われるまでもなく、日本は自ら決断できないといけない。だが、「外圧がないと変われない」のが、どうやら実態なのが情けない。

さて、新疆ウイグル自治区の治安維持と経済開発を担い、政治的・経済的に支配しているとされるのは「新疆生産建設兵団」という中国共産党傘下の準軍事組織である。

兵団には現在14の「師団」があり所属人員は348万人に及ぶ。ウイグル全土に配置され、師団が市を併せ持つ「師市合一」制度となっている。兵団は4500以上の会社を所有し、世界70カ国の82万社以上の企業と貿易している。

米国は、ウイグルの人権抑圧に関与したとして、「新疆生産建設兵団」を制裁対象に指定した。ところが、いま日本が太陽光パネルを買うたびに、この兵団や、その傘下の企業にお金が流れている。

日本では、その中国の強大化に対抗するために、防衛費をGDP(国内総生産)比2%に増額するという議論をして、その財源をどうするかで大騒ぎをしてきた。だが、その一方で、GX実行計画の達成のためにGDP比3%という巨額のお金を費やす法律を制定しつつある。それで中国軍にせっせとお金を払うわけだ。一体何をやっているのだ?

日本は石油の98%を中東から輸入している。「台湾有事」の危機も迫る。いつエネルギー輸入が途絶するか分からない。

安全保障のためには、防衛力増強はもとより、原子力の再稼働・新増設、エネルギーや食料などの備蓄体制を強化しなければならない。お金はいくらあっても足りない。太陽光パネルを買うために喜々として中国軍にお金を払っている場合ではない。

=おわり

■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『中露の環境問題工作に騙されるな』(かや書房)、『亡国のエコ』(ワニブックス)など。