三か国が“対等に”共同開発する次期戦闘機

 日本、イギリス、イタリアの政府は2022年12月9日、次世代戦闘機を共同で開発することを決定した首脳声明を発表しました。

 

日英伊が共同開発する次期戦闘機のイメージCG(画像:防衛省)。© 乗りものニュース 提供

 次世代戦闘機は航空自衛隊のF-2戦闘機や、イギリス、イタリア両空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機をそれぞれ後継するものです。F-2は2035年から、ユーロファイター・タイフーンも2040年代前半からの退役開始が予定されています。このため次世代戦闘機は2035年の就役を目指して開発が進められます。

 日本は次期戦闘機、イギリスとイタリアはFCAS(将来戦闘航空システム)を構成する有人戦闘機「テンペスト」の開発計画をそれぞれ進めていました。今回の決定は日本がテンペスト計画に相乗りするものではなく、またイギリス、イタリアが日本の次期戦闘機計画に相乗りするものでもなく、三か国が平等なパートナーシップの基に、それぞれの持つ資金と技術を持ち寄って、まったく新しい戦闘機を開発するものです。

 開発の主体になる企業は、次の通りです。

・機体:三菱重工業(日本)、BAEシステムズ(イギリス)、レオナルド(イタリア)

・エンジン:IHI(日本)、ロールス・ロイス(イギリス)、アヴィオ(イタリア)

・電子機器:三菱電機(日本)、レオナルドUK(イギリス)、レオナルド(イタリア)

 これらの企業がとりまとめ役となり、三か国の各企業を統括していくことになります。

 共同開発の枠組みや参加企業などは明らかにされましたが、どのような戦闘機になるのかを予測するのは困難です。しかし「GCAP」(Grobal Combat Air Programme/グローバル戦闘航空プログラム)という共同開発のプロジェクト名に、予測する際のヒントがあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

「戦闘機」と考えていては本質を見誤る?

 前に述べたように、イギリスとイタリアはテンペストを将来航空戦闘システムの一構成要素と位置づけています。現代の戦闘機は、それ単体あるいは戦闘機部隊だけで戦うのではなく、AWACS(早期警戒管制機)やAEW(早期警戒機)などの航空機や地上のレーダーなどと密接な連携が求められています。両国が開発しているFCASは、これらに加えて情報収集衛星や艦艇、地上部隊、協働するUAS(無人航空機システム)など、より広範な軍事資産との連携を想定しています。

 つまり、単に戦闘機を三ヵ国で開発するだけではないということです。仮に戦闘機だけを共同開発するのであれば、プロジェクト名は「GFAP」(Grobal Fighter Aircraft Programme/グローバル戦闘機プログラム)か何かになったはずです。

航空自衛隊F-2戦闘機はアメリカとの共同開発だった(画像:航空自衛隊)。© 乗りものニュース 提供

 しかしプロジェクト名が「戦闘機」(Fighter Aircraft)ではなく「戦闘航空」(Combat Air)となったあたりから見て、航空自衛隊のF-2後継機も単なる戦闘機ではなく、航空自衛隊はもちろん、陸海自衛隊や同盟国・友好国の持つ軍事的資産と広範に連携する、戦闘航空システムの一構成要素となる可能性が高いと考えられます。

 GCAPに関する首脳の共同声明にも、(次世代戦闘機が)「複数の領域を横断して機能する、より幅広い戦闘航空システムの中心的存在」になるという希望を、三か国が共有していると明記されています。

「イメージ」は用意されている

 防衛省やイギリス国防省などはGCAP計画の発表に伴い、次世代戦闘機の複数のイメージCGを公開しています。

 防衛省が過去に発表した次期戦闘機のイメージや、イギリス国防省やBAEシステムズなどが過去に発表したイメージに描かれた航空機は、エンジンを2基搭載し、ステルス性能を重視したデザインの双発機である点は共通していました。

 今回発表されたGCAPのイメージも双発機とステルス性能を重視したデザインという点は次期戦闘機とテンペストのイメージ画を踏襲しており、三か国が次世代戦闘機をステルス性能の高い双発機として志向していることは間違いないでしょう。

 GCAPに関する首脳共同声明には「三か国すべてが将来に渡り最先端の戦闘航空能力を設計、配備、アップグレードできる枠組みとした」と明記されています。

2022年のファンボロー・エアショーで展示された人工衛星と直接データのやり取りをするテンペストのイメージ(竹内 修撮影)。© 乗りものニュース 提供

 航空自衛隊とイギリス、イタリア両空軍の戦闘機に対する要求には差異がありますが、その差異を埋めるために各国が機体の設計に変更を加えるのは現実的ではなく、開発経費の圧縮や早期の実用化という共同開発のメリットを損ねてしまいます。

 このため機体を共通化した上で、航空自衛隊とイギリス、イタリア両空軍の戦闘システムに最適化し、かつ三か国が独自に開発した兵装の搭載を容易にするための、ソフトウェアの自由度を高めるという手法が採られるのではないかと筆者は思います。