<プーチンロシアは経済制裁で追い詰められていると言わ
れるが、制裁している国は欧米日など限られた国だけで実
際は制裁不参加の国が多く、無茶な脱炭素政策で自分の首
を絞めつつある欧米に対して、逆に割安なエネルギー資源
を武器にBRICS連合が形成されつつある、との見方を紹介
されています。これについては、どう思われますか。>


前半の「ロシアが経済制裁で追い詰められているか」につ
いては、これまで何度も触れてきました。

ロシアの友人、知人に聞くと、「実害があるのはインフレ
だけ」と答える。

その一方で、ウクライナ侵攻後、ロシアの自動車生産台数
は【96%減少した】という事実もあります。

私は、前々から書いていますが、制裁の影響は長期で見る
必要があります。

そして、今回の制裁は、【地獄の制裁だ】といいつづけて
います。

いずれ、数字でわかるようになるでしょう。

この問題、気になる方は、以下の記事も参考になさってく
ださい。

●生産台数96%減少の衝撃。露の自動車業界が経済制裁
で瀕死状態に↓
https://www.mag2.com/p/news/544857

●プーチンまた激怒。「二次的制裁」恐れ露を見放す覚悟
を決めた習近平↓
https://www.mag2.com/p/news/544526

●プーチンのハッタリ「経済制裁は効いていない」は大嘘。
ロシアに待ち受ける地獄↓
https://www.mag2.com/p/news/542847


というわけで、今回は「反米BRICS連合」について触れま
す。


▼BRICSとは


まず基本から抑えておきましょう。

BRICSとは何でしょうか?

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字で
すね。

BRICSという言葉は、いつ出てきたのでしょうか?

ゴールドマンサックスが2001年に出した、

『Building Better Global Economic BRICs』

というレポートがはじめです。

要するに、「ブラジル、ロシア、インド、中国は、これか
ら成長します。投資して大儲けしましょう」と。

この時点で、南アフリカは含まれていません。

さて、2003年頃から、アメリカとロシアの関係が急速に悪
化していきました。

理由は、二つあります。

一つは、ユコス事件。

アメリカ(エクソンモービルとシェブロンテキサコ)は、
ロシアの石油最大手ユコスを買収しようとした。

ところが、プーチンがユコス社長のホドルコフスキーを逮
捕させ、買収を阻止した。


もう一つは、旧ソ連諸国で次々と起こった革命。

03年ジョージア、04年ウクライナ、05年キルギスで革命
が起こっています。

プーチンは、「革命の背後にアメリカがいる!」と確信し
ていました。


プーチンは05年、アメリカと戦うことを決意。

中国と「事実上の同盟関係になること」を決断します。


「中国ロシア同盟」


今なら、誰も違和感を感じない言葉です。

しかし、「中ロ同盟」ができたのは、05年だったのです。

ちなみに私の2冊目の本のタイトルは、


「中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日」


といいます。

出版されたのは07年。

読まれた方からは、「全然古さを感じません」と褒められ
ます。

成立した中ロ同盟。

仮想敵は、もちろんアメリカです。

そして、中ロは「もっと仲間を増やそう」と考えました。

その為に、二つの方針ができました。


一つは、上海協力機構を反米の砦とすること。

もう一つは、BRICを反米の砦にすること。


09年、はじめてBRICの首脳会談が開かれました。

11年、南アフリカが加わり、BRICは、現在のBRICSにな
りました。


時代的背景も少し知っておく必要があるでしょう。

アメリカのイラク戦争は、

自衛戦争ではなく、

国連安保理の許可も得ていない、

という意味で、明らかに【 国際法違反の戦争 】でした。

国連安保理常任理事国のうちフランス、ロシア、中国がこ
の戦争に反対しています。

(フランスが反対というところが重要です。)

さらに、ドイツも反対でした。

それで当時、世界中で反米意識が、大いに高まっていたの
です。

「アメリカ一極世界は嫌だ!
多極世界を創ろう!」

という考えを支持する国がたくさんあった。

その核となったのが、BRICだったのです。


▼BRICSの実力


BRICSの実力は、どの程度なのでしょうか?

まず、気になるのは、世界人口1位中国と2位インドが入っ
ていることです。

BRICSの人口は、世界人口の約42%を占めています。

経済力は、どうでしょうか?

GDPで、中国は世界2位、インドは6位、ロシアは11位、
ブラジルは13位、南アフリカは33位。

こう見ると、BRICSの経済力は、中国とインド以外「たい
したことない」ことがわかります。

しかし、インドについてはこれからも成長をつづけ、近い
将来、「世界3大国」の一つになるでしょう。

「世界3大国」とは、アメリカ、中国、インドのことです。


▼反米BRICSの問題点


確かにBRICSには、大きな潜在力があるのでしょう。

しかし、「反米の砦」としての問題点もあります。

「一体化していない」ということ。

どういうことでしょうか?

一番大きな問題は、中国とインドの関係でしょう。

2020年5月、中印国境紛争が再燃。

20人のインド兵が死亡したことで、中印関係は最悪になり
ました。

それで、インドは、「反中包囲網」である「クアッド」
(=日本、アメリカ、インド、オーストラリア)
との関係を深化させたのです。

どうでしょう?

BRICSで、人口でも経済力でもナンバー2の実力をもつイン
ド。

そのインドは、「反中包囲網」クアッドのメンバーである。

そのBRICSが、「反米の砦」になり得るでしょうか?

(逆にいうと、「BRICS」や「上海協力機構」に参加し
ているインドがいる「クアッド」は、「反中包囲網」とし
て機能するのかという懸念が出てきます。)


さらに、BRICSは「反米の砦」といいますが、中国は
激安のロシア産石油を買う以外、特にロシアを助けていま
せん。

(激安の石油を買うのは、ロシアを助けるためではなく、
自国の利益のためでしょう。
ロシアを助けたいなら、国際市場価格並の値段で買えばい
い。)


これに関連して、
ダイヤモンドオンライン6月30日を見てみましょう。


<54カ国のデータを分析したピーターソン国際経済研究
所の調査レポート「Export controls against Russia are
working─with the help of China(ロシアに対する輸出規
制は中国の協力の下で機能している)」によると、

2月24日の侵攻開始からおよそ2カ月間で、制裁対象国の
ロシアへの輸出は約60%減少し、非制裁対象国の輸出は
約40%減少したという。

中でもロシアの友好国であり、ウクライナ戦争前の2021
年にはロシアの総輸入の4分の1を供給していた中国の対
ロ輸出も激減している。>


「制裁対象国」、たとえば欧米日の対ロシア輸出は60%
減少した。

「非制裁対象国」、たとえば中国、インド、中東、アフ
リカなどの対ロ輸出も40%減少している。

では、中国の対ロシア輸出は、どうなのでしょうか?


<「米国の輸出管理・制裁法では、中国企業がロシア向け
機密品の販売禁止に違反すると、重要な技術、商品、通貨
(主要な基軸通貨発行国は全て制裁に参加している)を入
手できなくなる可能性があるとされている。

中国の行動はこのリスクを反映している。侵攻後の対ロ輸
出は、2021年後半と比較して38%減少し、非制裁国の平均
と同水準となっている」(同レポート)>
(同上)


つまり中国は、「二次的制裁」を恐れて、ロシアへの輸出
を38%減らしている。

中国は、自国の利益を犠牲にしてまで、ロシアを助ける気
はさらさらないのです。


▼最大の問題は、「正義の喪失」


BRICS最大の問題は、「正義の喪失」だろうと思います。

かつてプーチンは、「イラク戦争は国際法違反だ!」と
アメリカを非難していました。

既述のように、これは「その通り」です。

世界中で一部の人が、「プーチンは、ナショナリストの英
雄だ」と考えています。

その大きな理由は、「プーチンがアメリカのイラク戦争は
国際法違反だ!」と堂々と主張したからです。


ところが2022年、プーチンはウクライナ侵略を命じました。

ロシア擁護派の人は、いろいろいいますが。

しかしこの問題、【国際法的】には、議論の余地はまった
くありません。

国際法で合法とみなされる戦争は二つしかありません。


一つは、自衛戦争です。

ウクライナは、ロシアを攻撃していないので、これは自衛
戦争ではありません。

しかし、ウクライナ側にとっては、自衛戦争なので合法的
戦争になります。


もう一つは、国連安保理が認めた戦争です。

たとえば、湾岸戦争は、安保理が認めた合法的戦争でした。

ロシアのウクライナ侵攻は、国連安保理が認めていません。


だから、ウクライナ戦争は、【100%国際法違反の戦争】な
のです。

かつて「イラク戦争は国際法違反だ!」と堂々と主張した
プーチン。

今彼は、自分自身が国際法違反の侵略戦争を開始した。

その時点でプーチンは、

「国際法を無視する悪いアメリカから世界を守る」

という「BRICSの正義」を失ったのです。


それでも、BRICSは首脳会議を開いたりしています。

最近では、6月24日、オンライン形式で首脳会談が行われ
ました。

首脳会談では、「BRICS拡大の可能性」についても、話
しあわれました。

そして、実際BRICS加盟国が増えていく可能性もありま
す。

しかし、加盟する国の狙いは、「経済的利益」でしょう。

つまり、「実利を求めて」入ってくる。

プーチンは、BRICSを「反米の砦」として利用したい。

ところが、彼自身が、「アメリカのイラク戦争と同じ悪の
行動」を選択したことで、

BRICS内でロシアの求心力が低下したのです。

現状ロシアを本当に支持している国は、二か国だけです。

北朝鮮とシリア。

そこそこ支持している国は、ベラルーシとエリトリア。

「制裁に参加していない国は多い」といいますが、

実際は、ほとんどすべての国が「二次的制裁を恐れて、事
実上制裁に参加させられている状況」なのです。


私は、この戦争が始まる前から、

「ロシアがウクライナとの戦闘に勝利しても、地獄の制裁
はつづいていく。

ロシアの戦略的敗北は不可避だ」

言いつづけてきました。

情勢は、予想通りに進んでいます。