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2017/07/11/Tue

■日中首脳会談で安倍首相は相槌を打ったか

G20サミットに出席のため訪独した安倍信三首相は七月八日、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った。

NHKによると、「両首脳は、共同声明や平和友好条約をはじめとするこれまでの日中間の合意を基礎としながら関係の改善を進め、安定的な関係構築を進めるとともに、両国の首脳どうしが、さまざまな国際会議の機会や将来的な2国間訪問を念頭に対話を強化していく」ことで「一致」したという。

やや楽観的な報じ方だが、それに対して産経新聞のそれは、そうでもない。

それによると、「対話の頻度を増やしていくことを成果とする向きもあるが、東シナ海や歴史問題、台湾などをめぐる相互不信は両国間に横たわったまま。日中をめぐる状況に変化の兆しは見えてこないのに、『関係改善』の言葉ばかりが先走る」という。そして「習氏は会談で、歴史問題や台湾問題をめぐり『少しの妥協もしてはならない』とも語った」とそうだ。

それでは、中国側はその時の模様をどう報道(政治宣伝)しているのだろうか。

国営新華社通信は、習近平氏が次のように発言したと強調している。

―――好い政治的基礎を維持することが中日関係の健全な発展の前提だ。国交正常化以来、中日双方は四つの政治的文書と四つの原則的共通認識で合意に達し、歴史、台湾などの問題を適切に処理する上での原則を確立した。これらの両国関係の政治的基礎に関わる重大な問題においてはいかなる妥協も許されないし、わずかな後退も更に許されない。このようにして日中関係は初めて、レールから外れることも、速度が落ちることもなくなるのである。日本には約束を守り、決まり通りにことを進めてほしい。

そして、その習近平氏に対して安倍晋三氏は、次の如く応じたと報じるのだ。

―――日本が一九七二年の日中共同声明で明らかにした台湾問題での立場に変化はない。

こうした報道を読む限り、「歴史問題や台湾問題をめぐり『少しの妥協もしてはならない』」と訴える習近平氏に対し、安倍氏が相槌を打ったかのような印象を受けるが、実際にはどうなのか。

■ヤクザ国家の中国が他国脅迫で用いる手口

習近平氏の発言の通り、日中関係の政治的基礎に関わるのが歴史問題と台湾問題であり、それらの「原則」を確立したのが「四つの政治文書と四つの原則的共通認識」であるというのが中国の定義なのだが、そもそも「四つの政治文書」とは何なのか。

それは?一九七二年の日中共同声明、?一九七九年の日中平和条約、?一九九八年の日中共同宣言、?二〇〇八年の日中共同声明だという。

そして「四つの原則的共通認識」だが、こちらは日中両国政府が二〇一四年、関係改善のために行った話し合いにおいて意見の一致を見た事項を書き記したものだ。日本政府の「日中関係の改善に向けた話合い」と題するメモランダムがそれに相当するが、中国側は一方的に「四つの・・・」などと厳かな文書名を考え出し、あたかも正式な外交文書であるかの如く扱っているのである。

なにしろそこには、歴史問題や尖閣諸島問題に関し、中国には都合の好い日本側の約束が文字化されているからだ。きっとこの「話し合い」では中国が相当日本側に譲歩を強いたのだろう。だからこの文書はちょうど、ヤクザが「約束は守ってもらおうか」などと後日の脅迫に利用できるよう、堅気に一筆書かせた念書のようなものなのだ。

「四つの政治文書」にしても基本的には同じようなものだ。だからこそ今回、習近平氏は安倍氏に対し、これら文書を振りかざしながら、「歴史、台湾に関わる約束を守り、決まり通りに事を進めてほしい」などと迫ったわけだ。

それでは日本はそれらを通じ、いったいどのような「約束」をしたというのか。

■日本を精神的属国らたらしめるための歴史問題

先ず「歴史」問題に関しての「約束」だが、それは以下のようなものなのだろう。

・日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。――日中共同声明(一九七二)

・双方は、過去を直視し歴史を正しく認識することが、日中関係を発展させる重要な基礎であると考える。日本側は、1972年の日中共同声明及び1995年8月15日の内閣総理大臣談話を遵守し、過去の一時期の中国への侵略によって中国国民に多大な災難と損害を与えた責任を痛感し、これに対し深い反省を表明した。中国側は、日本側が歴史の教訓に学び、平和発展の道を堅持することを希望する。双方は、この基礎の上に長きにわたる友好関係を発展させる。――日中共同宣言

・双方は、歴史を直視し、未来に向かい、日中「戦略的互恵関係」の新たな局面を絶えず切り開くことを決意し(中略)アジア太平洋及び世界の良き未来を共に創り上げていくことを宣言した。――日中共同声明(二〇〇八)

双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた。―――日中関係の改善に向けた話合い

以上のように、日本はこれらの文書を通じ、「過去を深く反省し、過去を直視する」と「約束」したという形が取られている(中国の圧力で、そうさせられたというべきだ)。

そして中国はそれを盾に取り、日本に譲歩、服従を延々と強い続けるのである。たとえば安倍氏が四月二十一日、靖国神社の春の例大祭に合わせて真榊を奉納し、中国側を激怒させた際、あの国の外交部報道官は次のような要求を行ってきた。

「日本は四つの政治文書の精神を守り、四つの原則的共通認識をしっかり履行し、自身の侵略の歴史を深刻に反省し、軍国主義との間ではっきり線引きを行い、実際の行動でアジア近隣国と国際社会の信頼を獲得するよう求める」

このようにして中国に対する贖罪意識を日本の政府、国民に扶植しようというのがあの国の対日外交戦略なのだ。もちろん狙いは日本をして、中国に従順な精神的属国たらしめることにある。

■日本は「一つの中国」原則を承認していないのだが

次に「台湾」問題に関してだが、中国は最近、台湾の蔡英文政権との関係強化を進める安倍政権を非常に警戒している。たとえば、日本の対台湾窓口機関「交流協会」が一月一日、「日本台湾交流協会」へと改称が決まった際、中国外交部の報道官は次のように非難した。

「我々は『二つの中国』『一つの中国、一つの台湾』を作り出そうとするいかなる企てにも断固反対し、日本の台湾問題における消極的な措置に強烈な不満を表明する。日本が中日共同声明で確定した原則と今日まで中国に対して行って来た約束を守り、『一つの中国』原則を堅持し、適切に台湾に関する問題を処理し、台湾と国際社会に誤ったシグナルを送り、中日関係に新たな障害を設けないよう求める」

要するに日本は一九七二年の日中共同声明などで、台湾を中国領土の一部とする「一つの中国」原則を受け入れ、その後もそれを守ると約束したというのが中国の言い分だ。

そこで、それが事実であるかを「四つの政治文書」などで見てみよう。

まず一九七二年の日中共同声明だが、日本はそこで「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」と表明し、承認する中国政府を従来の中華民国政府(内戦で敗退し、非領土である台湾へ遷った亡命政府)から中華人民共和国政府へと切り替えた。しかし、それに伴い台湾が中国の領土の一部と承認したかというと、それが違うのである。

同声明において中国が「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」とするのに対し、日本は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」すると表明するに留めているのだ。つまり中国の言う「一つの中国」原則という中国の「立場」は理解したし、尊重もするが、台湾が中国領土ではない以上、それを認めることだけはできないという意思表示なのである。

もっとも「一つの中国」原則の受け入れを求める中国の強引さに辟易し、「理解・尊重」という、一見して「承認」とも受け取れる玉虫色の表現を用いたのが仇となる。中国は同その表現を誇張、歪曲し、あたかも日本が「一つの中国」原則を承認、遵守すると約束したかのように宣伝するのである。

相手の念書に勝手な解釈を加えて悪用するヤクザさながらではないか。

■台湾問題に関して中国に従順だった日本

一方の日本は、ヤクザの前で委縮する堅気そのものだ。その後も中国の要求圧力を受け続けたのだろう。次のように誤解を招きかねない表明を何度も繰り返している。

・(一九七二年の)共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことを確認―――日中平和条約

・日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識を表明する―――日中共同宣言

※「中国は一つであるとの認識」とは「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であるとの認識」の意だが、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの認識」と誤解されやすい表現だ。

・台湾問題に関し、日本側は、日中共同声明において表明した立場を引き続き堅持する旨改めて表明した。―――日中共同声明(二〇〇八)

・双方は,日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。―――日中関係の改善に向けた話合い

このような感じで今回も、習近平氏は安倍首相に対し、「いかなる妥協も許されないし、わずかな後退も更に許されない」と迫り、それに対し安倍氏は「台湾問題での立場に変化はない」と、これまで通りの中国への従順な姿勢を示したかのような印象を、この新華社の報道(政治宣伝)からは受けるのである。

NHKも「両首脳は、共同声明や平和友好条約をはじめとするこれまでの日中間の合意を基礎としながら関係の改善を進め」ることで「一致」したなどとし、同じような印象を与えようとしているが、しかしそうした伝え方は、どこまでが真実かということを、今ここで問題にしている訳だ。

安倍氏がここで「日本が一九七二年の日中共同声明で明らかにした台湾問題での立場に変化はない」と答えたのだから、それは、「『一つの中国』原則という中国の「立場」は理解したし、尊重もするが、台湾が中国領土ではない以上、それを認めることだけはできない」という意味となる。

日本政府は従来、そうした表明を行うことで、精一杯の抵抗は見せて来たのだ。そしてそのような日本の本来の立場に立ちながら、従来になく日台関係の強化を進めているのが安倍政権なのだ。

■今は日本こそが妥協してはならない状況だ

靖国神社を参拝はしないが真榊奉納だけはするのと同様、「一つの中国」原則を尊重はするが、「一つの中国、一つの台湾」の現実を重要視する安倍政権。たしかに靖国参拝は実施すべきだし、「一つの中国」を明確に否定すべきであるが、しかしその都度中国側をいたく警戒させている。おそらく中国側は、同政権の中国への強い抵抗心をしっかりと見て取っているはずである。

こうした状況により、「歴史問題、台湾などをめぐる相互不信は両国間に横たわったまま」とする産経の報道こそが適切と言えよう。

ところで、日本人はあまりピンとこないようだが、なぜ中国は歴史問題と同様、台湾問題までも日中関係の政治的基礎と定義するのか。つまりこの問題で日本の譲歩を引き出そうというのか。

中国は日本に対し、歴史問題で精神的属国化を狙うとともに、台湾問題で正真正銘の属国化を狙っているということを知らなくてはならない。

日本に「一つの中国」を承認させ、日米同盟による台湾国防への支援を控えさせることで台湾を併呑し、そこを不沈空母としてアジア太平洋地域を自らの勢力圏にしてしまえば、日本はあの国の属国とならざるを得ないだろう。

歴史問題と台湾問題の上で、必ずしも中国の言いなりにはならない安倍政権。要するに中国による日本属国化戦略に抵抗しているということだ。「関係改善」が進まないのはそのためであり、それはむしろ喜ぶべきことではないだろうか。

日本こそ自らの存立のために「少しの妥協もしてはならない」のだ。何しろ相手は「軟土深掘」(相手の弱みにとことん付け込む)ヤクザ国家だからだ。
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