久しぶりにちゃんと映画を観た。
アル・パチーノが盲目の退役軍人を好演しているのだが、コイツが私以上に重くてめんどくさい男(フランク)だ。そして、ひょんなことから一人の高校生(チャーリー)が、彼の世話係をすることになる。この子もまた、ちょっとした悩みを抱えているのだ。

フランクは最終目的を秘して、チャーリーを散財の旅に同伴させる。とにかく頑固で、何事も命令口調。鞄を持て!酒を注げ!腕を掴むな!その度にうんざりしながらも仕方なく従うチャーリー。

しかし時間を共にするうち、二人は少しずつ「隙」を見せ合うようになる。チャーリーはフランクの絶望に、フランクはチャーリーの行き詰りに。すれ違っただけでは分からない互いの心の内側に、相手の手が触れていく。

旅の終盤、フランクはしばらく疎遠になっていた兄の家を尋ねる。食事の席で彼が親族から罵倒された時、チャーリーの中に、庇いたいような泣きたいような感情が湧きあがった。この人はそんなダメな人間じゃない!つい先日までフランクは見ず知らずの他人。だけどそんな彼の絶望に、チャーリーはいつの間にか、親族よりも近く寄り添うようになっていたのかもしれない。

最後に予定通り自殺を決行しようとするフランク。見過ごすことができずに必死で拳銃を奪おうとするチャーリー。すでに互いが、「どうでもいい人間」ではなくなっているのだった。

「お前には関係ない」

フランクが発するお決まりの言葉も、もはや以前のようには意味をなさない。結局、彼は自殺を思いとどまる。純朴な若者は、メンドウ・パチーノの鞄だけでなく、本当の荷物の方も少しだけ、一緒に持ってくれたのだ。
だからといって、フランクの目が見えるようになるわけでもなければ、過去の悲しい記憶が消えるわけでもない。荷物の重さは依然として変わらない。一気に目の前が拓けるような出来事は起こらない。それでも、小さな小さな兆しが訪れる。自宅に戻るフランクの背中からは、微かな希望の予感が漂っている。

もちろんフランクはお返しに、死んでいた魅力的な威力を発揮して、かっこよくチャーリーの荷物を取り除いてやるのだ。だけど、この映画のメインはそこではない。ドラマチックな場面に目を奪われては、作品の味が損なわれてしまう。
絶望していた男の人生に、偶然一人の若者が交錯する。決して特別なことじゃない。選ばれし二人でもない。人と人とが関わり合う、ごくごく自然な成り行きの中で、どうフランクの心が氷解していったのか。取り立てたエピソードではないほどの、その地味なドラマを見逃すな。




ブログ村のランキングに参加しています。応援クリックお願いします。↓
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村