自転車をこいでいる。

23:40…もう少しだ。今日までがレンタルの期限、あともうすぐで今日が終わってしまう。延滞料金を払うなんてごめんだ。ただでさえ今月はお金がないというのに!

いつも学校へ通う時に通る十字路に出た。ここからのダッシュが見せ場である。この十字路から坂までの一直線をどこまで加速するかで勝敗は決まるともいえる。脚に力が入る。

ふと横を見ると一台の車が横を走っていた。この時間、台数が少ない分車も一直線ともなると飛ばしている。無理もない。みんなぶっ飛ばしたくなる空気なのだ。モヤモヤをぶっ飛ばしたくてしょうがないのだ。

すると次の瞬間に車は思いもよらぬ方向へと進む。なんと反対車線に乗り越して近くの電柱にぶつかりそうなのだ。

危ない!と思った時にはもう爆発音が聞こえていた。車は燃えている。中に乗っていた人も無事ではないだろう。ただただその炎を観察してしまっていた。

その時、我に返ったように前方を確認した。すると前方には人影があった。人生最大の誤算だった。

勢いをつけた自転車は真っ正面からその人物に激突した。体は映画のようなコマ送りで宙を舞い、弧を描いた形で頭は地面に突き刺さった。

何故か地面に倒れている自分の姿を確認できた。近くに寄って腕時計を見る。23:42だった。そうだ、ぶつかった人は…。すぐに隣に目をずらした。

ぶつかった人は女の子だった。しかも結構可愛い。黒川智花に似ていた。天国で会ったら彼女にまず謝ろう。彼女の事を黒川さんと呼ぼう。そして彼女のメールアドレスをゲットしよう。

あ、そういえば、お父さんお母さん、先に逝っちゃってごめんなさい。その前にCD返せなくてごめんなさい。代わりに返しておいてください。

色んなことが頭を巡った。

すると突然、僕の目の前では白いもやが出来はじめた。もやは人の形になり、やがて女の子をかたどった。その姿は紛れもなく黒川智花似の彼女だった。

彼女は僕を見つめる。

「私がたまたま人間界に来たというのに…私に今ぶつかったのはお前か?名を名乗れ」

黒川さん、どうしちゃったんだろう。きっと頭を強打したに違いない。それとも元からこういう子だったのかな。

しかし、こういう時は丁寧に返してあげるのが女の子と仲良くなるコツだと聞いた。

「はい。わたくしがあなた様にぶつかったしまった浅野龍彦です。申し訳ありません。お許し下さい」

こんな感じで良いのだろうか。僕は少しずつ黒川さんの顔に目をやった。

すると彼女は何かを思いついたようで、笑って僕に言うのだった。

「そうだ!お前をつかってこれからゲームをしてやろう。それが私にぶつかった罰だ!」

「ん?ゲーム?だって俺もう死んでるよ?」
僕が言い返す頃には彼女は既にゲーム内容を決めていたようだった。

「お前はレンタルしてたCDを返さねばならないな?そこの店までは上り坂と下り坂だ。今からお前にはその距離を走ってもらう!」

「何言ってるんですか?」

黒川さんはまるで僕の話を聞いていないように話を続けた。

「ただし、各ポイントに制限時間を用意した。時間内にそのポイントまで辿り着かなければ…」

空気が一瞬止まる。まるでいつかのクイズ番組の司会者のようだ。

「その都度、私がお前の過去をめちゃくちゃにしてやろう!」

「え。あの~…どういう意味でしょうか?」少し間があった後に尋ねた。

「すぐわかるさ」と彼女はまた笑った。

そして黒川さんはまたすぐに何かを思いついた顔をした。

「そうだ。あそこで燃えてる車があるだろう?よく見ておけ」

そう言い放つと彼女は空に手を高くあげて何かを呟いた。

次の瞬間空から大きな雷が降ってきて車へと一直線に落ちていった。それはまるで大きな水が一滴蛇口からこぼれるような動作だった。僕はただ目を丸くしていた。

「もしお前がこのゲームに勝てばさっきの車も衝突する前の状態に戻してやろう。あ、そうだそうだ、その前に…」

彼女はまた何かを呟きはじめた。すると先ほどと同じ流れで雷が現れた。現れたと思ったらその雷はなんと僕の自転車へと落ちた。もちろん自転車は燃え尽き焦げていく。

黒川さんの顔はまだ笑っている。僕はやっと自分の立場がわかった気がした。

「お前…悪魔みたいなやつだな」

僕はもう、走るしかなくなったのだ。彼女はやっぱり笑って答えた。

「私か?たしかに悪魔だが」


僕も少し一緒に笑ってみたいと思った。

時計を見ると23:45だった。閉店時間はもちろん00:00だ。



ここから僕の15分間の戦いが始まる。



つづく

風が吹いていました

そんなに強くもない風が
私たちに向かって吹いていました

私は長く伸びた髪を
そのままなびかせていました

あなたは言葉の言えぬ植物の様に
その場で立ち竦んでいました

この日

私たちの恋は
海に投げ込まれました

今はその炎も火になって
間もなく消えようとする処

海はゆっくり二人の思い出を
飲み込んでいこうとするのでした


あなたのあの行動がなければ

急に海に向けて走り出して
私たちの恋を拾おうとします

何で?
最初に放り出したのはあなたなのに

あなたはやがて見つけます
まだ火は僅かに灯っていました

風に揺れても尚
その火は灯っていました

あなたは言いました

「まだこれ使えるんじゃないかな」

私は黙って頷きました
一緒に涙がこぼれました

涙は風を伝って海へ流れました

海は涙を飲み込んで
私たちの火を灯していました


甘えていた時を知る
今更になって思えば

悲しみは悲しくない

さよならの言葉には
ありがとうが入ってた

それに気づけたから
ボクはこの恋を終えられる

さよならをキミに向けて歌うよ