　網走から知床に向かった。網走は高倉健の「網走番外地♪」で有名だが案内者の戸祭氏はあまり、関心がなかったのかどこに寄ったかも記憶にない。多分素通りしたのかもしれない。

　夕刻、知床のユースホステルに着いた。

ここでは若い宿泊客が多く、夕食も一緒で最初から楽しい雰囲気だった。

手ごろなおかずになる魚も一人づつ与えられ、満足する内容だった。

夕食が終わった後、宿のマスターから話があり、ちょっとしたミーティングがあるので参加してほしいとの誘いがあった。

そこで話した会話などは覚えていないが、

会の終わりに、とても良い歌があるからみんなで歌って覚えていって欲しいとのことであった。

そこで初めて、みんなで歌ったのが「知床旅情の歌」であったのである。

京都で歌声喫茶が四条河原町にあったので何度も通ったものだが、この知床のユースホステルは正しくその歌声喫茶の雰囲気そのものだった。その歌も何度も繰り返して歌わされ、

私は完全にマスタできた。これがのちに私の持ち歌の一つになったことは言うまでもない。

これはのちに加藤登紀子がカバーしてからさらに有名になったのだが、もう一つ「琵琶湖周航

の歌」も彼女がカバーして全国的に知られるようになったのである。しかし、彼女がこの歌をリリースする前から私はこの二つの歌を知っており愛唱歌にしていたのだった。

　話しが飛ぶが岩手県の高校教員に採用されて赴任した最初の学校は軽米高校という

岩手県北の北上山地を越えたまさに人事上でのへき地であった。

実は更にその奥に私の最後の勤務地大野があったのである。

さて、その最初の高校での事も、この後書きたくなったがこの場所で私は

この二つの歌を人前で初めて歌うことになったのである。

　面白い学校で素朴で真面目な生徒達だったが茶目っ気もあった。

　親任式の次の日、生徒会主催の新任教職員歓迎会があるというので

小さな体育館に全校生徒と教職員が全員集合した。

この年は新採用の若い職員が５人もいた。しかしそのうち３人は臨時採用で

また採用試験を受ける身であった。（結果として３人全員翌年正式採用された）

　さて、歓迎会とは名ばかりで開会の挨拶でこの会は新人職員が

全員、壇上で一曲持ち歌を披露するという、とんでもない会であったのである。

「何が歓迎会だ！」そんなつぶやきが漏れ始めた。しかし、もうどうしようもない。

歌う順番は生年月日での順で私は２番目であった。

一番バッターは中里さんというやはり、新人だが彼は軽米の隣の円子という地元の人間だったので案外、気楽に滑り出した。彼は、面白い歌を歌ってやんやの喝采を受けた。

「♪雨が降れば風が吹き、風が吹けば山ができる　ヤホ・ヤホホホさびしい心

ヤホ・ヤホホホさびしい心・・」この歌を生徒に輪唱させるほどのゆとりが彼にはあった。

素朴で真面目でありながら大した演技力で圧倒された。

←これは現在の軽米高校での風景（ネットで拝借）

さて、いよいよ私の番であった。私も中里さんの演技を見て・・よし！と思って

歌う前に「これが歓迎会ならもう、覚悟しました。私は２曲歌います！」と宣言したのである。

　生徒もびっくりしたがそのタイミングで私は先ず京都から来たと言いながら母校の「琵琶湖周航歌」を歌いだした。５番まで歌ったかどうかは思い出せないが堂々と朗々と歌ったに違いない。生徒はシーンとして聞いてくれたが終わると割れんばかりの拍手が帰ってきた。

そして、その二曲目が「知床旅情の歌であったのである・・・・・。

　３番バッターは一戸さんという青森県の五所川原出身であった。彼も覚悟を決めたのか

故郷の民謡「津軽山歌」を朗々とゆっくりしたリズムで歌った。

　素晴らしい声量でこの後、私は彼とその前に歌った中里さんとは最高の親友になった。

一年後、担当した卒業生が「先生が歌った曲は全て有名になりましたね」としみじみ語ってくれた事が忘れられない。そう、彼らは私の歌ったこの二曲をその時、初めて聞いたのであった。

　それほど田舎の世界で育ち、人情味豊かで、素朴で真面目な生徒達が忘れられない・・・。

　話を知床に戻そう。

　次の日、我々は希望する者だけチャーターした船に乗って知床半島の先端まで行くことになった。途中の景色はカメラを持っていなかったのであまり、記憶がないが、このような滝があった気がする。

　到着して砂浜や背丈ほどの小さな樹々がある道を歩いていると

見た事が無い蝉が一杯鳴いていた。目の前で鳴いているのでそっと掴んでみたが

蝉は驚いた気配も見せずそのままジージーだか、カナカナだか・・鳴き続けている。

私は人慣れしていないこの大自然の中の蝉にもびっくりさせられた。

　さて、帰りの船で今度は魚釣りが始まった。一本釣りのようで初めての体験だったが挑戦した。針にエサをつけて船から錘で落とすだけの漁だが面白いように釣れた。結果的に私が一番大きなものを釣ったようだった、というのは、都会風の若い女性が近づいてきて「立派なお魚です事、私に触らせて下さらない・・」と話しかけてきたのである。

「どうぞどうぞ」と針に付いたまま魚をドキドキしながら手渡すと

後ろから「ではごめんなさい」という声がして、これまた若い男性が

彼女がお魚を誇らかに持った写真をパチリ・・・まあ、こんな事もあった事も忘れられない・・。

これらは今のネットから失礼

私達の釣ったお魚がこの日の夕食になったことは言うまでもない・・・。

さて、その時、誰かの携帯ラジオから全国の気象情報が聞こえてきた。

偶然この日、１９６６年８月３１日の全国で一番気温が高かった地点は

なんとこの知床半島で、摂氏３１度であったというのである。　続く

知床旅情２