　　自分が大野高校のkoutyou だった時、必ず書かなければならないものがあった。

　それは生徒会誌と図書館報と学校新聞であった。

　幸いなことにその冊子が手元に今も残っている。これも深い愛着なのであろう。

　学校新聞に書いた内容の一部は以前のブログでも書いたが今回は図書館報に書いたものを触れたい。高校生に向けて「絵本から読書が始まる」として書き始めたものである。

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この四月から社会人になる末娘と暮れから正月にかけていろんな話をすることがありました。

彼女は小さい頃に読んだ本を今でもよく覚えていてそれが共通の話題になりました。

その本はラッセル・E・エリクソンの「火曜日のごちそうはひきがえる」という絵本です。

　この内容はウォートン、モートンという二匹のひきがえるの兄弟が冬の土の中の居心地の良い家に住んでいるところから始まります。

　主人公のウォートンは家の中をいつもきれいにしている事が大好きな弟で兄のモートンは料理が大得意です。二匹の兄弟ひきがえるはお互いの良さを引き出しながら仲良く、楽しく暮らしています。

物語はある日、ウォートンが兄の反対を押し切って真冬にも拘らず、三、四日もかかる遠い場所に住む伯母さんにモートンの作ったカブトムシの砂糖菓子を届ける旅に出かける事に展開します。

真冬にひきがえるが雪の道を旅するということ自体が奇想天外なのですが、ウォートンはその冒険の途中で狩りをするジョージ（この名前は後でウォートンが付けてやったのですが）

というみみずくに捕まって森の中の一番大きい樫の木のてっぺん近くにある穴に連れていかれます。

そして、なんと五日後の火曜日はそのジョージの誕生日なので特別なごちそうとして食べられてしまう予定になってしまいます。

しかし、ウォートンはその絶望的な情況の中でも希望を失わず、自分の持ってきた、なけなしのお茶をジョージに勧めて一緒に飲みながら会話を続け、気難しい彼の心を解きほぐしていきます。

その会話のほのぼのとした温もりから読む側の私達も不安と共に、このみみずくは、もしかしたら、このひきがえるを食べないのではないかとという少しばかりの期待がふくらんできます。ウォートン自身も、もしかしたら・・・という気持ちを持つこともありました。

それでも自力で脱出するために自分のセーターをほどいて、縄ばしごに作り替えようとその準備をします。

しかし、それをみみずくが発見してしまいます。

その場面が印象的なので少し引用します。

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　みみずくの黄色い目がふとウォートンのリュックの中にある毛糸で作った梯子にとまります。

「ふむ・・・・」みみずくは梯子（はしご）をリュックから引っ張り出しました。

「ふむ・・・ふむ・・・ふむ・・・・」梯子を掴んだまま、みみずくは入り口まで歩いていきました。

「ふむ・・・ふむ・・・ふむ・・・・ふむ・・・・・」

そして梯子は入り口から風に吹き飛ばされて飛んで行ってしまいました。

その夜、みみずくは一言も口をききませんでした。

このみみずくの「ふむ・・・ふむ・・・」が何故か分かると私の娘はいうのです。

　さて、最後の希望も失ったはずのウォートンでしたが次の日、友達のネズミに助け出されて地上に脱出することが出来ます。

その逃避行の途中でウォートンたちは雪の中で狐に襲われてもがいているジョージを発見します。

そして、自分が食べられてしまう相手であるそのみみずくをネズミたちと一緒になって救出してしまうのです。

　そしてその後の会話が又、ジンときます。

　傷ついたジョージが「やあ、いぼいぼ（ここまでみみずくはウォートンをこう呼んでいます）」

と言いながら

「ここで何しているんだね？」とたずねます。

「逃げてるところです」

「逃げてるところだって？一体誰から？」

「あなたからです。今日は貴方の誕生日で僕を食べる事になってたんでしょう？特別のごちそうに」

「書置きを見なかったのかね」

「僕・・・・・僕、急いでいたもんだから」

「ふむ、あれを読んだら、わしがすぐ戻ってくることがわかったのにな。いいものをもって」

・・・・・「ネズの実のお茶が大好きといっただろう？」・・・

「でも、どうして・・・・・僕のためにネズの実を摘もうとしたんですか。はじめから僕を食べるつもりなんか、なかったんですか？」

「勿論、食べるつもりだった・・・・昨日の夜まではな。

それが・・・・・お前さんとのおしゃべりの事なんかが頭に浮かんで寝付かれなかったんだ。

それで、友達がいるものそんなに悪くないと思ったんだ。

つまり・・・友達なんか、もちろん必要ではないが・・・・その・・・・

もし、友達を持つとしたら・・・お前さんのような友達がいいよ・・・・ウォートン」

　ウォートンは頭がぼおっとしました。胸のずっと奥からあついものがこみ上げてきました。

「友達になろうっていうんですね？」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みみずくはうなずきました。

　生徒の皆さんも幼児の頃、お父さん、お母さんから絵本を読んでもらったり、又、おじいさん、おばあさんから昔話を聞いたりしたことがあったと思います。

　幼児の頃のそうした体験は人間として必要な感性を培っていくものだと思います。

　この物語のように、本来は食うか食われるかという敵対関係にある、みみずくとひきがえるが最期は和解して最高の友達になるというストーリー　　

それ自体が子供の絵本である所以だとも思われます。

しかし、私の娘は今でもこの本が大好きだと言っています。

　彼女は先に挙げたみみずくの「ふむふむ・・・・」と

考え込むところに食べる側のみみずくの迷いを感じると言います。

弱者を食べる側の迷い・・・このような思いが今、地球上で行われている戦争や民族紛争の当事者の間で、少しでも思い起こされるのなら、もしかしたら、

人間の未来はそんなに暗いものではないかもしれないと思われてきました。　おわり

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　これは平成１６年３月１日発行の

岩手県立大野高等学校図書館報「いしずえ」に発表したものです。