　川ばたの九助が大和にかくれもない綿商人になった話を前回、書いたが

「木綿以前の事」という柳田国男の論文を思い出した。

柳田国男　　　　　　　

　この本を処分したので原文を読み返すことが出来ないが、高校の日本史の授業で何度も取り上げたので

辛うじてその内容は再現できる。

　その内容の肝心なことは木綿が江戸時代に多くの庶民に普及されて以来、

日本人はその性格や資質が大きく変わったという事である。それは次の点である。

①木綿以前の日本人の着ていたものは麻布（苧・・からむし）で編まれたものであった事。

　麻布は繊維が荒く、夏は直接肌に触れている農民などが農作業の時ゴワゴワしてして

　皮膚を刺激し流れ出る汗を吸収　しなかった。その為、汗が背中を流れていくとき何とも言えぬ

　不快な気分になった。

　そのため、多くの日本人は気が短く、些細なことで喧嘩したりすることが多かったという。

　しかし、木綿を身につけるとその肌に優しい柔らかさと汗をしっかり吸い取ってくれる素材で　

　あった事から彼らの気性も穏やかになり、喧嘩や争いも少なくなったというのだ。

　　　麻布　　　　木綿布

②麻布は麻色というようにどんなに染料で染めようとしてもなかなか染める事が出来なかった　

　が木綿は染色が自在でどんな色にも染める事が出来たのである。

その為、元禄時代には女性が華麗な衣装をまとうことが出来るようになった。

これによって日本人の色彩感覚は発達し、浮世絵を飾る○○美人が街をいそいそと歩く姿が見られるようになった。

　菱川師宣

「見返り美人図」

　さて、昨日、盛岡の姉様に身欠きにしんを食べたいと言ったら今日の朝にはもう届き、

昼食に頂いたが、もう、その味は言うにも言えない美味しさで病気も治る気分である。只々感謝した

姉様がその時言っていたのは５人兄弟の末っ子で生まれた自分を母親は猫かわいがりしていて、昼を過ぎても野良遊びをして帰ってこない私の為に帰って来るなり、捕まえて皮を取っていた身欠きにしんを口に入れて食べさせたというのである。

　身欠きにしんは当時も高価なもので３人の姉様たちはそれを見ていても自分達は食べさせられなかったという。

「あんたが７５歳になっても虫歯がないのは、そのお蔭なんだよ。母さんに感謝しなさい！」

今日もそういわれたが病気も吹っ飛んでしまそうなほど美味だった・・・。

鰊(なま)　　身欠きにしん

　さて、その鰊と木綿の関係だが、川ばたの九助のエピソードのように江戸時代に木綿が河内や大和の西国で栽培されるようになり庶民にもその恩恵が普及するまでは木綿は朝鮮半島などから輸入する高価な布地だった。

この木綿は栽培する際に大量の肥料が必要であり、それまでは日本では栽培が殆んど出来なかったのである。

　それを一変させたのは北前船による蝦夷地との交易である。

　アイヌが住む蝦夷地（北海道）は鮭や昆布、鰊などの海産物がほぼ、無尽蔵に捕れたのである。北前船で日本海を北上して現地に到着した商人たちの中には松前藩と結んでアイヌから悪徳商法で搾取したので、シャクシャインの反乱などが起きたりした。幕府もこれを憂えてついには蝦夷地を松前藩から取り上げ直轄地にした。（ロシア船の襲撃等もあった・・。）

　さて、北前船は往路には関西から米、酒、砂糖、塩、衣服の古着、煙草、ローソクなどの商品を持ち込み、

復路には昆布や身欠き鰊、鰊粕（これが木綿の肥料）、干鰯、干しナマコ、数の子などの海産物を満載して帰帆した。その鰊（鰊粕）が木綿栽培の最高の肥料となったのである。

それまでは九十九里浜の地引網で大量に捕れる鰯を干した干鰯（ほしか）が肥料であったが

関東から仕入れるには距離があったので非常な高値であった。

これは金肥といわれ、人糞尿などに比べると経費が高く農民はなかなか手が出せなかったのである。

しかし、北前船は鰊（鰊粕）を直接関西まで運ぶことが出来たので

多くの農家にとってこれは最大のチャンスとなった。

　これによって大和や河内などでの木綿栽培は一気に開花し、

先の綿商人も在郷商人として登場し、木綿は日本人の着る最高の布地になったのである。

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余談だが　

私は大学時代を京都で過ごしたが、京都の名物に、ニシンそばがある事を不思議に思っていた。

京都四条の南座でその鰊そばを食べたがとても美味だったことを覚えている。

東北ではいつも鰊を食べていたのになぜ、このメニューが無いのか訝ったりした。

また、昆布についても関西人特に大阪では昆布はあらゆる料理に不可欠なものである事が分かった。

また、昆布の佃煮は東北でも作られ食べているが、関西のそれは極めて高価である。

家内の実家が大阪であるので新婚時代に里帰りした時、嫁さんの実家からお土産に桐の箱に入った昆布の佃煮が持たされて私の両親に持っていたことがある。

箱を開けてみた母親が「なんだ昆布の佃煮か・・」と呟いたので

私はすかさず「これは１万円以上もする高価なものなんだよ！」と叫んだことを思い出す。

同じニシンや昆布でも、先進地の上方ではその付加価値のつけ方が遥かに進んでいたという事だろうか・・・。

それほど東北と関西の文化は違うことを実感したものであった・・・。

　高級な昆布の佃煮　　　　　　ニシンそば

木綿栽培と鰊