あれは彼がまだ二十歳だったときのこと。電話の向こうで彼女はこう言ったんだ。
「男だったら、走らなきゃ」
そう、その時、彼は確かに諦めた。走るのをやめて引き返した。どうせ間に合わない、と思ったんだ。
彼女は彼に最後まで走って欲しかったのだろう。だけど、彼は、、、。
走るのをやめた彼はもはや「男」ではなく、こうして彼は大切な人を失った。
だから彼はこの時決めた。これからは絶対走り切る、と。「男」として生きるために。
「男だったら走らなきゃ」
彼の心の奥に深く刻まれて消えない大切な言葉。この言葉を糧に今日も彼は生きている。
彼はふと思う。彼女、元気で幸せに暮らしているかなぁ。そうだといいなぁ、と強く願う。