+欲望神ムンマの神子を巡る話+

四女神のうち、欲望を司る神、ムンマは荒れ果てた海の果てに氷と水晶でできた神殿を持っていた、そしてそこに愛らしい少年を一人、神子として仕えさせていた。
少年はムンマがまだ神ではなく人であった時代に実らぬ恋をしていた男に売り二つの姿をしていた。
そのため四女神の中で最も欲望に忠実であるムンマに、砂漠の集落から拐われたのだった。

砂漠に住む少年の母はたった一人の息子を連れ去られた事に嘆き悲しみ、その涙は砂漠に湖を作った。
やがてその湖の辺りに木が生えた。その木に止まった梟が言う
『私の木で人形を作りなさい』
木を切り、母は幾日もかけて一体の人形を作った。すると人形は言うのだ
『私を湖で沐浴させて』
母は人形を湖に連れていく、すると人形は母の手を離れ、湖へと落ちて沈んで行った。

時を同じくして、ムンマの神殿で神子をしていた少年が、水晶の桶で氷を溶かしていた。
氷を溶かすたびに手が霜焼けで赤くはれ、少年は涙をこらえていたが、ついに一粒、涙が零れた。

すると突然水晶の桶が光、愛らしい少女が現れた。
少女は少年の手をとり、歌いながら神殿から逃げ出した。
+古代より伝わる神の歌+


世界には4人の神様がいます。
愛を司る神様は、月の光に鳥の羽、いつでも朝靄のかかる湖にすむ神様。
愛しき者を護るため、世界に光をもたらした。

希望を司る神様は、繁る蔦に鹿の角。森の奥にすむ神様。
希望を人が忘れぬように、世界に風をもたらした。

勇気を司る神様は、金の剣に虎の皮。燃える砂漠を駆ける神様。
勇気ある者を試すため、世界に闇をもたらした

欲を司る神様は、凍れる焔に蛇の毒。荒れ狂う波を従える神様。
人が欲を忘れぬように世界に炎をもたらした



……これは天地創造神の時代より後の時代に作られた歌を訳したものである。
この歌が作られた時代は人が文字をもつより以前であるため、歌は口伝えでのみ広がって行ったとされる。
天地創造神話の後に広がって行った四神信仰は、各地に神話を数多く残した。
もっとも有名なのは四神信仰後期のものとされる話を集めた『四女神神話集』であろう。これには初期に見られなかった神殿の神子の話や侍女達の話もある。