上様はご立腹であらせられる。
先刻の件でござる。
入山と川栄を斬りつけた慮外ものの
首を刎ねよ。
そう申されてな。
わしが承服しかねていると、竜兵衛が買って出た。
上様はけげんそうな顔をしたが、これを任じたのじゃ。
民草の励みを奪った所業故の成敗致し方なし。
わしも符を出そう。
これよりも不届きものが現れぬとは限らぬ故、
方策を巡らさねばならんのじゃ。
所持品の検めや警護の者を増やすばかりでは手間も金も
かかる。決して有効な手立てではなさそうじゃな。
人員や陣立ての配置に気配りするべきか。
武に秀でた当家自慢の鎧武者を直近に付き添わせるか。
まずは心身ともに安寧に時を過ごせる自負が欲しいものよ。
番犬、番猫、番牛、番馬、番鳥、番魚を行列の視界に構えることで、
敵対心など和ませようとするのもひとつ。奇策じゃが。
御家中の士気を考慮すると東北への出陣は当面慎むべきかと。
信長様はお気の短いお方じゃ。二度と失敗は許されまい。
傷を負われた皆々の快方と早い復帰を願うばかりじゃ。
~信太~