蕎麦は大好物であるが、蕎麦屋でランチを食べることは少ない。大抵の蕎麦屋ではバランスの良い食事を摂るためには蕎麦の他に、サイドメニューを別にオーダーする必要があり、どうしてもこれらは酒飲みのために用意されている品々が多いからだ。もちろん、第1回で取り上げたソバキチや街場の蕎麦屋では天丼やカツ丼とのセットメニューも提供しているが、大抵の場合、そのような店では美味しい蕎麦にありつくことは難しい(炭水化物のオンパレードになる点も気になる)。この点、赤坂にあるNagaraは理想的な蕎麦ランチセットを供してくれていたのだが、丸の内からは赤坂にランチを食べに行くのはあまり現実的でない。

新丸ビル5階にある石月も立地上、酒肴を中心として客単価を上げる必要があるが故だろうか、ランチタイムに魅力あるメニューを提供することがなく、興味を惹かれることがなかった。たしかに2,000円、または3,000円の「ご膳」を注文すれば、てんぷらなど蕎麦以外の料理も供されるが、この価格なら他に行くべき店は多いと思われる。

この日は軽めのランチを食べに、空席が目立つ石月に入店してみた。入ったときは落ち着いた良い客層だと思ったのだが、3分後には14名連れの50代から60代と思しきおばちゃんの観光客の団体が入店し、雰囲気は一気に損なわれた。これは店の落ち度ではないので、いたしかたあるまい。

注文したのはもりそば(750円)の大盛(+300円)、これで通常の1.5倍の量になるとのこと。さらに多く食べたい場合は、大盛ではなくお替り(+600円)も選択できる。しばらくして運ばれてきた蕎麦を見ておどろいた。量がとても多いのである。赤坂の砂場のように下が透けるほど少ないのも困るが、反面、これほど多量の蕎麦を出すお店で、すごく美味であることは稀だ。美味でも少量では腹持ちが悪いし、大盛でもまずい蕎麦は食べたくない、というアンビバレント。

そば二八で、麺は細め。ツユはやや辛口で、それほど悪くないのだが、蕎麦自体の香りはそれほど豊かではないようだった。入り口に本日使用のそば粉の原産地(北海道)などが表示してあったが、それほど魅力的な蕎麦を提供しているようには思えなかった。Nagaraの他、観世庵、砂場など名店が多い赤坂の各店と比べると、魅力に乏しいが、昼前に満席になるほどの集客は、ひとえに立地の故か(とはいえ、7階と比べればはるかにマシな蕎麦を提供)。夜は酒のつまみが中心になるようであるが、喫煙が可能ということで、積極的に訪れる理由に乏しい。


手打ちそば 石月

東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル5階

.03-5879-468