「(モーツァルトに関して)その音楽については、あまりに多くのことが語られすぎた。我々の間でも、小林秀雄氏の名著があらわれて以来、さまざまなモー
ツァルト伝説が生まれている。人々は一人の「無意識の天才」について書き、音の世界にだけ生きた、神秘的な音楽家を空想した。そういう空想は楽しいだろ
う。しかし、モーツァルトの純粋さということを口にする時に、むしろ、人は、不純な文学的空想を楽しんでいるのではないか。私は、そのような純粋さを信じ
ない。もし、芸術で、純粋さというものが問題になるならば、それは、太陽の光が、すべての色を含みながら、透明の白光に輝くような、そうした純粋さだけで
ある。モーツァルトの音楽には、そういう純粋さに達する多くの瞬間がある。」