唇を奪われた瞬間の感触が、まだ湊の中に残っていた。

冷たく、それでいて熱を持つ矛盾した感触。

 

「お前、本当に……ふざけるなよ」

 

湊は怒りを押し殺しながらアレクセイを睨みつける。

しかし、ロシアの男は余裕の笑みを崩さない。

 

「何をそんなに怒ってるんだ?ただの口づけだろう」

 

「ただの……?!」

 

湊の顔が微かに紅潮する。

アレクセイはその様子を見て、ますます楽しそうに笑った。

 

「お前って本当に素直じゃないよな。そういうところがまた……そそるんだけど」

 

「ッ……!」

 

湊は拳を握りしめ、思わず一歩踏み込む。

だが、アレクセイはそれよりも早く、湊の細い手首をつかんだ。

 

「離せ!」

 

「いやだね。お前が俺のものになるまで」

 

「……何を言っている」

 

湊は目を見開く。

今の言葉が冗談なのか、本気なのかわからなかった。

 

「なあ、湊。俺たちはずっと争い続けてきたよな?」

 

アレクセイはそのまま湊の腕を引き寄せ、自分の胸に抱きこむ。

筋肉質な体が湊の華奢な体を包み込むように密着する。

 

「だがな、戦いってのは、憎しみだけで成り立つものじゃない。

 相手を知り、理解し、支配したいという欲望も、そこにはあるんだ」

 

「……支配、だと?」

 

「そうだ」

 

アレクセイの声が耳元で囁く。

 

「お前は俺にとって、ずっと手に入らない美しい獲物だった」

 

「ッ……!」

 

「だが、もう逃がさない。

 お前がどれだけ俺に反抗しようと、俺はお前を支配してみせる。」

 

湊の背筋がぞくりと震えた。

 

一一支配。

 

その言葉に、恐怖と、抗えない甘い期待が入り混じる。

 

「……ふざけるな」

 

湊は精一杯の抵抗を見せ、アレクセイの胸を押し返そうとする。

だが、その腕の力は強く、湊の抵抗など無意味だった。

 

「湊……俺はお前を壊したい」

 

「ッ……!」

 

「お前のその強がりを、プライドを、すべて俺の手で崩したい。

 そして、お前が俺以外の誰にも屈しないまま…俺のものになればいい」

 

湊の呼吸が乱れる。

ロシアの冷たい瞳が、まるで湊の心の奥底を見透かしているようだった。

 

「俺は……お前には負けない……!」

 

そう言いながらも、湊の身体は熱を持ち始めていた。

アレクセイはそんな湊を見て、満足そうに微笑む。

 

「いいね、もっとその顔を見せてくれ」

 

そして一一再び、唇が重なった。

 

 

continue…